第448話 森への話をハンネスさんにしました



「では、タクミ様、クレアお嬢様、レオ様がお住みになる家は、そのように。費用は……本当によろしいので?」

「はい。自分で費用も出さないというのは、心苦しいので……」

「畏まりました……」

「タクミ殿は、慎み深いのだな……。遠慮せず、任せれば良いのに」


 結局、何も決まらない話の途中でセバスチャンさんが加わり、複数人が住めるそれなりの大きさで、レオがある程度自由に動けるくらいの家……という事になった。

 まだどれだけの大きさか、はっきりとイメージできなくて不安があるが、セバスチャンさんだから大丈夫だろう……と思いたい。

 費用の方は、クレアさんや使用人が住むのだからと、引かなかったエッケンハルトさんだが、俺やレオも住むのだし、俺がやり始める薬草畑のため……という事で、半分負担という事になった。

 まだ建て始めてすらいないので、はっきりとした費用はわからないが、予想される金額を聞いて、一応は払える額だと安心。


 費用の多さに、ハンネスさんは驚いていたが……まぁ、薬草を卸して大分お金が余ってるからなぁ。

 リーザの事以外に多く使う予定もないし、これからも薬草を作っていくのなら金欠になる事もないだろう。

 雇った人達への給料も、しばらく払えるだけのお金も残りそうだしな。


「慎み深いとかではなく、全部公爵家お世話してもらうとなったら、さすがに頼り過ぎだと思っただけですよ?」

「そうか? 私がやると言っているのだから、それでいいと思うんだがなぁ?」

「お父様、人によっては過度な期待と感じて、潰れてしまう者もおります。適度に、というのがよろしいかと思いますよ?」

「まぁ、そうか。わかった。それでは、タクミ殿の要望通りに、費用は折半という事にしよう」


 この世界では、あまり遠慮するという感覚はあまり馴染みがないのか、不思議そうな顔をしているエッケンハルトさん。

 甘えられる相手には甘えておけ……という感覚かもしれないが、俺には馴染みそうにないなぁ。

 クレアさんの言っているように、公爵家から期待されてると受け取り、失敗したら……とプレッシャーに押しつぶされてしまう人もいるにはいるようだ。

 権力者からの過度な期待というのは、時に重圧になる事もあるからなぁ。


 そこまでの事を深く考えないようにしているのか、それともそもそもに考えていないのか……クレアさんに注意されているエッケンハルトさんは、確かに上流階級なんだろうなと納得した。

 いつかクレアさんも、当主を受け継いだら、同じようになるんだろうか……?


「それとタクミ様。森へ行くのは明後日になる手筈ですが、よろしいでしょうか?」

「明後日ですか? はい、わかりました。――レオ、聞いたか?」

「ワフ! ワウワウ?」

「キュゥ……」


 住む家の話が終わったところで、セバスチャンさんから森へ行く予定の確認。

 明後日か……多分だが、明日はハンネスさんを見送って、準備をする時間とするんだろうな。

 セバスチャンさんに承諾するよう頷いた後、少し離れてるレオへ声をかける。

 さっさと食事を終えていたレオは、話を聞いていたらしく、すぐに頷いて答え、シェリーへ窺うように顔を向けた。


 多分「実戦だぞ?」とでも言ってるんだろう。

 シェリーは、いよいよ実戦をする事になると、意気消沈した様子で渋々頷いていたが……大丈夫かな?

 レオによるシェリーのダイエット計画と、フェンリルとしての勘を取り戻すためらしいが……まぁ、危険だったらレオがなんとかするだろう。

 俺やエッケンハルトさん、護衛さん達もいるしな。


「森というのは、フェンリルの森の事ですかな?」

「ハンネスさん、知ってるんですか?」

「はい。行った事はありませんが……あまり遠い場所ではありませんので、話くらいは」


 俺やセバスチャンさんが、森と言って話しているのを聞いて、ハンネスさんがふと声を上げた。

 そういえば、あの森はフェンリルの森って言われてたか。

 あまり奥まで人が入らない場所らしいし、ハンネスさんが行った事がないのも頷けるが、それなりに有名らしい。


「……危険ではないのですか?」

「あー、確かに普通の人間には危険な森だな。フェンリルはあまり確認されていないが、シェリーはそこの森から拾って来たのだし、いるのは間違いない。それに、オークはよく見かけるうえ、トロルドなどの他の魔物もいるしな」


 ハンネスさんの心配はもっともだ。

 オークでさえ、油断したら怪我をする相手なのに、トロルドも以前発見したし、フェンリルも同様。

 それらの魔物がいる森へ人間が行くというのは、いくら護衛が付いているといっても、危険な事には変わりない。

 というより、普通は近付かないか……怖いもんな。


 エッケンハルトさんが、ハンネスさんの心配に頷きながら、森の危険性を承知しているとしながら、それらの危険も大した事ないと説明。

 レオがいる事で、フェンリルは敵対しない事。

 さらに、レオがいる事で、オークどころかトロルドも相手にならない事などを説明。

 フェンリルが敵対しないというのは、初めて森へ行く時レオが言った事だな。


 シルバーフェンリルに相対したフェンリルは、本能で服従する。

 それに逆らい、襲ってきたとしても、レオにとっては雑魚だとかも言ってたか。

 トロルドに関しては、実際森の中であっさり倒してたし、ランジ村に向かう時にも、俺の目の前であっさり倒した。

 あの光景は、子供が見たら泣き出しそうだったが……。


「そうですか……レオ様が……」

「うむ。レオ様がいる事で、危険な森も安全になる。もちろん、頼ってばかりではなく、こちら側も護衛を連れて行くし、細心の注意は払うがな……そもそもの目的は、レオ様に頼る事ではなくティルラに……」


 安全性と一緒に、森への目的も話すエッケンハルトさん。

 そこまで話す必要が……? とは思ったが、ランジ村やラクトスに近い屋敷にいるティルラちゃんを、自慢するためのようだ。

 一応、オークを討ち取れるくらいの実力を持った、領主側の人間が近くにいるという事も、領民の安心感につながるから……とは後でセバスチャンさんに教えられた。

 ランジ村はオークに襲われてまだあまり時間が経っていないため、その話は安心感をもたらすのに十分な役目がある、らしい。



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