第442話 住む場所という事を考えていませんでした



「タクミ様は大丈夫なのですが……その、レオ様が……」

「ワフ?」

「ふむ。家の大きさか」


 俺を見た後、視線をずらしてロザリーちゃんといるレオの方を見るハンネスさん。

 自分が見られた事で、再びこちらを向いて首を傾げるレオ。


「確かに、タクミ殿だけならまだしも、レオ様も住むとなれば、大きな家が必要だな」

「あー……確かに、そうですね……」

「なんだ、タクミ殿。考えてなかったのか?」

「あはははは……はい……」

「タクミ殿も、抜けている所があるのだな……」


 むぅ、エッケンハルトさんに抜けてると言われてしまった……。

 ハンネスさんも、頭をかきながら頷く俺を苦笑して見ている……クレアさんも。

 だが今回は、確かにその通りで、レオが住む場所……というよりも、スペースの事を考えてなかった俺が抜けてると言わざるを得ない。

 屋敷は十分過ぎる程の広さがあるため、あまり気にしてないが、確かにラクトスに行くとレオは大きすぎて店には入れないからな。

 もしかすると、屋敷に慣れ過ぎた事と、以前のように小さい頃のイメージがあるからかもな。

 マルチーズの大きさなら、スペースなんて一切気にしなかったのに……。

 

「まぁ、その事なら心配するな。畑を予定している場所の近くに、家を建てる予定だからな。村長の許可が下りれば、すぐに取り掛かるよう準備していたのだ」


 この事は、既にエッケンハルトさんによって考えられてた事のようで、元々準備していたらしい。

 けど……。


「あの~家を建てる費用とかは、どうなるんですか?」


 考えてなかった事に、少し体を小さくさせて恐縮しながらも、手を上げてエッケンハルトさんへ聞く。

 お金に関しては、薬草を公爵家に継続して卸しているし、なんとかなるとは思う……けどあまり、費用が高すぎるのはなぁ……しがないサラリーマンだった俺にとっては、気後れしてしまいそうだ。

 相手は公爵家だし、とんでもない屋敷を建ててしまいそうだしなぁ。

 例えば……この屋敷のような大きさとか? 大きすぎて自分の家とは思えなさそうだ。


「それについても心配ない。クレアも住む事になるのだから、公爵家で持とう。どーんとデカイ屋敷を作る予定だ」

「え?」

「お父様、私は普通の家でも十分ですと、前に言ったはずですが?」

「……クレア様も、というのは?」


 エッケンハルトさんの言葉で、俺の目が点になり、クレアさんは不満顔、ハンネスさんは首を傾げてよくわかっていない表情だ。

 少し話しただけで、これだけ皆に色んな表情をさせるエッケンハルトさんは、さすが公爵様だなぁ……とか考えてる場合じゃない!


「いやいやいや、大きな屋敷までは必要ないですよ! レオが不自由しない程度で! それに、全て費用を持ってもらうのも、気が引けます!」

「タクミ殿なら、そう言うとは思っていたがな……だが、クレアだぞ? クレアが小さな家で満足するはずがあるまい?」

「お父様、私をどこぞの令嬢と一緒にしないで下さい。私は、普通の家でもやっていけます」


 勢い込んで、エッケンハルトさんに言い募る俺。

 ハンネスさんがポカンとしてるが、この際それは置いておこう。

 この屋敷みたいな大きな家でしかも、公爵家に費用を持たれたら、自分の家という気がしないし、多分あまり落ち着かない。

 エッケンハルトさんとしては、クレアさんに小さな家で住まわせたくないようだが、当の本人は不満顔で文句を言ってる。


「だがなクレア。料理を含めた家事はできないだろう? 今まで使用人が全てをやっていたのだ」

「それくらい……ランジ村に行くまでに習います!」

「どう思う、タクミ殿?」

「え? そこで俺に聞きますか? えっと……すぐには、無理かなぁ……と」

「タクミさん!?」


 今まで使用人に囲まれて育って来たクレアさん。

 当然、現状では家事をする事はできないから、というのがエッケンハルトさんの主張。

 対してクレアさんは、今からでも家事を習って、ランジ村に行くまでの間にできるようになると主張する。

 俺に飛んで来た質問を考え……クレアさんには悪いと思ったが、できないと考えた。

 クレアさんからの視線が痛いが、こればかりはなぁ……。


「いえ、その……クレアさんがずっと家事をできないとは、言ってませんよ?」

「だったら……どうしてですか?」


 エッケンハルトさんだけなら、過保護だとか、いつもの事で済まされるが、俺にまで否定されて、ちょっと泣きそうな表情のクレアさん。

 もしかしたら、女性として家事ができないと思われたくない……と考えているのかもしれないし、ちょっとかわいそうだと思うけど、実現は難しそうなんだよなぁ。


「クレアさん、どうやって家事を覚えるつもりですか?」

「それは……この屋敷にいるメイドに教えてもらって……」

「それはいつですか?」

「えっと……今日から?」

「無理だな」

「ですね」

「その通りかと」

「セバスチャンまで!? どうして無理だって言えるの!?」


 クレアさんに幾つか質問して、エッケンハルトさんが結論を出し、それに俺だけでなくセバスチャンさんが頷く。

 ハンネスさんは取り乱したクレアさんを見て、目を白黒させながら置いてきぼりになってるが、この際ちょっと待っててもらおう。


「クレアさん……昨日の夜、正確には今日からですが、忙しくなったでしょう? それに、俺にはわかりませんが、あの事が片付いてもまだまだやる事があるのではないですか?」

「そうだな。それに、森へ行く話もある。私はいつまでもこの屋敷にいるわけではないし、ティルラもまだまだ勉強せねばならん。そんな中で、家事を習っている暇があるのか? ランジ村に行くのは、数日後というわけではないが、数年後というわけでもないのだぞ?」

「それは……」


 俺とエッケンハルトさんの言葉に、口ごもってしまうクレアさん。

 そもそもに、エッケンハルトさんはいつまでもこの屋敷にいるわけではない。

 森へ行く予定があるが、その後は本邸へ戻る予定なのだし、スラムの件もあって、クレアさんがやらなければいけない事は多いはずだ。

 それくらいは、俺にもわかるからなぁ……。



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