第427話 クレアさんに凄く心配をかけてしまっていました



「ご要望のソーセージも、用意させて頂いておりますよ。……タクミ様は、お風呂が先の方がよろしいですかな?」

「ワフ! ワフ!」

「そうですね。俺は風呂に入って温まりたいです。レオの方は、任せても?」

「畏まりました」

「タクミ様、こちらを」

「はい、ありがとうございます」


 出がけにお願いしていたソーセージは、しっかり用意されているようで、それを聞いたレオはよだれを垂らさんばかりだ。

 喜ぶのはいいけど、もう少し落ち着こうな、レオ。

 尻尾がブンブン振られていて、執事さんが拭きにくそうだぞ?

 俺はセバスチャンさん達にレオを任せ、風呂に入る事にする。


 メイドさんが持って来てくれた、乾いたタオルを受け取り、玄関ホールを離れて風呂場へ。

 離れて行く時に、レオの嬉しそうな鳴き声が聞こえたが……ソーセージに興奮し過ぎるんじゃないぞ?

 もう遅いかもしれないが……。



「はぁ……温まりました」

「お疲れ様でございます」

「ワシャワシャ……ワフ!」


 風呂から上がり、外で待機してくれていたメイドさんから、レオが食堂にいると聞いたのでそちらへ移動。

 食堂に入ると、いつもの食事時よりも多いソーセージが、テーブルの真ん中にデンと積まれており、そこに顔を突っ込んで食べていたレオがいた。

 入って来た俺に気付いたのか、一声鳴いて迎えてくれたが、すぐにまたソーセージへ顔を突っ込んだ。

 好物に夢中になるのはいいが、口の周りどころか、顔がソーセージにまみれて油でべとべとになってそうだな……濡れていた毛はちゃんと拭き取られて、いつもの輝きを取り戻してるけど……雨に降られてたし、明日はレオを風呂に入れないとな。

 さすがに、今日は遅いからもう風呂に入れる事はないが……。


「おぉ、タクミ殿。戻ったか。今回はご苦労だったな」

「タクミさん、ご無事で何よりです……」

「エッケンハルトさん、クレアさんも。起きてたんですね」


 食堂には、レオやセバスチャンさんやメイドさんの他にも、夢中でソーセージを食べるレオを見守るように、エッケンハルトさんとクレアさんがいた。

 二人共、寝ずに俺達が戻って来るのを待っていてくれたようだ。


「タクミ殿達が動いているのに、我々が悠長に寝てはいられんだろう。特に、クレアはな?」

「お父様、私の事は良いのです! それよりタクミ様、お怪我などはされませんでしたか?」

「ははは、大丈夫ですよ。俺にはレオがいますからね。……正直、怪我をしそうではありましたが、なんとかなりました」

「そうですか……良かったです」


 苦笑しながら言うエッケンハルトさんとしては、公爵家の代わりに動いてる……と考えてる部分があったようで、寝てる事を良しとしなかったようだ。

 出て行く時もそうだが、帰って来る時は普段寝静まっている時間になる事はわかってたんだから、休んでもらってても良かったんだが……。

 さらにエッケンハルトさんが、クレアさんをからかうように言うと、少し焦ったようにしながら声を出し、俺の心配をしてくれる。

 その瞳は、少し涙で濡れてるようで……よっぽど心配をかけてしまったようだ。


 レオがいるから大丈夫だと笑って無事を伝える。

 俺に怪我がない事を知って、ホッとした様子のクレアさん。

 仕方ない事かもしれないが、あまり心配をかけるのもよくないなぁ……。


「だから言っただろう、クレア。タクミ殿は鍛錬もしているし、レオ様もいる。スラムの人間如きでどうにかなるような人物ではない、と」

「それでも、心配なものは心配なのです。ランジ村がオークに襲われた時も、怪我をされたのですし……もしものことがあったらと……」

「それでも、タクミ殿にはギフトがある。ロエを作れば、多少の怪我ならなんとかなるだろう?」

「もう、お父様は心配する者の事をわかっておりません! すぐに治せるとしても、怪我はしない方がいいに決まっています!」

「ははは、まぁ、こうして無事だったんですし、そこらへんで……」


 エッケンハルトさんは俺が無事に帰ると考え、それでもクレアさんは心配……とはらはらしていたようだ。

 親子で言い合っている様は、本当に仲が良いんだなと思わせるものだったが、とりあえず、俺は無事に帰って来たんだからと、言い合いを終わらせる。

 心配されてたのは俺なので、このまま話が続いても、俺の居心地が悪いだけだし、クレアさんがからかわれて、エッケンハルトさんを楽しませるだけだしな。


「タクミ様。お風呂に入っている間に、ラクトスの衛兵より伝令が来ました」


 言い合いを終わらせたのを見計らい、セバスチャンさんが話し始める。

 衛兵さんも仕事が早いようで、ディームを捕まえた後、すぐに屋敷へと伝令を走らせたらしい。

 ニックと立ち話もしていたし、風呂に入ってる間に屋敷へ到着してたようだ。


「伝令より報告がありました。タクミ様……」

「はい」

「レオ様とリーザ様、共にタクミ様と家族であると、スラムで言い放ったようですな」

「は?」

「ほぉ?」


 ディームを捕まえた事の報告だと思ったら、俺がスラムで叫んだ家族だから云々という事だった。

 セバスチャンさんは、衛兵さんが寄越した伝令が伝えたという事にしてるが……あの時衛兵さん達は離れた場所にいたはずだ。

 俺が叫んだ声を聞いて、駆け付けたくらいだしな

 あの時の様子を考えるに、衛兵さん達ははっきりと俺の言葉を聞いてはいなかったと思うんだが……何故それをセバスチャンさんが知っているのか……。

 セバスチャンさんなら、なんでも知ってておかしくないとは思うが……さすがに少し怖いくらいだ。


 俺を玄関ホールで迎えた時よりも楽しそうな笑顔で、家族がどうとか叫んだ俺の事を説明するセバスチャンさんに、興味深そうな表情をしているエッケンハルトさん。

 クレアさんは……何故か頬を赤くして、目を輝かせてるな……どうしてだろう?

 というか、あの時はディームに家族ごっこと言われて、頭に来たから言い返しただけで……勢いで言った事を、この場で披露されるなんて……恥ずかしい。

 あの時言った事は本心だが、思い返すと恥ずかしいセリフというのは、あるんだなぁ……変な事を言わないように気を付けよう。



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