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第423話 帰り道でニックと遭遇しました
第423話 帰り道でニックと遭遇しました
「中々、長い夜だったなぁ……」
「ワフ」
一日にも満たない時間で、全て解決すると思っていなかったのに、上手く行った事を喜び、雨の降る中、レオと暢気に街の門へと歩く。
呟いた俺の言葉に、レオが同意するように鳴いて頷いた。
上手く行ったのは、セバスチャンさんが渡してくれた地図や、ディームの居場所と思われる目ぼしがあったからこそ、だけどな。
あれがなかったら、建物を調べるなんて事はせず、ひたすらスラムを歩いて途方に暮れてたかもしれない。
まぁ偶然にもディームが外で少年達を囲んでいたから、発見できる可能性はあったかもしれないけどな。
一応、気を付ける事は気を付けてたし、ディームも俺と話している時に、公爵家に関する事を言わなかったから、俺と公爵家の関わりは広がってないだろうと思う。
ただ、魔物を連れた変な男が、ディームと戦って捕まえ、衛兵に引き渡した……というだけだ。
これで、公爵家に対して、他のスラムにいる者達が何かをする事は……多分ない……と思いたい。
「あれ、アニキじゃないっすか?」
「ん、この声は……?」
「ワフ?」
なんとかなるだろう……とか考えながら、大通りを歩いていた時、後ろから聞き覚えのある声に呼ばれた。
誰かが近くにいる気配とかは感じなかったから、もうほとんど感覚強化の薬草の効果は、なくなってるんだろう。
スラムに入ってから、数時間……結構な時間が経ってるからな。
レオも、雨な事や、問題解決できた満足感で、周囲の警戒をあまりしていなかったんだろう、声をかけられるまで、誰かがいるのを気付かなかったようだ。
「やっぱりアニキだ。どうしたんです、こんな時間に、こんな場所で……?」
「ニックか。いや……ちょっとな。それにしても、ニックの方こそ、こんな時間にどうしたんだ?」
「ワフフ?」
声の掛けられた方……後ろを振り返ると、予想通りそこにはニックがいた。
見慣れた顔に、見慣れない外套を身に付けている。
俺を見つけて、その表情は嬉しそうに綻んだように見えるが、暗くてはっきりとは見えない。
レオも、俺に続いてどうしてニックがここにいるのか、問うように鳴いて首を傾げた。
夜中に人相の悪い男が、外套を着て歩いてる……怪しさ満点だな。
「定期的にこの周辺と、カレスさんの店の周囲を見廻りしてるんです。最近、スラムの方で何かあったらしくて、怪しい奴が悪さをしないように……」
「怪しいのは、ニックの方だが……」
「ワフ」
どうやら、ニックはボランティア的に、治安活動をしていたらしい。
それはとてもいい事だとは思うんだが、外套を羽織った、人相の悪いスキンヘッドのニックの方がよっぽど怪しい……というのは、誰も指摘しなかったのか……。
そもそも、衛兵さん達に見咎められなかったのかが疑問だが……まぁ、それはいいか。
「アニキに雇ってもらって、今までの自分を反省したんです。それで、遅いかもしれませんが、街に貢献しようと思いまして……こうすれば、俺を雇ってるアニキの評判も上がるかもしれないでしょ?」
「……俺の評判はどうでもいいんだが……まぁ、ニックがやりたいなら、それでいいか。というか、衛兵さんもいるのに、ニックが見廻る必要があるのか?」
「それなんですがね……スラムの方からの悪ガキ達が、最近妙なんでさぁ。他の奴らも同様にですがね」
「スラムの悪ガキ達?」
それはもしかして、さっき会った少年達や、マルク君の事だろうか?
いや、他にもスラムには子供達がいてもおかしくないんだが……。
「時折、悪ガキ達は街中の商店から、食い物を盗むんです。まぁそれで食いつないでる部分もあるんで、店主たちも、多少は目をつむってるみたいなんですがね?」
「そうなのか」
やっぱり、少年達は盗みくらいはやっていたので間違いないようだ。
生きるためという事もあるのだから、それが悪い事だと俺が声高に叫んで、処罰する事はできないし、そんな権限は俺にない。
それに、盗まれてる側も、スラムの事情を知っているため、少し盗むくらいなら気にしていないようだ。
さすがに、大量に盗んだり店の金に手を付けたりすると、衛兵を呼んで捜索したり、捕まえたりという事になるみたいだが……普段はそんな事ほとんど起こらないとは、ニック談だ。
「それが……ここ数日ですかね。いつもより街中で多く見掛けるようになったんです」
「同じ街にいるのだから、見かける事くらいはあるんじゃないか?」
「ワフ」
スラムはラクトスの北側だ。
固まってるとはいえ、隔離されてるわけでもないし、同じ街なのだから街中で見かける事くらいはると思う。
レオも、同じ街なんだから、不思議でもないと頷いてる。
「いえ、それが……いつもよりも多い気がして……。まぁ、気のせいならいいんですがね? 念のため、こうして見廻りをしてるんです」
「そうなのか。……ここ数日か……なぁ、それってリーザを俺が保護してからだったりしないか?」
「リーザって言うと、あの獣人のお嬢さんですかい? そうですね……」
首を傾げて考えるニックに、リーザを保護した日の事を教える。
「公爵様を連れてスラムへ行くなんて……怖いもの知らずですね。さすがアニキだ! 上等な服を着ているだけでも、数人が集まって絡まれるってのに」
「いや、絡まれたりする事はなかったけどな?」
「ワフワフ」
「……まぁ、レオ様がいらっしゃったからですかね。大きな魔物を連れてれば、関わろうとはしないかも……」
あの時スラムには確かに、いつもと変わらない服装で入った。
自分の着ている服がどれだけ上等なのかはわからないが、ちゃんとした仕立て屋で買った物だから、それなりなんだろう。
屋敷のメイドさんが洗濯してくれてるから、いつも綺麗だしな。
それに、エッケンハルトさんは顔を隠していたとはいえ、それなりに良い服を着ていたと思う。
着崩していたり、貴族には見えない服装ではあったが、それでも質の良い物だろう。
それでスラムに入った事を、ニックは驚いた表情になったが、レオも一緒だった事で納得したようだ。
確かに大きな狼を連れてたら、関わろうなんて考えたりしないか……俺とエッケンハルトさんが、剣を持っていつでも抜ける体勢だったというのもあるかもしれないが。
それを考えると、後ろを歩いていたとはいえ、初めて会った時にニック達が絡んで来たのは、怖い者知らずなのか、それとも考えなしだったのか……。
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