第422話 衛兵さんの事情聴取を受けました



「失礼しました、タクミ様。あの場では、名を言わないように指示されておりましたので、このような形で呼び出させて頂きました」

「あ、知ってたんですね……」

「はい、もちろんです。何度もお会いしましたからね。レオ様も……多少姿が変わって見えますが、見間違える事はありません」


 どうやら、衛兵さんは俺達の事はしっかり認識していたらしい。

 レオの方も、例え濡れて毛がぺちゃっとなっていても、わかってたみたいだ。

 俺やレオの名前を、ディーム達の前で言わないよう指示されてたらしいが……裏で糸を引いてるであろう、白髪の説明好き爺さんの顔がチラついてしまう。

 確かに、ディームや周囲の人達に名前を知られるのは得策じゃない。


 俺も、極力自分の名前やレオの名前を言わないようにしてたしな。

 これも、俺と公爵家が関わりが薄いと思わせるためだ。

 獣人……リーザを保護したとは言っているが、リーザが公爵家の屋敷にいるという事は、余り広まっていないだろうから、大丈夫だろう……多分。


「タクミ様が街に入った後、セバスチャン様から公爵様の指示書が届きました。スラムのボスであるディームを捕まえるため、タクミ様に協力しろと。その際、身を明かさぬため、タクミ様やレオ様の名は、スラムの者達がいる場所では言わぬように……との事です」

「やっぱり、セバスチャンさんからの指示ですか……」


 公爵様の指示書との事だから、エッケンハルトさんも関わってるんだろうが、セバスチャンさんが前のめりに関わろうとしている姿が、目に浮かぶ。

 悪者を懲らしめるというか……こういう事って、セバスチャンさんは楽しそうにやるからなぁ。

 おそらくだが、俺とレオが屋敷を出発した後で、伝令を走らせたんだろうと思う。

 さすがにレオが走るよりも遅いし、夜間で雨も降っているため、衛兵さん達がここに辿り着いたのが、これだけ遅れたんだろう……言っててくれればいいのに。


 もしかしたら、俺達がディームを発見し、捕まえるタイミングで衛兵さん達を差し向けるという、セバスチャンさんの計画だったり……というのは考え過ぎかな?

 本当に見つけられるかどうかすらわからなかったんだから、さすがにそんな事はないか……。


「ディームを始め、男達を捕まえて下さって、ありがとうございました」

「いえいえ、俺達はただ、許せない男を探し出しただけですよ」

「ワフ」


 俺達に向かって、頭を下げる衛兵さんに言う。

 俺達の後ろには、別の衛兵さん達が壁を作って広場から見えないようにしてあり、俺に頭を下げる姿を見られないようにしてある。

 これも、俺達の事を明かさないための配慮なんだと思うけど、ラクトスの衛兵さんは、よく訓練されてるなぁ……と感心するばかりだ。

 単純な剣の鍛錬だけなら、ここまでの配慮はできないだろうしね。


「では、後の事は、お任せ願えますか?」

「はい、それはもちろん。元々、男達を運んで捕まえてもらう予定だったので」


 衛兵さん達がここで、男達を引き取ってくれるならそれに越したことはない。

 あまり長居はしたくないし、雨に濡れってるから風呂にも入りたい。

 それに、運ぶ手間が省けるんだから、俺としてはいいこと尽くめだ。

 ディームを発見し、無力化しただけで十分だしな。


 それに、家族ごっこだとか、獣人を標的にする事に対して一言……どころか色々言った気がするが、言いたい事は言えたので、良しとする。

 あ、あと……。


「男達とは別に、縛ってない少年達がいますが……」

「はい、そのようですね。確か、男達が囲んでいたとか……?」

「はい。ディームが指示をしてリーザ……獣人の女の子をイジメるように仕向けていたのですが、色々あって、石を投げた少年が捕まった事に対する、報復をするように取り囲んでたみたいです」

「それはまた、なんとも……。石を投げた少年の件は聞き及んでいます。公爵様の本邸に送られる手筈だとか。もう悪さをするような事は考えられないでしょう」


 少年達の事を、衛兵さんに伝えておかなきゃいけない。

 悪い事は多少して来ただろうが、ディーム達程厳しくしないで欲しいとな。

 まぁ、ある程度罰を受けたり、罪を償うくらいの事はしないといけないだろうが。

 ともあれ、簡単に少年達がここにいる経緯を説明すると、衛兵さんはマルク君の事も知っていたみたいだ。


 悪い事を考えられないなんて……エッケンハルトさん、どれだけ厳しい訓練をさせるんだろう……?

 ちょっとだけ気になったが、衛兵さんも知っているような厳しい訓練のようなので、聞かない事にした。

 ……今度、フィリップさんにでも聞こう。


「ディームとは違って、率先して罪を犯していた……というわけではなさそうなので……」

「わかりました。どうするかは、聴き取りが必要でしょうが、厳しくし過ぎないように気を付けます。……まだ成人すらしていないような者達ですので、よっぽどの事でもない限りは、厳しすぎる罰が下る事はないでしょう」

「そうですか……すみませんが、お願いします」

「ワフワフ」


 衛兵さんとも、少年達には厳しくし過ぎないように約束できた。

 これで、処刑されたりとか、そこまでの事にはならないだろう。

 元々、成人していない人には、そこまでの罰が下る事はほとんどないのかもしれないけどな。

 孤児院が各街にあって、多額の寄付と健全な運営がされてるくらいだ、公爵領は子供を育てるという事に意欲的なんだろうな。


 子供がいなければ、将来の街を担う人間はいないのだから……とかエッケンハルトさんは考えててそうだ。

 中には、取り返しのつかない事をしでかす子供もいるかもしれないが、さすがにそういった人物は厳しく処罰されてるんだろう……と思う。

 未成年だからと、全てが許されるわけじゃないだろうしな。

 そうして、後の事は駆け付けた衛兵さん達に任せ、俺とレオはその場を離れた。


 あ、少年達がリーザに謝るため、屋敷に連れて行くかとか、ラクトスへリーザが来るかとか……決めてなかったな……。

 まぁそれは、エッケンハルトさんやセバスチャンさんと話せばいい事かな――。



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