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第403話 ディームという男の事を聞きました
第403話 ディームという男の事を聞きました
少しだけ間を空け、頭の中で色々考えている様子のマルク君を見守る。
ようやく、自分が公爵家に対して行動をしてしまったのだと、理解して来ているようだ。
まぁ、知ってたら石を投げるなんて暴挙、そうそうできないだろうな。
何か公爵家に対して思う事があったとかなら別だろうが、マルク君はそんな感じはしないし。
リーザは公爵家ではないんだが、俺を含めてお世話になっているわけだし、あの時一緒にクレアさんもいたから、公爵家に対して……と見られるのも当然の事だろう。
それにしても、衛兵さん達はここに来るまで、マルク君に何か説明をしなかったのだろうか……?
いや、捕まえる事が目的で、その対象に丁寧に教えるなんて事は、あまりしないか。
衛兵達の方で、マルク君を処罰するだけで済ませるとかなら、何かしらの説明はあるんだろうけどな。
「さて、色々と信じられないかもしれませんが、理解はできましたかな?」
「……は、はぃ……」
マルク君の様子を見ていた、セバスチャンさんが声をかける。
体をビクッとさせながら、消え入りそうな声で返事をするマルク君。
先程までと違い、もうこちらを睨んだりする事はなくなった。
相手が公爵家とわかった事で、抵抗する事は自分の身を危うくするのだと理解したんだろう。
代わりに、先程よりもさらに体を震わせて怯えてる様子だが……これは無理もないか。
……そもそも、これだけ大きな屋敷に連れて来られて、相手は誰だと思ったのか聞いてみたいが、それは話が逸れるから止めておこう。
「では、ディームの事を聞かせてもらいましょうか……」
「……わかり、ました」
そうして、マルク君からディームという人物の事を聞く事になった。
最初はまだ躊躇していたマルク君だが、相手が公爵家とわかった事で、これ以上隠したり黙っていたらもっと酷い事になると考えたんだろう、色々と教えてくれた。
それと一緒に、セバスチャンさんや衛兵さん達からも、ディームについての説明を受ける。
ディームは、俺がさっき考えていたような位置の人物で、ほぼ間違いないようだ。
ラクトスを始めとした複数のスラム、その中で悪事を働く者達のボス。
ただし、ラクトスを始めとした公爵領は、エッケンハルトさんの統治が良いおかげなのか、あまり大きな組織ではない。
スラムのある街の内部には必ず、ディームの関係者というか部下がいるようだが、人数はあまり多くないらしい。
特に国や貴族家の転覆を目論んだりするような、大掛かりな組織ではなく、まともに暮らす気を亡くした者達が集まるようなものらしい。
ただし、まっとうな事をしてお金を稼いだり、生活をする気は毛頭ないようで、恐喝、盗みは当たり前らしい。
目立たないために、殺し等はほとんどしないようだが、それも絶対ではないとの事だ。
そして問題は、何故そのディームがマルク君のような少年に、獣人は魔物だと教え込んだか……だ。
なんでも、リーザがお爺さん……レインドルフさんに拾われた時は、そういった事を聞かされてはいなかったようだ。
ただ、悪事を働くディームに対し、レインドルフさんが嫌悪感を示したことから、目の仇にするようになったようだ。
スラムの者達の意思統一のため、共通の敵を作り出す……というのは、セバスチャンさんが予想して行った言葉だ。
レインドルフさんが生きていた時は、睨み合い程度で、抑止力にもなってくれて、リーザに酷い事をする事はなった。
各地を旅していたレインドルフさんは、自衛の手段やスラムの者達の相手をするくらいは問題なかったらしい。
ディーム自体はあまり戦う事をしない人物らしく、ほとんど人に命じている事が多いらしい。
そのため、魔法具も持っていて戦えるレインドルフさんが、リーザを守っていた……というのが結論だ。
そして、レインドルフさんが亡くなったのは病気だったらしいが、いなくなった途端に、ディームがリーザを標的にするように指示したという事だ。
邪魔者がいなくなった事で、さらに弱い者を標的にイジメる事で、スラムの中で自分の立ち位置をはっきりとさせるつもりだったんだろう。
そして、マルク君を始めとした少年達に嘘を教え、教育しているとする事で、将来の部下を……という考えもあったのではないかという事だ。
ディームから言われていた事は、リーザは獣人であり、魔物。
魔物はスラムから追い出さなくてはならない。
だから、リーザをイジメる事は良い事なのだという事。
ただし、殺してしまうと衛兵が動いてしまい、騒ぎになってしまうため、許されない……という事だ。
裏社会に巣くう組織が、たった一人の少女を殺す事を躊躇ってるなんて……とは思ったが、そのおかげでリーザを保護できたのだから、複雑だ。
まぁ、リーザがいなくなったら、標的を新たに作るのも手間だろうしね。
ディームがリーザを殺したくなかったとかではなく、スラムといっても、衛兵さん達がしっかり見回ったりしている事が多く、獣人がいる事はほとんど知られていなくとも、殺してしまったら自分達が危ういと考えたんだろうとの事だ。
そのあたりは、エッケンハルトさんを始めとして、ラクトスを含めた公爵領をしっかりと見ているという事なんだろう。
マルク君の話す事、セバスチャンさん達の説明を統合し、ある程度理解できた。
「ではマルク君。貴方はディームの指示に従って、石を投げた……という事でよろしいですね?」
「……は、はい。その……公爵家の関係者とは知らなかったんです……」
「まぁ、それは顔を見ていればわかる事ですよ。ただ、公爵家の関係者ではなくとも、人に石を投げるのはいけない事です」
「でも……ディーム様は、獣人は魔物だって……」
「獣人は魔物ではありません。我々人間とほとんど変わらないのです。マルク君は、ラクトスから出た事は?」
「……ありません。気付いた時にはスラムにいて、そこでずっと育ちました」
「なら、この国の北に、獣人の国がある事を知らないのですね。マルク君、この国の北には、獣人が作った国があります。魔物に、国を作るような事ができると思いますか?」
「……いえ」
「でしょう? 獣人の国は、昔は戦争をしたりもしましたが……今はそれも終わり、隣人となっています。何度も言いますが、獣人は魔物ではなく、人間と対等な隣人なのです」
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