第400話 レオによるシェリーのダイエット計画が始動しました



「それに、従魔である事で楽な部分もあると思いますよ?」

「従魔がですか?」

「はい。何かあっても、話して決める事ができますから」

「確かに、そうですね。意思疎通ができるというのは、便利な事ですね。馬を育てるのも苦労するようですし……シェリーを連れて帰って従魔になってもらってから、私は少し人に任せ過ぎていたのかもしれません。――シェリー、これからはちゃんと言うのよ?」

「キャゥ!」

「ワフ……」

「キュゥ……」


 普通の犬と人間だと、そもそもはっきり会話ができないからな。

 慣れれば、ある程度はお互いの感情がわかったりもするもんだが、それよりも意思疎通がはっきりしている事で、話し合う事ができる分、楽なのは間違いないだろう。

 生き物を育てる話で、馬の例が出てくるのは、クレアさんらしいけどな。

 今までお世話をされる側だったクレアさんだから、シェリーをお世話する事に対してよくわからない部分が多かったんだろう。

 今回の事で、シェリーとよく話してどうするかを決める事の大事さを、学んでくれたらいいと思う。


 優しく諭すように言うクレアさんに元気良く鳴き、そこへ戒めるようなレオの鳴き声で、か細く声を上げるシェリーを見ながら、そう考えた。

 レオを拾ってからは、色々失敗したからなぁ、俺も。

 あの時はまだ意思疎通はできなかったし、他の犬より賢く見えても、中々難しいものだった。


「それで、タクミさん。セバスチャンから聞いたのですが、シェリーも森へと連れて行くと?」

「あぁ、はい。太ったシェリーを痩せさせるためなんでしょうけど……レオが鍛えると言ってるんです」

「ワフ!」

「……大丈夫なのでしょうか?」


 昔の事を思い出していた俺に、クレアさんが声をかける。

 それに答えつつ、レオへと視線を向けると、その通りと言わんばかりに大きく頷いた。

 クレアさんは、レオの事を今まで見て来て信頼してるんだろうが、それでもシェリーの事が心配らしい。

 初めて発見した時は、森で複数のトロルドに囲まれて大きな怪我をしてたからな……それを思い出したんだろう。

 まだ子供のシェリーだから、フェンリルという事を知っていても戦えるのかという疑問もあるのかもしれない。

 ……今まで、活発に動いて戦う所を見た事ないというのもあるかもな。


「ワフワフ! ワフゥ……ワフワフ」

「えーと、フェンリルなら本来、油断しなければトロルドくらい敵じゃないそうです。子供であってもそれは変わらない…と。以前は油断したからだと言っていますね」

「そうなの、シェリー?」

「キャゥ? キャゥキャゥ!」

「シェリーはなんて言ってますか?」


 レオが主張する言葉を訳し、クレアさんに伝えと、シェリーを見下ろして聞く。

 それに対し、シェリーが張り切って答えるのを、クレアさんに訳してもらう。


「以前は、群れからはぐれて、周囲に気を配っていなかったそうです。好奇心に駆られて、単独で森を歩いてたそうで……」

「ワフゥ……」

「それにしても油断し過ぎ……と。まぁまぁレオ、シェリーもまだ子供なんだから仕方ないさ」


 群れからはぐれたら、むしろ不安から過敏になって、油断しなくなりそうなものな気もするが……シェリーはのんびりな気質だからか、思わぬ事態で群れを探す事に焦ってしまったのかもしれない。

 尚も苦言を呈するように鳴くレオを諌めるように声をかける。


「ワフワフ、ワフー」

「ふむ……それでいいのか?」

「ワフ」

「わかった。えっと、森へ行くまでの数日、痩せる事も含めて鍛錬をさせるそうです。それで、多少は今よりマシになるだろう……と」

「鍛錬ですか……わかりました。レオ様がそう仰るのであれば、お任せします」

「キ、キャゥ……」


 レオと話し、シェリーを鍛錬させる事を聞き、クレアさんに伝える。

 シェリーは嫌がるように震えながら、抱かれていた腕にしがみ付こうとしたが、任せる事に決めたクレアさんはレオの頭の上にシェリーを置いた。

 その時のシェリーの顔は、これから来る厳しい鍛錬の事を考えてなのか、絶望したような表情をしていた気がするが……痩せるのは必要な事だろうと思い、見なかった事にした。



「よし、始めるか」

「ガウ! ガウガウ!」

「キャゥゥ……」

「あははは!」


 クレアさんとの話を終え、遅めの朝食というより、昼食を皆と一緒に頂き、ササっと薬草を作り終える。

 今日もまた、調合をしてくれるミリナちゃんにある程度の数を渡して任せた後、簡易薬草畑の方の様子も見た。

 昨日セバスチャンさんに言われていたように、確かに近くに生えていた植物が枯れていたり、そもそも土がカラカラになっていたりの異変を確認しつつ、別の場所で追加の薬草を作る。

 できるだけの実験は今のうちにしておくべきだからな。

 ちゃんと許可を取って、他の植物とは離れた場所にしてるから、大丈夫だ。


 そうして、やる事を終わらせた後は、エッケンハルトさん達を交えての鍛錬だ。

 今日は、シェリーの鍛錬をするため、レオも裏庭にいるのでリーザも一緒だ。

 調合をしたがるかとも思ったが、シェリーの鍛錬というのが興味を引いたらしい。

 色んな事に興味を持つのは良い事だな、うん。


 ちなみにそのリーザは今、シェリーを追い立てるように走るレオの前を走ってる。

 ……シェリーは結構辛そうに走ってるのに、リーザは元気だなぁ。

 まぁ、シェリーが辛そうなのは、太ってしまった事と運動不足からなんだろう、レオが吠えて追い立てる速度は、俺やエッケンハルトさん達が走る速度とほとんど同じだし。

 最初はレオが先頭になって走ってたんだけど、すぐにシェリーがヘタってついて来なくなるので、今のような形になった。

 シルバーフェンリルに追い立てられるって、フェンリルとしては恐ろしいよな……。


「では、まず……いつものように走る事から始めたいのだが……」


 エッケンハルトさんが、準備を終えた俺とティルラちゃんの前に来て、鍛錬を開始しようとしながら、レオ達が走っている方に視線を向ける。


「……私は、レオ様の後ろを走ろう。タクミ殿とティルラは……」

「俺は、前を走ります。リーザもいますからね」

「私も、リーザちゃんやシェリーと一緒に走ります!」

「う、うむ……そうか、わかった。では……」


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