第399話 クレアさんに謝られました
レオに捕まり、皆に囲まれているシェリーは、降参するようにお腹を見せている。
観念した様子なのはいいんだが、危険な魔物が簡単にそんな姿を見せてもいいのかと疑問に思わなくもない。
レオがいるからというのも、大きいだろうけどな。
仰向けになっているお腹は、丸々としていて、とても機敏に動けるようには見えない。
プニプニしてて、触り心地は良さそうだが……。
セバスチャンさんと二人、降参しているシェリーを見ながら、このフェンリルは安全過ぎると、確認するように頷き合った。
「ふわ~ぁ」
「ん、リーザ。眠いのか?」
「……うん」
「そうか。さすがにかなり遅い時間だからな……仕方ないか。ありがとうな、シェリーとレオの通訳をしてくれて」
「ううん。パパやママの役に立てたなら、嬉しい……ふわ~……」
シェリーの事を考えていると、横で通訳をしてくれていたリーザが欠伸をする。
ここまで眠気を我慢して頑張ってくれたんだろう、半分以上閉じている目をしながら、俺の感謝に答えている途中で、また欠伸をした。
いつまでもここでこうしていたら、リーザに悪いな。
「シェリーの話は、明日に致しましょう。クレアお嬢様や、旦那様を交えて話さないといけません」
「そうですね。それじゃ、俺達は部屋に戻ります」
「はい。タクミ様、ご協力ありがとうございました。明日の料理は、腕によりをかけて頑張りますので」
「ははは、大丈夫ですよ。それよりも、ヘレーナさんも遅くまで起きてるんですから、しっかり休んで下さいね。――リーザ、行こうか。レオも」
「うん……」
「ワフ」
シェリーをどうするかは、明日にでもクレアさん達と一緒に決めることにして、その場は解散。
頭を下げるヘレーナさんにも、しっかり休むように伝えて、リーザの手を引いて厨房を出た。
途中、眠気の限界なのか、歩きながらうとうとし始めたので、レオの背中に乗せてやると、抱き着くような形になって、部屋に戻る前に寝てしまった。
レオの毛が気持ちいいというのもあるだろうが、ここまで頑張って起きててくれたんだから、仕方ないな。
「むにむに……にゃふ……」
部屋に戻った後、通訳をしてくれた事を感謝するよう、頭を撫でると、楽しい夢でも見ているかのように、微かに声を漏らしていた。
ベッドに寝かせてやりたかったが、気持ち良さそうにレオの背中へ抱き着いているのを見て、邪魔するのも悪いかと、そのままにしておく。
レオも、リーザを起こさないよう気を付けながら、伏せの体勢のまま寝る事にしたようだ。
体を丸めると、リーザが乗ってる背中のバランスが悪くなるからだろうな。
「レオも、こんな時間まで付き合わせてすまないな。おかげでシェリーの盗み食いを見つけられたよ、ありがとう」
「ワフ」
リーザを起こさないよう小声でレオに感謝し、それに応えるように小さく鳴いたのを確認して、俺もベッドに入った。
しかし、シェリーが盗み食いかぁ……。
明日は、クレアさんからシェリーへのお叱りから始まるんだろうなぁ……なんて考えながら、眼を閉じて、すぐに夢の中へ入って行った。
遅い時間だし、自覚がなかっただけで、俺も結構眠気が来てたんだな――。
――――――――――――――――――――
翌日、自然と目が覚めて時計を見ると、お昼前だった。
昨日の事があって、俺達をゆっくり寝かせてくれたんだろうと思いながら、朝の支度をする。
部屋の外を見ると、休んでるライラさんとは別に、ゲルダさんが待機してくれていたので、リーザの支度も任せた。
朝食――というより昼食を頂くために、部屋を出ようとする時に、リーザは帽子を装着。
「リーザ、別に屋敷の中なら耳を隠す必要はないから、帽子はいらないんだぞ?」
「わかってる。でも、被っていたいの」
「そうか? まぁ、リーザがそうしたいのなら、いいか……」
初めて帽子をかぶせた時は、耳が潰れたようになってむずがったのに、今ではすっかりお気に入りになったようだ。
これだけ喜んでもらえてるのなら、買った甲斐があるな。
満面の笑みで帽子を被ってるリーザを、微笑ましく見ながら、レオとリーザを連れて食堂へ向かった。
「すみません、今朝は起きれなくて……」
「いえ。昨夜の事は聞きました。タクミさんやレオ様、リーザちゃんに迷惑をかけたようで、申し訳ありません。――ほら、シェリーも謝りなさい」
「キャゥ……」
食堂に行くと、クレアさんがシェリーを抱いて待っていてくれた。
ティルラちゃんやエッケンハルトさん、アンネさんはまだいないようだから、部屋にでもいるんだろう。
朝起きれなかった事を謝ると、クレアさんからも謝られた。
一緒に、シェリーにも謝らせるように言い、腕の中でか細く鳴いた。
しょんぼりしてる様子を見るに、事情を知ったクレアさんからは、しっかり叱られたんだろうな。
心なしか、耳も元気がなく垂れ下がっている。
「ワフ、ワフワフ」
「キャゥ。キュゥ……」
シェリーの様子と、か細く鳴く姿を見て頷いたレオは「反省して、もうやるなよ?」と言うように鳴いた。
レオの鋭い視線を受けて、一瞬だけ体を震わせたシェリーが、小さく返事をして頷いた。
盗み食いをして太ってしまったシェリーを、怒ってるつもりなんだろうな……シルバーフェンリルに睨まれてる事から、シェリーとしては脅されてる気分かもしれないが。
レオに怒られ、クレアさんにも叱られて……これでシェリーが盗み食いをするような事は、もうないだろう。
「シェリーには、可愛さから、ついつい甘やかしていました……」
「ははは、まぁ、そんなものですよ。生き物を飼ったりした事はないんですよね?」
「はい。屋敷で移動するために所持している馬以外はまったく」
「初めてなんですから、仕方ないですよ。これからシェリーと一緒に、色々と学んで行けばいいんですから」
なんて、訳知り顔で俺が言えた義理でもないけどな。
まだまだこの世界の事でわからない事が多く、クレアさんやセバスチャンさんにはお世話になりっぱなしだし。
ともかく、生き物を飼う事と従魔を持つ事は全て同じ事とは言えないかもしれないが、初めての事だからな、失敗もするだろう。
犬や猫を飼っている飼い主さんが、可愛さ余りに、求められるままに食べ物を食べさせるというのは、ありがちな事だしな。
俺も最初は、レオに色々食べさせてしまってたっけ……獣医さんに注意されてからは、気を付けるようにしたが。
可愛いからといって、甘やかせるばかりが良い事にはならない。
太らせて動く事が少なくなり、そのせいで病気になる事があるから、厳しくする事も飼い主の責任とも言えるかもな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます