第398話 シェリーは食べ過ぎで太っていたようでした



「クレアお嬢様に言えば、何か食べ物を用意してくれたでしょうに……何故こんな事を……?」

「キュゥ……キャゥ……」

「そうなんだぁ。――パパ、えっとね……」


 セバスチャンさんの言う事はもっともだ。

 シェリーを可愛がっているクレアさんなら、頼めば何か用意してくれるよう、使用人さん達に言うと思うんだが、それをしなかったのは何故なのか……。

 シェリーの言い分に、リーザが頷きながら通訳してくれる。


 それによると、従魔として主人であるクレアさんに、何かを要求する事はできなかったらしい。

 従魔と主人の関係は、レオから色々と言われてたらしく、なんらかの障害から守る事の他に、過度な要求をせず、我が儘にならない事……とあったらしい。

 レオ……シェリーを教育するつもりで、教え込むのはいいが……そこまで徹底しなくてもいいんじゃないか?

 それに、レオ自身が俺と従魔という関係じゃないのになぁ……。

 とも思うが、レオとしては老婆心的な感覚や、妹に人間と暮らすために姉としての教え……のつもりだったのかもしれない。


「ワフゥ……ワフワフ?」

「それにしたって、食べすぎじゃない? って言ってるよ?」

「キュゥ、キャゥ……」

「お腹が空いてたから、つい……だってー」


 リーザの通訳でレオとシェリーの会話を聞く。

 こんな風に話してたんだな……という感想はともかく、シェリーが食べ過ぎか……。

 フェンリルであるシェリーが、通常どれくらい食べるのかは、俺だけでなくセバスチャンさんも知らない事だ。

 でも確かに、シェリーを改めてみると、少し食べ過ぎなのかもしれないと思う。


 子供だから、成長して大きくなるのはわかるんだが、それだけでなく太ったように見えた。

 話しているうちに、レオの怒りが収まった事で、床に降ろされたシェリーは丸々としている。

 中型犬くらいの大きさで、初めてシェリーを発見した時よりは少し大きくなってるんだが、その体には柔らかそうな肉が付いていた。

 犬で言うと、腰のくびれがあり、肋骨に触れるくらいなんだが、今は丸々としていてくびれはなし、肋骨も柔らかい肉で包まれて触れそうにないくらいだ。


 あまり気にして見てなかったが、これは明らかに食べ過ぎで太ってるな……決して成長のためじゃない。

 考えて見れば、シェリーが運動している所は、ほとんど見た事がない。

 遊んでいる時も、レオの頭や背中に乗っていたり、ティルラちゃんに抱かれているのをよく見かけた。

 クレアさんも抱き上げている事が多いし……それで三食たっぷり食べて盗み食いまでしてたら、太るのも当然だな。


「確かに、太ってるなシェリー。さすがに痩せないといけないと思う……」

「ワフ。ウゥゥゥ……ワウ!」

「どうした、レオ?」

「何かいい事を思いついたみたいだよ?」


 床で縮こまっているシェリーを見て、太っている事を確認。

 フェンリルがどうかはわからないが、これが犬として考えると、痩せないとこの先が心配だ。

 太ると動くのが億劫になったり、疲れやすくなって、先々で病気になったりする可能性があるからな……。

 幸い、レオは散歩が好きで動くのも好きだったし、言う事をよく聞いて食べ過ぎたりしていなかったので、今までそういった事とは無縁だったが、犬の育て方が書かれている本で、そのような事が書いてあった。


 シルバーフェンリルになってからは……以前にも増して食べてるが、それは体の大きさ相応だし、外を走り回ったりしてるからな、今の所太る傾向は全く見えない。

 そんな事を考えながらシェリーを見ていると、レオが何やら考えるように唸った後、名案が浮かんだかのように吠えた。

 リーザの通訳でも、何かを思いついたとの事だし、間違ってはいないようだな。


「ワフワフ、ワウ! ガウガウ!」

「あー……それは、いいのかな?」

「レオ様はなんと仰っているのですか?」

「えーとですね……」


 前足を動かしたりして、説明するように鳴くレオ。

 大丈夫なのか首を傾げた俺に、セバスチャンさんが問いかけてきたので、リーザと一緒に説明した。

 レオが思いついた事とは、シェリーを俺やティルラちゃんと一緒に鍛える事。

 さすがに剣を持ったりはできないが、その分裏庭を走りまわらせようと言っている。


 それだけなら、何も問題はないかもしれないが、さらにレオは、俺達が森へ行くのに連れて行って、オークと戦わせようとも言っている。

 シェリーの主人はクレアさんだから、許可を取らないといけないし、そもそもエッケンハルトさんが許可をするかはわからない……いや、なんとなく大丈夫そうな気もするが。

 ともかく、レオはシェリーに運動をさせ、本来のフェンリルとしての野生を取り戻させたいそうだ。


「フェンリルとして……ですか……」

「はい。レオは、シェリーが何もせず、のんびりするだけの事を気にしていたようです」


 まぁ、従魔になったからといって、こちらから何かと戦いに赴くような事がほとんどないのだから、仕方ない事だとは思う。

 太った事を差し引いても、保護した時より少し大きくなっているとはいえ、さすがに誰かを背中に乗せたりはできない……むしろ抱かれたり乗っかる方だしな、今は。

 シェリーの生来の気性なのか、フェンリルがそうなのかはわからないが、のんびりするのが好きなようで、基本的にレオに乗ったり、誰かに抱かれておとなしくしている。

 遊びの時だけは、多少はしゃいだりもするけどな。

 それが太る原因になってるんだろうが、それはともかく、今のままだと確かに屋敷で飼っている室内犬のような扱いなのは間違いない。


 レオとしては、それが気になっていたんだろう。

 フェンリルとして戦う素振りは見せず、のうのうとしているのを、いつかは注意しようとしていたそうだ。

 今回の事がきっかけになって、シェリーを鍛えるのに丁度いいとも言っていたが、多分に盗み食いへの怒りが混じっているような気がする。

 罰としては、悪くないのかもしれないな。


「そうですか……確かに、シェリーが機敏に動いてる所は見た事がありませんね」

「フェンリルって、元々人間より素早く動く魔物でしたっけ?」

「はい。素早さで翻弄し、隙をついて爪や牙で攻撃される。さらには、魔法も扱うので、危険な魔物となっております」

「……今のシェリーを見たら、そんな危険な魔物だとは思えませんね……」

「……そうですな」



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