第397話 盗み食いをしていた者を捕まえました



「ワフゥ……」


 セバスチャンさんやフィリップさん、ヘレーナさんや護衛さん達と視線を交わし、どうするかを考えていた時、レオの方から溜め息にも似た鳴き声が聞こえた。

 ここで声を出したら、忍び込んだ相手にバレるじゃないか……。


「ワフワフ」

「もういい……どういう事だ?」


 俺に顔を向けて、レオが軽く鳴く。

 もういいと言っているようだが、まだ捕まえてないし、姿すら見ていない。

 どういう事なんだろう……と小さくレオに問いかける。


 チャッチャッチャッチャッチャッチャ!


 その時、忍び込んで来ていたはずの音が聞こえていた方から、走って逃げるようなリズミカルな音が聞こえた。

 俺の声かレオの声が聞こえたから、逃げ出したのか。

 ここで逃がしたら……と思い、思わず立ち上がろうとする俺。

 他の皆も、同じように動き出そうとしている。


「ガウ!!」

「キャゥ!」


 その時、厨房に響くレオの怒声……のような吠え声。

 瞬間、足音を立てていた方から、怯えたような悲鳴のような声が聞こえた。

 ん、あれ? この声って……。


「ワフ、ワウ!」

「キュゥ……」


 窮屈そうに隙間に挟まっていたレオが、その場から抜け出し、声のした方へ近づき、声を出しながら口を地面に近付ける。

 地面というか、その場にいる生き物に対してだな。

 噛み付くとかではなく、捕まえるためのようだ。

 その頃には、俺を含めた厨房に身を潜めていた皆は立ち上がり、レオの方を見ていた。


「ワフゥ……ワフワフ」

「盗み食いをしてたのは、お前だったのか……」

「キュゥ……キュゥキュゥ……」


 レオが溜め息を吐くように、口で咥え、俺達に見せるようにぶら下げていた。

 そいつは、レオがさっき吠えた事に怯えたんだろう、全身を震わせている。

 レオには敵わないと知っているからか、観念した様子で、抵抗はしていない。


 レオが口に咥えて捕まえた、盗み食いをしようとしていたのは、シェリーだった。

 親猫が子猫を運ぶときにするように、首の裏を咥えられ、四肢をプラプラさせながら震えてる。

 助けを求めるように、キュゥキュゥ鳴いているが、さすがにこれは擁護できない。

 無断で食料を盗み食いしたのは、いけない事だからな。


「はぁ……セバスチャンさん、明かりを。そろそろ、薬草の効果も薄まって来ているでしょうし」

「そうですな。わかりました」


 レオに掴まったシェリーを見ながら、溜め息を吐き、セバスチャンさんに明かりをつけてもらうように頼む。

 少しして、厨房に控えめな明かりが灯された。

 薬草を食べてから時間が経ち、効果が薄まって来ているとはいえ、暗闇に慣れた目には少し眩しく感じたが、しばらくすれば慣れるだろう。

 ともかく、今は盗み食いをしていたシェリーだな。


「シェリー……何で盗み食いなんかしていたんだ?」

「キャゥ……キュゥキュゥ」


 咥えらえたままのシェリーを見て、問いかける。

 何やら、弁解するように鳴いているが、俺には何て言ってるのかわからない。

 レオに通訳してもらおうかとも考えたが、口に咥えてるから上手くしゃべれないだろうし……俺がさらに通訳してセバスチャンさん達に伝えないといけないという、二度手間だしな。

 もう観念してる様子なので、離しても大丈夫だとは思うが、レオが怒った雰囲気を出しているから、しばらくはこのままの方がいいだろう。


「すみません、セバスチャンさん。ライラさんと一緒にいるリーザを呼んで来てもらえますか? もし寝ていたら、仕方ないですけど」

「わかりました。様子を見て来ます。起きていらしたら、こちらに来るようお願いします」


 セバスチャンさんに頼んで、リーザを呼んで来てもらうようにお願いする。

 リーザなら、シェリーが何を言っているのかはっきりわかるはずだからな。

 クレアさんでもいいんだが、もう寝てる時間だし……こんな時間に呼び出すのも申し訳ない。

 もしリーザが寝ていた場合は、レオを落ち着かせて、なんとか通訳する事にしよう。


「お待たせしました、リーザ様をお連れしました」

「パパ、ママ、どうしたの……?」

「すまん、リーザ。眠いだろうけど、ちょっとお願いしたい事があるんだ」


 俺達が部屋に戻って来るまで、起きてるつもりだったんだろう、眠そうに目を擦りながら、セバスチャンさんに連れられて来たリーザ。

 その後ろには、ライラさんもいる。

 二人共、明日はゆっくり寝ていてもらった方がいいだろうな……と考えながら、リーザに謝ってシェリーの通訳を頼む。


「うん、わかった。頑張る」


 眠そうにしながらも、素直に頷いて了承してくれるリーザ。

 うん、いい子だ……明日は寝られるだけ寝させよう。


「それで、どうしてこんな事をしてたんだ、シェリー?」

「キャゥ……キュゥ、キュゥ」

「えっとね……」


 リーザの通訳のもと、シェリーから事情聴取をする。

 その間に、レオが抑えているし、相手はシェリーだから安全だと、フィリップさん達護衛に人達は解散となった。

 厨房には、俺とリーザ、レオとシェリーに、セバスチャンさんとヘレーナさんが残った。

 フィリップさんは、酒を飲んで寝るつもりのようだけど、ランジ村と同じ事が起こらないよう、深酒には注意してもらいたい。

 ライラさんは、明日の朝は遅く起きても大丈夫だと、セバスチャンさんに言われて就寝するために出て行った。


 その後、大体数分でシェリーからの聴き取りが終わる。

 盗み食いした理由は単純で、お腹が空いたから。

 この屋敷に来てから、食事には不便してなかったが、子供だからなのか、成長中だからなのか……はたまた両方か……一日三食じゃ足りなかったらしい。

 そこで、つい最近からクレアさんが寝た後、夜な夜な抜け出し、食べ物の匂いを辿って厨房を発見。

 忍び込んで盗み食いをするという事を繰り返したらしい。


 リーザが屋敷に来てからという、タイミングが合ったのは本当に偶然だったらしく、レオが唸るようにして追及すると、尻尾を股に挟んで怯えながら弁解してた。

 たまたま、厨房を発見して盗み食いしたのが、リーザが屋敷に来た日とあってしまったらしいな。

 人間だったら、確実に泣いてしまっているくらい怯えてるから、嘘ではなく本当なんだろう。

 というかレオ、さすがに少し脅し過ぎじゃないか?



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