第395話 厨房を見張る事にしました
盗み食いが行われている状況だけだと、リーザが有力となってしまうのは、俺にもわかる。
けど、セバスチャンさんの言うように、レオが見逃すわけも無し、リーザが誰にも見つからずに厨房へ入り込めるとも思えない。
俺やレオの傍を離れたがらないというのは、風呂に入る時にそうだったが、多少緩和されて来てるが、それも今日からだしな。
ともかく、リーザを犯人と決めつけているわけじゃないが、状況は疑わしいという事で、俺に相談へ来たんだろう。
リーザにおかしなところがなかったかとか、一緒にいる俺なら何かわかるかもしれない、とも考えたのかもしれない……。
「今日は、もう盗み食いをされたんですか?」
「いえ、本日はまだ行われておりません。いつもは、皆が寝静まった後……二時から三時頃に行われます」
今日はまだ、盗み食いはされていないようだ。
二時か三時頃というと、確かに皆寝ている頃だ。
俺達が寝ている間に、そんな事が行われていたのか……。
「ふむ……それなら、今日は俺も見張りに参加します。レオも連れて来ますので、盗み食いをしてる相手を発見するのにも役立つでしょう」
「タクミ様には、リーザ様を見ていてもらいたかったのですが……そうですね、確かにレオ様がいて下さると助かります。タクミ様がいることで、人の目も増えますし……」
セバスチャンさんは、リーザのアリバイ証明のために、俺に見て欲しかったらしいな。
でも俺が見張りに参加する事で、レオも来るのであれば、その鋭い感覚で今日こそ盗み食いをした相手を、見つける事ができるかもしれないと……。
俺よりもレオが重要のようだが、俺も一応しっかり見張りますよ?
まぁ、護衛の人達や、レオには及ばないのは当然ですが……。
「わかりました。タクミ様にもお願いしましょう。このような事、頼むのも気が引けますが……」
「気にしないで下さい。いつも美味しい料理を、ヘレーナさんには食べさせてもらっていますからね。そのお礼でもありますし、食料を盗み食いするのは許せませんしね。リーザが無実であるとはっきりさせましょう」
状況としては、リーザが疑わしくとも、俺はそんな事をやってはいないと信じてる。
セバスチャンやヘレーナさんも、俺と同じような考えのようで、頷いてリーザの無実の証明に協力してくれるようだ。
ラクトスから帰った後、今までのリーザの境遇がクレアさんから語られ、使用人さん達の間で既に広まっているらしく、皆同情的だ。
生きるのに精一杯な状況だったからこそ、食べ物を求めて……という考えの人ももしかしたらいるかもしれないが……。
ともかく、リーザの無実を証明するため、俺は厨房を見張る事になった。
レオを連れてくるため、一度部屋へ向かう。
部屋にリーザが一人で残る事になるので、ライラさんにお願いして一緒にいてもらう事になった。
使用人の中では、ライラさんに一番懐いている事と、誰かがリーザといる事で、もし盗み食いした者を見逃しても、リーザではないと証明するためだ。
「入るぞー。……レオ、リーザ……何をやってるんだ?」
「あ、パパ!」
「ワフ?」
ライラさんを呼んでもらい、一緒に部屋へと戻る。
リーザに見本をみせるためと、ノックをして外から声をかけつつ中に入ると、そこでは不思議な光景が……。
レオがリーザの前でお座りをして、前足を持ち上げてお手をするような体勢をしていて、それに対してリーザが椅子に座り、レオの前足の甲に片手を乗せていた。
……レオがお手をしてるんじゃなくて、リーザがお手をしてる?
俺が入って来た事に気付いたリーザは、椅子から降りて、こちらに駆け寄った。
「パパ、見て見て。ママに教えてもらったの!」
「ん?」
「……ほら、ママ?」
「ワフ。……ワフ……ワフワフ……」
「お手、おかわりー」
「あー……」
嬉しそうに俺の手を引いて、椅子の近くまで来させた後、リーザはさっきまでと同じように座る。
そこからレオを促して、何やら前足を出させる。
レオの鳴き声に合わせ、左前足を持ち上げたら右手を乗せ、そこから左前足を降ろして右前足を持ち上げたら、左手を乗せる。
いわゆる、犬への躾でよく見る、お手とおかわりだ。
リーザ自身も、レオの鳴き声を聞いてお手やおかわりと言っている。
えっと……犬というか、見た目巨大な狼が、耳と尻尾がある小さい女の子にお手とおかわりを教えるっていうのは、どうなんだろう……?
「レオ、教えたいのはそれなのか?」
「ワフ、ワフワウ」
「パパから、ママが初めて教えてもらった事がこれだったんだって!」
リーザの通訳も交えて、レオから何故それを教えていたのかを聞く。
まぁ、通訳がなくともほとんど理解はできてたんだが……それはともかく、俺が初めて教えた事だから、か……。
レオを拾って来て、元気になった時に、教え込んだのは覚えてるが、レオもそれを覚えてたんだな。
その事自体は嬉しいが、リーザに教えるのがそれでいいのかというは、少し疑問だ。
ママと呼ばれて慕われてるレオからしたら、リーザに対する教育のつもりなのかもしれないけどな。
レオにとって、初めて教えられた事が嬉しかったのかもしれないな。
だが、リーザよりもシェリーに教えてやればいいのに、と思わなくもない。
あちらは見た目ほとんど犬だしなぁ……のんびりするのが好きで、フェンリルっぽさもほとんどないし。
「リーザちゃん、お手……」
「はい!」
「これはなんというか……褒めたくなりますね……」
「ライラさん……」
いつの間にか横にいたライラさんが、リーザに向かって左手の平を出し、お手をさせていた。
素直に従ってお手をするリーザは確かに可愛く、褒めちぎりたくはなるのはわかる。
だが、リーザは獣人で、ペットじゃないからな……本人が凄く嬉しそうで、尻尾をブンブン振ってるが。
それはともかく、ライラさんにはしっかりリーザを褒めておいてもらう事にして、本来の目的だ。
「んんっ! レオ、済まないが一緒に来てくれないか?」
「ワフ?」
「どうしたの、パパ?」
話を変え、厨房の見張りをする事を、首を傾げてるレオとリーザに説明。
やっぱり、リーザは何の事かよくわかってないみたいで、盗み食いをしてはいないと、改めて確信。
レオの方は、無断で物を食べた事に対し、何やら憤慨している様子だ。
「ワフゥ、ガウゥゥ」
自分の時は、散々叱られたのに、盗み食いをした者は怒られてないのは不公平だ……と訴えているようだ。
つまみ食いをして、俺に怒られた時の事、覚えてるんだな……。
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