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第392話 レオと合図の練習をしました
第392話 レオと合図の練習をしました
「そういった事も含めて、実際にオークと相対しても問題ないよう、ティルラを鍛える期間だな。剣の腕は上がってきているが、やはり実戦は別物だろう」
「そうですね。俺も実際オークと戦った時、手が震えるような気がしました。鍛錬とはまた別なのは間違いないと思います」
エッケンハルトさんと、レオやシェリーやリーザとじゃれ合っているティルラちゃんを見ながら話す。
ランジ村がオークに襲われた時、怖気づきそうだった自分を奮い立たせ、なんとか戦った。
俺が逃げたりやられたら、村の人達が危ない……と考えてようやく戦えたくらいだ。
間違いなく、俺一人がオークと遭遇しただけだったら、明かりの魔法を使って逃げるだけだっただろうな。
実戦は、鍛錬とは違う緊張感がある。
鍛錬を真剣にやるのとは、また違ったものだ。
ティルラちゃんがそれに飲み込まれたりしないよう、しっかり鍛えておきたいんだろう。
オークを倒せなくても、レオや護衛さん達がいるから問題はないけど、怪我はしてしまうだろうし、父親としては、できるだけ娘に向かう危険を減らしたいんだと思う。
そうして、エッケンハルトさんと話しながら、ティルラちゃんとリーザが協力してレオの足を拭き、屋敷へと戻った。
ティルラちゃんとリーザも、仲良くなれてるみたいだ。
お姉ちゃんと呼ばれるのが嬉しいからか、ティルラちゃんが妹を見るようにリーザと接しているのが、微笑ましい。
「さて、レオ。森に行くわけだが……今回は前回の時とは違うぞ? 戦いに行く事が目的だし、レオが全て倒してもいけない」
「ワフ!」
部屋に戻り、リーザの風呂をライラさんとゲルダさんにお願いして、レオと俺だけになってからの相談。
今回森に行く目的は、俺とティルラちゃんに実戦経験を積ませる事。
メインはティルラちゃんだが、俺も屋敷から離れて、ランジ村へ行くのだから、畑や村を守るためにもしっかり経験を積まなければならない。
今までは、レオがいる時はレオが魔物を倒していたが、今回はそれを率先してやるわけにはいかないからな。
いつもなら部屋でまったりしている時間だが、今は少しだけ真剣な雰囲気を出して、レオと向き合う。
俺はベッドの横に立ち、レオは部屋の中心でお座りの体勢だ。
簡単に注意するように言うと、レオの方もやる気みたいで、力強く鳴いた後頷く。
……魔物を倒す事に対してやる気ではない、と思う。
「それじゃ……まず、待て!」
「ワフ!」
俺の言葉と同時に、レオが伏せの体勢になる。
これは、魔物を発見してもレオが飛びかかって行かないように、その場に待たせる合図だ。
食べ物を目の前にして、少し待たせるのとはちょっと違う。
まぁ、元々できてたから、これは問題ないか。
「次は……逃げろ!」
「ワフワフ」
逃げろの言葉で、立ち上がったレオが俺に背を向ける。
これは、もしもの時、誰かを連れてすぐに逃げるための動作だ。
本来は、誰かを口に咥えたり、背中に乗せたりしてから走り出すんだが、俺以外いないためと、部屋の中で走る事はできないため、背中を向けるだけにしている。
まぁ、護衛さん達やエッケンハルトさん、さらにはレオがいる状況で、逃げ出す事はないだろうが、一応な。
ちなみに、レオとは事前に、どんな合図でどんな動作をするかを決めてある。
部屋でできない事は、それらしい動作をするだけで、ちゃんと声に反応して動けるかの確認だ。
端的な言葉にしてるから、レオはすぐにできるかもしれないが、確認と練習のために一度試しておきたかった。
「じゃあ、もう一度お座りして……行け!」
「ガウ!」
レオを俺の方へ向かせて、お座りの体勢にさせた後、再び合図。
これは、俺やティルラちゃんが相手にする場合以外で、魔物にレオが飛びかかる時の動作だ。
むやみに飛びかかってもいけないし、レオが倒しても良い魔物かどうかを、確認してからの合図となる。
状況次第で、一番使う回数の多い合図かもしれないな……。
その後も、リーザが風呂に入っている間に、幾つかの合図を試し、問題ない事を確認。
端的な指示を出して、レオがきびきびと動く様子は、自分が熟練のドッグトレーナーになった気分だ。
ほとんど、レオが賢いおかげで、俺の素質や力じゃないんだけどな。
うん、意思疎通がしっかりできるって、素晴らしい。
「さてと、最後に……威嚇!」
「グルルルルゥゥ……ワウガウ!!」
「お風呂上がっ……ひうっ!!」
「あ、リーザ……」
「ワフ!?」
最後の合図として、魔物や獣を追い払うため、レオが唸り、吠えて威嚇する合図を出した。
レオが牙を剥きだし、俺を正面に見ながら唸って吠えた……ただのフリとわかっていても、ちょっと怖い。
だがその瞬間、部屋の扉が開いて、リーザが風呂から戻って来た。
レオが大きく吠えた事に対し、部屋に入ったリーザはひどく驚いた様子だ。
短い悲鳴のようなものを上げ、耳をしおれさせ、尻尾を股に挟んで全身を震わせている。
レオも吠えた後、すぐにリーザに気付いて、驚きの声を上げた。
「ご、ごめんリーザ。リーザを驚かせるつもりじゃなかったんだ……」
「ワフ、ワフワフ……」
「ママ……怒ってるんじゃないの……?」
「違う違う。今のは、森に行った時、魔物や獣を発見したら、レオが威嚇して追い払うための練習をしてたんだ。リーザに怒ったわけじゃないからな?」
「ワフワフ」
部屋の入り口で、体を震わせているリーザに近寄り、謝る。
レオも、ゆっくり顔を寄せて、謝るように鳴いている。
リーザは、レオの吠える声を聞いて、怒っていると思ったようで、俺やレオを上目遣いで窺うようにしている。
怯えさせちゃったかぁ……失敗した。
リーザに事情を説明し、怒ってるわけじゃないと弁解する。
レオも、俺に同意するように頷き、すまなさそうに頬をリーザの顔に擦り付ける。
「……ほんと?」
「もちろん。俺もレオも、怒ったりはしてないよ」
「ワフ」
「良かったぁ。パパとママが喧嘩してるのかと思っちゃった……」
尚も確認するリーザに、俺とレオが頷いて怒ってない事を肯定する。
それに対し、ホッとした様子を見せたリーザ。
リーザに怒ってるとかじゃなく、俺とレオが喧嘩してるように見えたのか。
パパとママだから、夫婦喧嘩とか?
子供にとって、両親の喧嘩は不安になったり恐怖するものかもしれない。
気を付けよう。
まぁ、俺とレオは相棒なだけで、夫婦ではないけどな。
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