第360話 エッケンハルトさんと内緒話をしました



「この事は、クレアさん達は知っているんですか? セバスチャンさんは、さっきの行動を見ていれば、ある程度は知っているのでしょうけど」

「クレアは、刀の存在は知っているが、詳しくは知らないな。刀使っているニコラや、セバスチャンも同様だ。秘匿事項であるため、ニコラもそれを大っぴらにはしない」


 貴族家当主って言ってたから、公爵家の当主であるエッケンハルトさんは知っていても、クレアさんは知らない事なのか。

 セバスチャンさんは、エッケンハルトさんに近い執事なのだから存在自体は知っていても、クレアさんと同様に詳細は知らない、と。


「でも、そんな秘匿されている物を、なんでニコラさんは持っているんですか?」


 エッケンハルトさんが持っているのはわかるが、護衛兵士のニコラさんが持っているのは、ちょっと疑問だ。


「ニコラには、私から渡した事になってる。存在自体は秘匿していないからな。粗悪……と言う程でもないが、あまり質の良くない物は、一部の者も使っていいとなっている。貴族が抱える兵士の一部がせいぜいだがな」

「成る程……」


 言われてみれば確かに、ニコラさんとエッケンハルトさんの持っていた刀は、何かが違うような気がした。

 どこが……と問われるとはっきりと答えられないんだが。

 あと、柄や鍔、鞘の拵えも少し違った。

 なんというか、刀身の輝きが違うような気がするのと、鞘や柄は装飾が豪奢な気がするんだ。


 エッケンハルトさんは貴族だから、見栄えという意味で装飾を付けてるだけかもしれないけどな。

 ともあれ、ニコラさんの持っていた、太刀と脇差は、少し質の劣る物だという事か。

 武士っぽい雰囲気と喋り方をするニコラさんだから、それでも十分似合ってた。


「ですが、それだと俺は刀を使えないんじゃないですか? 兵士でもないですし……」

「うむ……なんと言うかな、タクミ殿には刀の方がと考えたのもあるのだが……王家の、とある方が気に入りそうなのだよ」

「とある方、ですか?」

「その方の事も、今は話せないのだが……とにかく、タクミ殿は刀の鍛錬もしていて欲しい。さすがに、街に行く時等、他人の目がある時は今までと同様、剣を使って欲しいがな」

「はぁ、わかりました。秘匿されてる事があるというなら、あまり見せてもいけませんしね。屋敷を離れる時は、今までの剣を使う事にします」


 俺は兵士でもなく、ただ自己防衛のために剣を習っているだけだから、公爵家と関わりがあると言っても、刀を持つ事を許可されないと思う。

 だが、少し言いにくそうにエッケンハルトさんは、俺が王家のとある方が気に入るからと言う。

 とある方って誰なんだろうか?

 ともかく、すまなさそうに言うエッケンハルトさんに、屋敷以外では使わない事を約束する。


 エッケンハルトさんの立場を悪くさせたいわけじゃないからな。

 お世話になっているんだから、それくらいは当然だ。

 今までも、剣で十分だったから、手に馴染む気がしたからといって、すぐ刀を使わないといけないわけでもない。


「私から刀を渡しておいてすまないが、頼む。許可は、私の方で取っておこう。その時、タクミ殿の事も説明するから……気に入られれば、その方の事も話せるだろう。……説明していいか?」

「エッケンハルトさんが信用する人であれば、大丈夫です」

「うむ。まぁ、安心していい。私の時とは違った理由で、タクミ殿の事は気に入られると思うからな。刀を使う事も問題なく許可されるはずだ」

「はぁ……」


 俺の事を説明したら、そのとあるお方というのは、必ず気に入るはずだと自信があるように言うエッケンハルトさん。

 その、とある人がどんな人なのかはわからないが、ともかくエッケンハルトさんに任せる事にしよう。

 屋敷でエッケンハルトさんと接していると、少し不安な部分もあるが……立派な公爵家当主様だもんな。


「エッケンハルトさんに任せます。でも、そのとあるお方って、どんな人なんですか?」

「うむ……まぁ、なんだ。少々変わったお方だが、悪い方ではないのは間違いない。あまり詳しく言う事はできないのだが……タクミ殿を、私が信用した理由の一つでもあるな」


 これまた言いにくそうに話すエッケンハルトさん。

 悪い人ではないと、エッケンハルトさんが言うのだから、安心はするが……俺を信用した理由の一つにその人がいるというのは、なんでだろう?

 これもあまり話せず秘匿する事なのか……俺と同じギフト持っているから、とかかな?

 よくわからないが、いずれ話せる時が来れば知る事ができるのかもしれないし、俺が知らなくてもいい事なのかもしれない。


 好奇心、猫をも殺すというから、詮索はしないでおこう。

 知りたくないわけじゃないけどな……。

 刀の話はこれでいいとして、屋敷に戻る前にもう一つ、だな。


「わかりました。刀の事等はエッケンハルトさんに任せます。それで……あっちの薬草を栽培している所なんですが……」

「うむ、任せてくれ。……薬草、昼よりもさらに成長しているな。見ている者達に聞くとするか」

「はい」


 刀の話を終わらせて、離れていた場所から見える簡易薬草畑の方へ、意識を向ける。

 そちらでは、薄暗くなって来たからよくは見えないが、昼食後に裏庭へ出て来た時よりも、明らかに成長している薬草が見えた。

 昨日程の急激な成長と増殖ではないようだが、明らかに異常と思えるくらいの成長速度だと思う。

 俺は、エッケンハルトさんと顔を見合わせ、見守っててくれる執事さんの所へ向かった。


「タクミ殿の薬草、どうなっている?」

「はい、ずっと観察させて頂きましたが、見た事がない程の成長速度でございます」


 簡易薬草畑の近くで観察している執事さんに、エッケンハルトさんが話しかける。

 その執事さんが言うように、確かによくわからない速度で成長した薬草は、既に摘み取っても大丈夫なくらいになっていた。


「ふむ、それなら……新しく作った薬草の方はどうだ?」

「あちらになります。新しい方の薬草は、昨日から見ている物とは違い、さらに成長速度が早いようです。ご覧のように、大きくなったうえ、数も増やしています」

「そうみたいですね」


 少し離れた場所に、今朝新しく俺が『雑草栽培』で作った薬草が栽培されている。

 そちらでは、昨日見た物と同じように、大きくなった薬草と、周囲に倍くらいの数で新しい薬草が芽を出していた。

 ふむ……?


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