第361話 簡易薬草畑の様子を見ました



「エッケンハルトさん、新しい方の薬草は、昨日と同じですね」

「そのようだな。つまり、タクミ殿が直接作った薬草は、成長が早く、数も倍くらいに多くなる。昨日増えた薬草のこれからを観察する必要はあるが、新しく生えて来た物は、成長速度が遅くなり、数もあまり増えない……という事か」

「多分、『雑草栽培』から直接作られたのと、間接的に増えた物とで、成長速度と増える量が変わるのかもしれません」


 俺が直接作った薬草は、成長速度が早く、1日経たずに数を増やした後、枯れて行く。

 増殖した方の薬草は、成長速度が遅くなり、数もあまり多くはならない……。

 増えないと言っても、1.5倍程度の数にはなってるから、数を増やすという意味では成功と言えるか。

 まだまだ経過を見る必要はあるだろうが、数という面で見れば、俺の『雑草栽培』で作った薬草は、その後も数を増やす事ができるという事だろうと思う。

 まぁ、増えた薬草のそのまた次、さらに次……となるとどうなるかは、まだわからないが……。


 ともあれ、単純計算だと、ラモギを10作った場合、1日で20になり、その20がさらに2日程で30になるかも……というように増えている。

 俺の『雑草栽培』と合わせれば、短期間でかなりの数を増やせる事になる計算だ。

 摘み取るタイミングを間違えず、増えた段階で採取したのなら、3日で最大50のラモギが入手できる、と。

 さらにその間に『雑草栽培』も使えるとなると、数を増やすのは簡単な事となるわけだ。


「現段階では、タクミ殿の薬草の数を増やすという目論見は、成功と言う所だな」

「はい。まぁ、摘み取ってみて、品質がどうか……という事もありますけどね」

「そこは、これからだな。ある程度様子を見てから、摘み取って見るとしよう」

「そうですね」


 本当は、もう一つ気になる事がある。

 それは、『雑草栽培』で作った薬草以外の物に、状態変化をかけて使用できる状態にできるかどうか、だ。

 だがこれは、大丈夫だと俺は考えてる。

 イザベルさん曰く、『雑草栽培』の主な能力は、いつでもどこでも植物を生やせるという事。


 植物に制限はあるが、いつでもどこでもというのなら、『雑草栽培』からの薬草でなくとも、状態変化ができるだろうと俺は考えてる。

 そこらの事は、そのうちだな。

 品質を確かめたりする以上に、このまま薬草を栽培し続けたらどうなるかを、観察する方が先だ。


「では、薬草の様子も見られた事だし、屋敷へ戻るか」

「はい。あ、すみませんが、もし枯れて来たりする様子があっても、そのままにしておいて下さい。昨日の物と同じ事になるのかと、増えた方の薬草も同じようになるのかが見たいので」

「畏まりました」

「あと、無理はしないで下さいね」

「はい、心得ております」


 執事さん達は、薬草が枯れてしまうと、また慌てる可能性もあるから、枯れる事も含めて観察と伝えておく。

 これで、新しい薬草が同じ事になるのかと、増えた方がどうなるのかが観察できる。

 失敗したと、執事さん達が考えないのも重要だ。

 朝から執事さん達が慌ててしまい、俺に謝らないと……という事にならないためにもな。


 ついでに、無理はしないようにと言っておく。

 さすがに交代はするらしいが、ずっと薬草を見ているので、知らず知らずのうちに疲れが溜まっているかもしれないからな。

 薬草の観察は執事さん達に任せ、俺とエッケンハルトさんは、屋敷へと戻って食堂へと向かった。

 少し遅くなったから、レオやリーザがそろそろお腹を空かして我慢ができなくなってるかもしれないな。



「ふむ……タクミ殿、まだはっきりと効果を実感できるとは言えないのだが……これを飲み始めて、少し調子が良くなったように感じるな」

「そうですか?」


 夕食後、薬酒を用意してもらい、皆で飲む。

 もちろん、レオやシェリー、リーザとティルラちゃんには、ブドウジュースを飲んでもらっている。

 リーザは、すっかりこのブドウジュースが気に入ったようで、デザートが出た時と同じように、満面の笑みでコクコクと飲み、喜びを表すように、尻尾がフリフリと揺れている。

 そんなリーザの様子を微笑ましく見ながら、エッケンハルトさんに答える。

 視界の中で、クレアさんとアンネさんも、エッケンハルトさんの言葉に頷いてるようだ。


「タクミさん、確かに少しなのですが、いつもより朝の目覚めがいいような気がします。気のせい……と言われれば、それまでかもしれませんが……」

「私は、髪を整えるのが少しだけ楽になりましたわ。おかげで、リーザちゃんに怖がられないよう、新しいスタイルの開発もできましたし」


 クレアさんは寝覚めが良くなったと……薬酒で寝付きが良くなったとか、熟睡できるようになったとか、そういう事なんだと思う。

 以前から作っていた薬草の効果にも近いが、こちらは自然に体がそうなったとも言えるから、健康的なのは薬酒の方かもな。

 アンネさんは……縦ロールの蝶々結びになっている部分を示しながら、薬酒の効果を実感しているようだが……滋養強壮とか、栄養補給にそんな効果ってあったっけ?

 健康になって、髪の艶が……というのならわかるが、髪を縦ロールや蝶々結びにするのが楽になる効果なんて……まぁ、体と一緒で、髪も健康になったんだと考えておこう。


「まだ少し、考えていたよりも効果を実感できるまでが、早いと思いますが……多少なりとも調子が良くなって来たのなら、成功ですね」

「はい。私も、年のせいか体力の衰えを感じていましたが、薬酒を飲み始めてから、随分と体が楽になったように感じます」

「ははは……そうですか……」


 近くで待機していたセバスチャンさんも、薬酒の効果が実感できていると、少し高揚した様子だ。

 でも、セバスチャンさん……さすがにそこまで、実感できるほどじゃないような気がするんだけどなぁ。

 セバスチャンさんは、薬酒を作る前に、栄養薬草の試食とか色々してたから、その分も加味されているのかもしれない。

 それにしても、セバスチャンさんの言い方に、日本での通販番組やCMを思い出してしまった。


 お爺さんやお婆さんが、サプリを飲んで体が元気に……とか言うやつだ。

 全く同じじゃないが、ああいうのに主演してるお爺さんとかと、今のセバスチャンさんが重なって見えて、苦笑してしまった。



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