第359話 刀の鍛錬も追加されました
「むぅ、そうか? わかりやすく動いたつもりなのだが……」
「旦那様、まずは刀の基本的な事をお教え致しませんと。剣との違いすら理解できないのではないでしょうか?」
「「っ、っ!」」
俺とティルラちゃんの言葉に、首を傾げるエッケンハルトさん。
セバスチャンさんがフォローするように言ってくれたので、それに便乗して俺もティルラちゃんも首を縦に振った。
「そうか……わかった。それでは、まず握り方だな。剣とは違って……」
ようやく基礎から教えてくれるようになった事で、剣との違いを実感しながら鍛錬が始まった。
握り方から振り方まで、大きな違いはそれほどないのだが、ショートソードやロングソードは、押して斬る事の多い剣であるのに対し、刀は引いて斬る剣だ。
そのために、刀は反り返ってるらしいんだが、日本でもそうだったのかはわからない。
ともかく、日本の剣術ではなく、この世界で育った刀の剣術を習う事になったが、思ったよりもこれがしっくり来るような気がした。
俺が日本人だからだろうか、たまたま俺にこの世界の刀が合っていたのかはわからないが、日が暮れ始める頃には、エッケンハルトさんが感心するほど、まともに刀を振れるようになっていた。
さすがに、模擬戦で見たような動きをする事は、まだできないけどな。
これも、今まで両刃剣の方で、鍛錬をしていた下地があったからだと思う。
何もしていないのに、刀を持て日本人だからという理由で、すぐになれる事ができるわけないしな。
ちなみにティルラちゃんは、刀を持ってはみたものの、しっくり来なかったらしく、首を傾げるばかりで、結局いつもの剣に戻っていた。
エッケンハルトさんは使いこなせる刀を、娘のティルラちゃんが受け継いでくれないとわかって、ショックを受けた様子だったのが、印象的だな。
元々、エッケンハルトさんは、剣よりも刀の方が得意らしく、真面目に戦闘をする場合は剣ではなく刀を使うらしい。
「それにしても、刀なんてこの世界にあったんですね? てっきりない物とばかり思っていました」
「うん? タクミ殿は、刀を知っていたのか? 先程は、驚いていたようだったが」
鍛錬を終えて、少しだけ手に馴染むようになった、鞘にしまわれた刀を見ながら、タオルで汗を拭きながら聞く。
屋敷もそうだが、ラクトスの街でもランジ村でも、建築様式は西洋風だったし、文化的にもそちらが近いようだったから、日本の刀があるとは考えていなかった。
ラクトスの店で見たのも、西洋剣ばかりだったしな。
「えぇ。俺が以前にいた世界……国では、刀を使う事が多かったようです。俺が産まれた時代では、もうあまり使われていませんでしたが……」
「そうなのか……刀は素晴らしい剣だと思うが、使われていないのか……」
現代には、銃火器があったからなぁ。
刃物を武器として持つ事がないとは言わないが、多くの場合はナイフの類だ。
そもそも、銃刀法があるから、許可もなく携帯する事なんてできないしな。
「こちらに来てから、両刃の剣しか見た事がなかったので、刀があったのに驚いていたんですよ」
「成る程な、だからさっきのような驚き方か。ふむ……そうだな……セバスチャン?」
「はい、クレアお嬢様やアンネ様は、屋敷の中に戻られております。ティルラお嬢様は私が……レオ様とリーザ様は……」
「そこは、タクミ殿に任せるかないな。タクミ殿、すまないがリーザとレオ様に、先に屋敷の中へ戻っていてもらえるよう言ってくれないか?」
「え、はい……わかりました」
なにかあるのか、少し考えたエッケンハルトさんは、セバスチャンさんを呼んで確認をする。
クレアさん達は、既に屋敷の中に戻っているため、この場にいるのは俺とレオ、リーザとティルラちゃん、エッケンハルトさんとセバスチャンさんだ。
あとは、簡易薬草畑を見ている執事さんくらいだな、シェリーはクレアさん……正確にはアンネさんに連れて行かれた。
言われた通り、レオとリーザに先に屋敷へ戻って、食堂で夕食を待つように言い、向かってもらう。
少しだけリーザが不安そうな顔をしたが、レオが襟を咥えて連れて行った……レオの口にぶら下げられたリーザは、体がプラプラするのが楽しいらしく、喜んでたな……良かった。
ティルラちゃんは、セバスチャンさんと一緒に屋敷へ戻る。
簡易薬草畑を見てくれている執事さんと距離を取り、これで誰にも話を聞かれない状況になった。
ここまでして、何か重要な事を話すのだろうか?
刀と言うだけで、そこまで重要な事だとは思えないんだが……。
というか、今までも重要な事のような気がしても、実は違ったという事が多かったから、今回も似たようなものだろうな。
「刀に関しては、詳しい事はわかっていないのだ。ある程度の事は、貴族家当主以上なら知らされているのだが、さすがにこれを教えることはできん」
と思ったが、今回は本当に重要な事だったらしい。
貴族家当主でさえ、ある程度しか知らない事なんて、さすがに軽々しく教えてもらえるわけないか。
「という事は、刀の事は秘密事項となるんですか?」
「うむ、そうなるな。見せておいてすまないが、話せる事は少ない。王家……国が関わっている事だからな」
「そうですか……では、作られてるのはこの国で、となるんでしょうか?」
「まぁ、それくらいは予想ができるか。刀を作っているのは、王家直轄領……つまり王都とその周辺になるな。詳しい場所は言えないが、そこで作った物を王家と一部の貴族当主へと売り出されるわけだ」
ふむ、日本のような文化のある国があって、そこから輸入しているのではと思ったが、この国で作ってるのか。
だとすると、刀を作る技術を持った人が、この国に来たのか、それとも独自に開発したのか……。
剣を使う事が当たり前な場所で、刀を作る技術が新しくできるとは、あまり思えないんだが、何かしら原因があるのかもしれないな。
ともあれ、刀に関する事は多くが秘匿されているようだから、無理に詮索するのは止めよう。
下手に知ってしまって、何かから狙われたり、エッケンハルトさんの立場を悪くしてもいけないからなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます