第343話 耳や尻尾の触り方を学びました



「ううん、全部嫌ってわけじゃないよ。うーんと……なんて言うんだろう……くすぐったいような……」

「ワフ、ワフワフ」

「うん、そう。ママの言う通り、敏感なんだよ」

「成る程なぁ。敏感だから、強く触ると痛いし、恐る恐る触ってもくすぐったい……って事か。……ん?」


 頭を悩ませ、うんうん唸りながら考えて言葉を探していたリーザ。

 それをフォローするように、レオが鳴くと、すぐに頷いてその言葉を肯定した。

 肉球とかに近いのかな?

 敏感だから、他の場所に触られるよりも、くすぐったかったり痛かったりするものなのかもしれないな。


 そこまで考えて、少し違和感。

 今、俺がレオの言葉を通訳しなくても、リーザは理解してた……?


「リーザ、話は変わるけど……もしかして、レオの言葉がわかるのか?」

「え、うん。わかるよ。パパも一緒でしょ?」

「いや、まぁそうなんだけどな……うーん……」


 これは、もしかするとリーザが獣人である事の、一番の特徴かもしれない。

 俺はずっとレオと一緒にいたから、仕草や声のトーンなんかで何が言いたいのか理解してる。

 まぁ、理解し過ぎてる部分もあるような気はするが……。

 クレアさんや他の人達は、ここしばらくレオと接していたおかげで、少しはわかる気がするらしいが、はっきりとはわからないらしい。


 でもリーザは、はっきりとレオの言葉に頷いて、理解している様子だ。

 耳が特殊なのかどうなのか、理由はわからないが、獣人だから……という事になるのだろう。


「だから、レオがママなのか……」

「うん。ママから話しかけてくれて、優しくて面白かったから!」

「ワフ? ワフゥ……」


 リーザを助けた時、一度怯えた後、すぐにレオと打ち解けたのは知ってる。

 子供だから、慣れるのが早いと思っていたが……レオとはっきり話せるからだったらしい。

 しかし、レオが面白いって……あの時レオはなんて言ってたんだ? 俺はエッケンハルトさんと話してたから、聞いてなかったんだが。

 レオの方は面白かったと言われて、ちょっと心外な様子。

 リーザに怯えられないよう必死だったからな……俺から見てもあの時の様子は面白かった。


 ともかく、これは明日にでもクレアさん達に伝えておこう。

 獣人の事を、どれだけ知っているのかわからないが、この事を知っている様子はなかったしな。


「さて、話を戻すとして……リーザ、結局誰かに耳や尻尾を触られるのは、どうなんだ?」

「うーん……ここにいる人達なら、乱暴な事はしないだろうから、大丈夫……だと思う。うん、我慢する!」

「いや、我慢はしなくてもいいし、して欲しくないんだが……」


 やっぱりリーザは、周囲の事をよく見ている。

 それは獣人だからなのか、スラムで育ったからなのかはわからないが、この屋敷の人達はリーザを害する気はないと、感じ取ってるようだ。

 とはいえさすがに、悪意がなかったとしても、リーザが我慢するような事はさせられない。


「そうだな……それじゃあ、まず俺が触ってみるから、嫌だったら嫌ってすぐ言ってくれ。リーザが嫌がる事をする気はないからな?」

「うん、パパだったら大丈夫。えっと……どうぞ?」

「うん、ありがとう。それじゃあ……」

「ワフワフ、ワフ!」


 どういう風に触ればいいのか、どうしたらリーザが嫌がらないのかを探るため、試しに俺が、とリーザにお願いする。

 すぐに頷いて、笑顔のまま俺に頭を差し出して来るリーザ。

 まずは耳からか……ゆっくりとリーザの頭、そこにある耳へと手を伸ばすと、途中でレオが注意すように吠え始めた。


「レオ、指導してくれるのか?」

「ワフ!」


 どうやらレオは、俺が触ってリーザが嫌な思いをしないように、触り方を指導してくれるみたいだ。

 レオなら、耳や尻尾のある感覚を知ってるから、頼りになるな。

 ……もしかして、レオにも嫌な触られ方とかあるんだろうか?


「ワフ、ワフワウ」

「えーと、最初はゆっくりと、頭全体を撫でるように……と」


 レオの指示により、ゆっくりとリーザの頭に右手を近付け、手のひらで小さな頭を包み込むようにしながら、ゆっくりと撫でる。

 当然、頭から出ている耳にも、手が当たる事になる。


「おぉ……レオとはまた違った触り心地だな」

「ワフ? ワフワフ!」

「ははは、レオもレオで、撫でると気持ちいいから、安心しろ」

「ワフゥ。ワフ!? ワウ!」

「え!?」

「きゃはは! パパ、くすぐったいよ!」

「おっと、ごめんごめん」


 レオとは違う心地で、リーザの耳も茶色の毛がフサフサで気持ちいい。

 それを確かめるように触れていると、レオから少し拗ねたような声。

 大丈夫だ、レオの方もちゃんと気持ちいいからな。


 レオに笑ってフォローしていると、突然レオからそこは駄目! と強めの注意が来た。

 リーザは笑っているが、かなりくすぐったかったんだろう、すぐに頬を膨らませて怒られる。

 謝りながら、今自分が触れていた部分を確認すると、そこはリーザの耳の中だった。

 さすがに、耳の外側は触れてもいいが、内側は駄目だったようだ。


 人間でも、耳の内側はくすぐったかったり、触られたくない人もいるから、当然か。

 特に獣人は、敏感なのかもしれないしな。


「ワフ! ワフワフ」

「わかった、気を付ける。えーと次は、耳の付け根か……」

「にゃふぅ……」


 レオからもう一度注意を受け、今度は耳の付け根を揉み解すようにと指示を受ける。

 両手でそれぞれの耳の付け根を、指先でゆっくり揉み解すようにすると、リーザが気持ち良さそうな声を上げた。

 ふむ……耳を良く動かしてるから、人間で言う肩凝りみたいに、ここが凝ってしまったりするのかもしれないな。


「しかしリーザ、なんで出た声がそれなんだ?」

「そう言われても……気持ち良かったから。にゃふぅ……」


 リーザに聞いても、気持ち良かったからとしか帰って来ない。

 さらにまた同じように、溜め息を吐くような感じで声を息を漏らした。

 むぅ……耳や尻尾の形から、リーザは狐かと思っていたんだが……猫なのか?

 いやまぁ、多分特に意識してないだけで、猫ではない……と思う。


「ワフ、ワウワフ」

「わかった。次は尻尾だな」


 耳を触る事に慣れて来たので、次は尻尾へと手を伸ばす。

 リーザの尻尾は、狐の尻尾の例に漏れず、ふさふさで大きい。

 多分……シェリーくらいの大きさなら、ここに埋もれる事もできるんじゃないかな?



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