第342話 リーザが起きてしまいました



「ごめん、起こしてしまったね?」

「……んー、ううん。先に寝てしまってごめんなさい。パパが帰って来るのを、まってるつもりだったのに……」

「ははは、いいんだよ。まだまだ慣れない事ばかりだろうしね。リーザが疲れてもおかしくないんだし。それに、薬の調合もやってもらったからね」

「うん、頑張った。パパ……私、お手伝いちゃんとできてた?」

「もちろん。リーザのおかげで助かったよ」

「ワフワフ」


 薄く目を開けたところで、俺の姿が見えたんだろう。

 顔を上げて目を擦り、まだ少し眠そうにしながらも、体を起こしたリーザ。

 本当は、俺の帰りを待っていてくれたみたいだ。

 無理をして欲しくはないが、帰りを待っていてくれる子がいるというのは、いいなぁ。


 これが父親としての感動なのか……なんて事を考えつつ、リーザと話す。

 どうやら、リーザは興味があった事とは別に、薬の調合で俺の手伝いをしたかったらしい。

 頑張らなくてもいいのに、と思う反面、そんなリーザの考えが嬉しかった。

 レオも、俺に同意するように、優しい目をして頷いてるしな。


「さて、途中で起きたから、もう眠いだろ? ベッドに行って、今日はもう寝よう?」

「……ううん。まだ、パパやママと一緒に話したい」

「でも、眠くないのかい?」

「少し寝たから、大丈夫。もっと、パパやママと一緒にいたいから」

「そうか。それじゃあ、いつ寝てもいいように、ベッドに乗って、それから話そうか?」

「うん、わかった」


 素直に頷いて、レオから離れ、ベッドに座るリーザ。

 座るんじゃなくて、横になって欲しかったんだが……まぁいいか。

 リーザは、寝れば俺やレオと、一緒にいられないと考えてるのかもしれない。

 それはもしかしたら、お爺さんを亡くした事が関係してるのかもしれないな……もしかしたら、嫌な夢を見る事があるのかもしれない……というのは考え過ぎか。


 それに、俺やレオが夢に出て来なければ、リーザにとって一緒にいない事と同じなのかもしれない。

 子供らしい考え、なのかもな。


「それじゃあ、なんの話をしようか……」

「なんでもいいよ。パパやママとお話できたら、それだけで楽しいから」

「そうかい? なら……」


 笑顔で嬉しい事を言ってくれるリーザ。

 俺やレオと話す事が、リーザにとっての楽しみになるのなら、多少寝不足になっても付き合おう。

 さすがに、途中でレオに止められそうだがな。

 ともあれ、リーザとゆっくり話すいい機会だ。

 色々聞きたい事はあるが、まずはクレアさんから頼まれてた事を話してみよう。


「えぇと……リーザは、獣人の掟って知ってるかい?」

「うーん……知らない!」


 リーザは、クレアさんやセバスチャンさんが言っていた、獣人の掟の事は知らないらしい。

 生まれて間もなくスラムに捨てられたのなら、教える人はいなかっただろうし、仕方ないか。

 リーザを拾ったお爺さんも、獣人の差別はなくとも、詳しくは知らなかったんだろう。


「そうか。簡単に言うと、獣人には守るべき掟があって、それを破ると怒られるらしいんだ。まぁ、ここは獣人の国じゃないから、怒る人はいないだろうけどね」

「そうなんだ。どういう事をしたら怒られるんだろう?」

「確か……簡単に知らない人について行かないとか、だったかな」

「んーと、お爺ちゃんから聞いた事があるよ。知らない人は、リーザをイジメる人かもしれないから、ついて行っちゃいけないって」

「うん、そうだね。誰かもわからないんだから、ついて行ったら危ないかもしれないからね」


 言ってて思ったが、やっぱりこれって子供へのしつけのような気がして来た。

 それにしても、知らない人に……か。

 俺やエッケンハルトさんは、突然リーザの前に現れ、イジメられてる所を助けたが、その後すぐに孤児院に連れて行ったっけ。

 それを考えると、リーザが知らない人について行った事にならないか?


「えーと……リーザ。俺に付いて来てしまったけど……いきなりすぎたかな?」

「お爺ちゃんじゃない人が助けてくれたのは、驚いたけど……大丈夫、私にはパパやママが優しいってわかるから!」

「そ、そうか。うん、それなら良かった」


 一応、リーザは初めてレオを見た時に怯えたが、あれは見た目の事もあったし、集団でいじめられてたすぐ後だからな、仕方ない。

 リーザには、獣人としての感覚なのか、それとも特殊な力なのか、俺やレオが悪い事をするとは感じなかったみたいだ。

 まぁ、子供は意外と大人のする事をしっかり見ているから、そこから判断したのかもしれないしな。


 しかし、獣人は何故こんな掟が必要なのだろう?

 リーザはちゃんと周囲を見て判断しているから、こんな掟は必要ない気がするんだが……。

 いや、リーザは特殊なだけで、他の獣人にとっては必要なのかもしれないな。

 スラムで育ったから、周囲の状況が原因で警戒心は強いだろうし……今はそうは見えないが。

 ともかく、獣人の事をよく知らない俺が、ここで考えてても仕方ないな。


「あと、そうだな……リーザは、尻尾や耳を触られるのは苦手かい?」

「んー、パパやママなら全然大丈夫。でも、いっぱいの人に触られるのは苦手だよ……前にも、引っ張られたり、痛い事されたから……」

「ワフ!」

「そうか……とりあえず、レオは落ち着け。気持ちはわかるけどな」

「……ワゥ」


 獣人の掟とか関係なく、耳や尻尾はあまり触られたくないらしい。

 スラムで、イジメられてる時に弄られてしまった事があるようだ。

 まぁ……獣人の特徴である耳と尻尾は、目立つからなぁ。

 リーザの話を聞いて、憤慨した様子のレオがすくっと立ち上がるが、落ち着けるように声をかけておく


 放っておくと、怒ったままスラムに突撃しそうだな……レオが行ったら、ラクトスの街が混乱してしまいかねない。

 俺も少しは怒ってるが、レオ程じゃない。

 そういう事もあるかも……とは予想してたから。

 一応俺の言葉で、レオは納得いかないながらも、おとなしくお座りしてくれた。


「よしよし。リーザ、やっぱり耳や尻尾って触られると嫌なのか?」


 落ち着いたレオの体に手を伸ばし、ゆっくりと撫でながらリーザに聞く。

 耳や尻尾に触られるのが嫌なら、クレアさんには断っておかないといけないし、俺もリーザと接する時に気を付けないといけないからな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る