第341話 リーザのお風呂はライラさんにお任せしました



「それじゃあリーザ、俺とレオは先に部屋に戻ってるからな?」

「……嫌。お風呂まで付いて来て欲しいよ、パパ」

「んー、そうか。まぁ、最初だしな」

「ワフ」

「ふふふ、余程タクミ様やレオ様と離れたくないんですね」


 リーザの事はライラさんに任せて、レオと先に部屋へ戻ろうとしたら、服の裾を掴まれて止められた。

 まだすぐに離れるのは不安なんだろう。

 仕方なく、俺とレオは、リーザを連れて風呂場の入り口まで行く事にした。

 ライラさんは、そんな俺達の様子を微笑ましそうに見ながら付いて来ていたが、俺達はどう見えてるんだろうか?


 親子……というには、少し俺が若過ぎるだろうという希望があるが、もしかして……?

 せめて、兄妹くらいに見えてて欲しいなぁ。 

 リーザからパパと呼ばれてる時点で、望みは薄いかもしれないけどな。



「パパ、お風呂に入って来たよ!」

「うん、お帰りリーザ。ありがとうございます、ライラさん」

「ワフワフ」

「いえ、リーザ様はおとなしく、しっかりとお世話をさせて頂けたので、楽なものでした」


 リーザをお風呂の入り口まで送り、ライラさんに任せて部屋に戻った俺とレオ。

 部屋で休みながら待っていると、勢いよく扉を開けてリーザが部屋に戻って来た。

 風呂に入ってしっかり温まったリーザは、そのままレオに抱き着き、毛に埋もれる。

 リーザを迎えながら、ライラさんにお礼を言っておくことは忘れない。


 ライラさん曰く、リーザは風呂ではしゃぐ事もなく、おとなしくしていたそうだ。

 リーザと一緒に風呂に入ったライラさんは、自分の方もついでに洗ったのか、しっとりした髪を撫でつけながら微笑んだ。

 その様子は、クレアさんとはまた別の、長い黒髪が和風にも見える色気があって、一瞬だけドキッとしてしまった。


「パパ、どうしたの?」

「い、いや。何もないぞ。気にしなくていいからな?」

「そう、なの?」

「ワフ……」


 動きの止まった俺を見上げて、リーザに聞かれるが、何でもないと誤魔化しておく。

 さすがに、風呂上がりのライラさんに……なんて、この場で言えないしな。

 ……レオは、何故か察していたような雰囲気だが。


「んんっ! ともかく、今度は俺が風呂に入って来る番だな。リーザ、ここでレオと一緒にいてくれ」

「うん、わかった」

「ワフ」


 気を取り直し、リーザと交代で俺が風呂に入るため、座っていたベッドを離れる。

 リーザとレオが頷いて答えた。

 レオはまぁ、今日は風呂に入らなくていいと安心してそうだな。


「では、タクミ様も、私がお世話を致しましょうか?」

「え!? ……い、いえ、結構ですから。俺は一人で入れるので!」

「……そうですか? わかりました……」


 部屋を出ようとした俺に、声をかけるライラさん。

 だがその言葉は、とてつもなく魅力的に思えてしまって、一瞬だけ考えてしまった。

 とはいえ、さすがに頼むわけにもいかない……俺も、一応男だ。

 ライラさんと一緒になんて、色々気になり過ぎて落ち着いていられない。

 リラックスできる空間である風呂で、緊張するなんて事態にはなりたくないからな。


 俺がライラさんの申し出を断ると、少し落ち込んだように俯いた。

 そんなにお世話がしたかったのか? と考えつつ、これ以上変な気持ちにならないよう、風呂へと急いだ。

 そんな俺の様子を見て、レオが深いため息を吐いていた気がするが、それは気にしない事にした。

 むぅ……レオめ……いずれライラさんに頼んで、レオを風呂に入れてもらおう。

 お湯でしっかり、顔も含めて全身を洗うように頼んでやるからな……まったく。



「ふぅ……さっぱりし……おっと」

「ワゥ……」


 ライラさんの事をあんまり考えないようにして、風呂に入って体を洗い、お湯に浸かって温まった後、部屋に戻って来た。

 部屋に入りながら、中に声をかけたが、それは途中で止めた。

 動かないようにしながら、こちらに目を向けたレオも、静かに……と言うように小さく鳴く。


「くぅ……すぅ……」

「ふふ、よく寝てるな?」

「ワフ」


 俺が部屋から出る時、リーザはレオの体に抱き着いて、レオの毛に埋もれていたが、そのまま寝てしまっていたらしい。

 戻って来た時は、まだ髪や尻尾が湿っていたように見えたが、今はもう乾いているし、レオの毛に包まれてれば暖かいから、体調を崩す事はないだろう。

 気持ち良さそうに寝ているリーザを見て、レオと顔を見合わせて囁き合った。

 鋭い目付きをしてるはずのレオだが、リーザを見る目の奥はとても優しい。


「しかし、さすがにこのまま寝かせておくのはちょっとな……でも気持ち良さそうに寝てるし、起こすのはかわいそうだ」

「ワフ?」


 気持ち良さそうにレオへと抱き着き、寝ているリーザだが、このままここで寝かせるのではなく、ベッドで寝て欲しい。

 体調を崩す心配はなさそうだが、これが癖になると、レオがいないと寝られない……なんて事にもなりそうだからな。

 リーザを見ながら考える俺に、レオが不思議そうに見る。


「このままこれが癖になったら、レオを抱き枕と認識しそうでな。寝るときはちゃんとベッドで寝て欲しいからな」

「ワゥ……」


 説明すると、レオも確かに……と言うように答えた。

 たまにならいいんだがな……俺もレオの気まぐれで、体を半分ベッドに乗せてる時は、枕代わりにさせてもらってるし。

 でも、今屋敷や周囲に慣れ始めてるから、すぐに癖になってしまいそうだ……。

 どうするべきか……いやまぁ、今日一日くらいは大目に見て、明日から言い聞かせればいいのか。


「……ん……パパ……?」


 結局、動かしたら起こしてしまいそうという事で、このままにしようかと考えていたところで、リーザが薄く目を開けた。

 どうやら、俺とレオが見ていた事で、何かしらの気配を感じて目が覚めてしまったらしい。

 獣人だから、レオみたいにそういう事には敏感なのかもしれない。

 今朝も、俺やティルラちゃんが見ていたら起きたんだった。

 レオの毛に包まれて安心していても、まだ慣れない屋敷の中だから、無意識に警戒している部分もあるのかもしれないな。



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