第300話 ラクトスを出発しました
エッケンハルトさんと衛兵さん達が話しているのを見ながら、何故か俺の後ろで、うんうん頷いているレオ……。
もしかして、俺も微かに聞こえる程度なのに、レオにははっきり聞こえてるんだろうか?
それに、頷いてるという事は、エッケンハルトさんが伝えてる事に納得してるのか……?
本当に理解してるんだろうか……何となく頷いてるだけかもしれない。
「……待たせた。では、屋敷へ向かおうか」
「はい」
「ワフ」
「わかっ……りました」
最後に、エッケンハルトさんは、衛兵さん達に西門で馬を1頭用意する事を伝え、俺達の所へ戻って来た。
リーザに見られないよう、顔は隠してからだ。
……リーザの話し方はたどたどしいが、頑張って丁寧に話そうとしてるな……。
先に去って行く衛兵さん達を見送って、俺達も屋敷に帰るべく西門へ移動した。
「馬の用意、出来ております!」
「うむ、ご苦労」
「……どうして馬の用意をしたんですか? レオに乗れば良いのに……」
「ワフ?」
西門まで辿り着き、衛兵さんが一人、馬を連れて来る。
レオに乗れば、馬を用意する必要もないはずなんだけど……大人が2.3人乗っても平気そうだしな。
レオもエッケンハルトさんの方を、首を傾げながら見る。
「レオ様には、タクミ殿とリーザが乗るのだろう? タクミ殿は、レオ様にリーザが落とされないように、しっかり抱いていないといけない。そんな状態で、後ろから私にしがみ付かれても、邪魔だろうしな」
「あー……そうですね。確かに」
「ワフゥ……」
「……?」
言われてみると確かにそうだ。
レオに乗って走るのが初めてのリーザがいるのだから、エッケンハルトさんにしがみ付かれると、バランスを取るのが難しいかもしれない。
リーザを俺の前に乗せて、落ちないように支えるとして……もしもバランスを崩した時、後ろからエッケンハルトさんに抱き着かれてたら、リーザをしっかり支えてやれないしな。
エッケンハルトさんの言葉に納得していると、レオは大丈夫なのに……と言わんばかりに溜め息を吐き、リーザは首を傾げてる。
……耳と一緒に、尻尾も頭のように斜めに傾けてるのが、ちょっと可愛い。
「では、屋敷へ出発だ」
「はい」
「ワフ!」
「……わかりました」
エッケンハルトさんが馬に乗り、俺がリーザを抱えてレオの背中に乗る。
走り出した馬について行くように、レオが走り始めるが……いつもより振動が少ない?
「レオ、ありがとな。気を使ってくれて」
「ワフ!」
「……わー!」
レオは、リーザがバランスを崩したりしないよう、体をなるべく揺らさないようにして走ってるみただ。
俺が感謝を伝えると、吠えてそのまま馬の横に並んだ。
こんな事もできたんだな……しかも、そうやって気を使っていても、馬についていける速さだし……すごいな。
リーザは、こんなに早く移動するのが初めてなのか、感動したような声を出して、キョロキョロと流れる景色を見てる。
今回はそんなに早くないが、それでもリーザにとっては新鮮なんだろうな。
「ははは、楽しいかい、リーザ?」
「うん……はい! こんなに早く走るなんて初めて……です!」
「そうかぁ」
エッケンハルトさんの馬と並んで、走るレオの上ではしゃぐリーザ。
スラムにいたとか関係なく、馬に乗るような年齢じゃないからな。
エッケンハルトさんも、馬を操りながらこちらを見て朗らかな笑顔……のように見える。
まだ顔を隠してるから、何となく雰囲気で……だな。
グゥ~……。
「ん?」
「あ……」
レオに乗って走りながら、かすかに聞いた事のあるような音が聞こえた。
何の音かと首を傾げていると、リーザが恥ずかしそうに俯いた。
さっきまであんなにはしゃいでいたのに……もしかして?
「リーザ、お腹が減ったかい?」
「……はぃ」
消え入りそうな声で、頷きながら返事をするリーザ。
さっきの音は、やっぱりリーザのお腹が鳴った音らしい。
走りながらでも聞こえたんだから、もしかしたら大きな音だったのかもしれない。
スラムで見つけた時から今まで、食事はしてなかったからお腹が減っていてもおかしくないか。
懐かれてるとは言え、まだ遠慮してるように見えるリーザだから、お腹が減ったなんて言い出せなかったんだろうな。
遠くを見てみると、日が沈みかけて辺りが薄暗くなってる……もう夕方か。
よく考えて見ると、俺も結構お腹が減って来たな。
「俺がお世話になって所へ着いたら、何か用意してもらうから、それまで我慢できるかい?」
「……はい! ……でも、喉も渇きました……」
「んー、そうか……」
「ワフ!」
「ん、レオ? エッケンハルトさん!」
屋敷に着いたら、ヘレーナさんかセバスチャンさんに頼んで、何か食べる物を用意してもらおうと考え、リーザに声をかける。
少し考えて頷いたリーザだが、次は喉が渇いたと訴える。
まぁ、食べるのを多少我慢するのはまだしも、何も飲んでないから水分不足は辛いか。
そう思ってどうしようか考えていたら、レオが一つ吠えて速度を落とし、止まってしまった。
どうしたのか声をかけながら、エッケンハルトさんにも叫んで知らせる。
急に止まったから、距離が離れてしまったしな。
「……どうしたんだ、タクミ殿?」
「いえ、レオが急に止まりまして……あと、リーザが喉が渇いたと……」
「ウゥゥゥゥゥ……ガウ!」
「お!?」
少し先から、馬を引きかえらせて戻って来たエッケンハルトさん。
それに状況を伝えながら、レオの背中からリーザを連れて降りていると、レオが何か力を溜めるように唸り、一吠え。
その瞬間、レオの顔から少し離れた場所に、水の塊が出現し、すぐに地面に落ちて土を濡らした。
「レオ……もしかして、リーザにその水を飲ませろって事か?」
「ワフワフ!」
俺の問いかけに、うんうん頷くレオ。
リーザが、喉が渇いたと言ったから、水を飲ませようと思ったわけか。
「でも、魔法で作った水は不純物や、飲めない成分が混ざってる可能性もあるから、飲まない方が良いって聞いたんだが……」
「ワフワフ! ワフ、ワフワフ!」
「え? この水は大丈夫なのか? んー、そう言われてもな……」
「……シルバーフェンリルの魔法は初めて見たな……タクミ殿、レオ様は飲める水だと言ったのか?」
「え、あ、はい。この水は飲んでも大丈夫だと言ってます。魔法で集めた水は、あまり飲まない方がいいと聞いているんですが……」
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