第296話 レオが激しく主張しました
「しかし……レオ様が重要と感じるか……これは尚更リーザを放ってはおけんな……」
「ワフ?」
「えっとな、レオ。リーザをこれからどうしようか考えてたんだ。孤児院では、部屋が足りないから預かってもらえないようだからな……」
「ワフ!? ワフワフ! ワフー!」
「え? そうなのか? でもな……それはさすがに……」
「どうしたのだ、タクミ殿?」
「いえ、レオがですね……元々自分がリーザを引き取るつもりだったと言ってて……屋敷に連れて帰るって言ってるんです……さすがにエッケンハルトさんやクレアさんの許可も無く、連れて帰るのは……」
「良いぞ?」
「え?」
レオが言うのはそういう事を考えてたらしいが……さすがにお世話になってる身で、小さな子供を連れて帰って、迷惑をかけるのは……と考えてた俺に、エッケンハルトさんは軽く頷いた。
えっと、今なんて言ったのかな?
「だから、屋敷に連れて帰っても良いぞ?」
「えっと……良いんですか?」
「うむ。レオ様が決めた事だからな。公爵家として、それを全力で支持するのが責務だ。それにだな……」
簡単に許可を出してしまったエッケンハルトさん。
本当に良いのだろうか?
エッケンハルトさんやクレアさん、屋敷の人達が、イジメられてたリーザを無碍に扱うような事はしないと思うが……ただでさえ俺やレオがお世話になってて、さらに今はアンネさんまでいるのに……。
キョトンとしてしまった俺に、髭の生えた口元を近づけて、エッケンハルトさんが何やら小声で話して来る。
「もしここでリーザをあの場所へ戻しても、今日と同じことがあるのは目に見えてるだろ?」
「えぇ、まぁ……そうですね」
「その時、またレオ様がスラムに行く可能性がある。……リーザがイジメられる度に、レオ様が乱入していたら、それこそラクトスが混乱しそうだ……」
「確かに……」
レオにとって、獣人であるリーザを助けるのは重要な事らしい。
獣人だからなのか、それとも人間ばかりの場所にいる獣人だからなのかはわからないが……。
今回と同じような事がある度に、レオが走ってスラムに行き、イジメる奴らを脅したりしてたら……リーザをイジメる人間は減るだろうけど……あの巨体だからな……事情の知らない人が混乱してもおかしくない。
場合によっては、俺や他の人が近くにいない状況でそうなったら、レオを止められる事もできそうにない……リーザちゃんにもしもの事があって、レオが怒り狂ったりなんてしたら……ラクトスが壊滅しそうだし……。
いや、レオがそんな事をするとは思わないが……もしかしたらエッケンハルトさんは、そういうことを想像したのかもしれない。
「公爵家は、シルバーフェンリルを敬うものだ。そして、レオ様の意見を全力で支持する!」
「ワフ!」
俺から離れ、レオに対して宣言するエッケンハルトさん。
レオはそれを見て、頼もしそうに頷いた。
屋敷に連れ帰る事が決まったが……クレアさんに黙って決めて、怒られないかなぁ?
「ただいま戻りました」
「ワフ」
「リーザ……綺麗になったね」
「はい。ありがとうございます!」
本当にこれで良いのかと考えているうちに、リーザがお風呂から上がって、職員の人に連れられて戻って来た。
体がポカポカとしていて、新しい衣服を着て、しっかり汚れも落ちて綺麗になったようだ。
さすがに、獣人用の服は無かったのか、服の背中から尻尾が出て、肌が出てしまってる。
……尻尾用の穴が開いてる服やズボンなんて、置いてあるわけないしなぁ。
ちょっとズボンをずらして履いて、ウエスト部分から尻尾を出して対処してる。
知らない場所に連れて来たから、どうなるか少し心配だったが、お風呂に入れられているうちに、少しは慣れたようだ。
孤児院に来てすぐとは違って、今は元気いっぱいの子供らしい笑顔だ。
うん、これを見てると、元のスラムに戻す事無く屋敷に連れ帰るのは賛成だな。
さっきまで色々考えてたのは、全部吹き飛んだ……やっぱり子供の笑顔は最強だ。
ちなみに、リーザの耳と尻尾は、狐と同じ形で茶色い。
耳は元気な事を表すように、ピンと上に向かって伸びて綺麗な三角形。
尻尾は、同じ大きさならレオの尻尾よりフサフサしてそうで、汚れが落ちた今は、ふんわりした柔らかさがあるように見える。
俺やレオを見て尻尾を振ったり、レオにくっ付いてる子供達を見て、窺うように耳をピクピク動かしたりしているのが可愛い。
「うむ、汚れも落ちて綺麗になったな」
「……怖いオジサンがいます……」
「ワフ?」
「おっと……リーザ?」
「な……なんだと……」
リーザを見て、汚れが落ちた事を頷いて確認していたエッケンハルトさん。
その声に反応して、リーザがそちらを見て一言呟く。
エッケンハルトさんに怯えるようにしながら、俺の後ろに隠れ、足にしがみ付いた。
レオはそんなリーザにまた鼻先を近づけて、大丈夫だと言うようにするが……問題はエッケンハルトさんだ。
怯えられた方なのか、オジサンと言われた事なのか、ショックを受けたエッケンハルトさんが愕然としている。
なんだか、背後にズガーン! と雷が落ちたようなショックの受け方だ。
最初に食べられると勘違いされたレオと似てるな。
ん? 何やらレオにくっ付いていた子供の一人が、レオから離れてこっちに来たな……。
「……遊ぼ?」
「……良いの?」
「うん!」
「えっと……」
「大丈夫だよ、行っておいで?」
「……はい」
レオから離れた女の子が、リーザの服の裾を引っ張り、おずおずと声をかける。
年の頃はリーザと同じかそれより下くらい……幼稚園児くらいかな。
多分、新しい孤児院の仲間だと思ったのかもしれない。
俺の足に捕まりながら、窺うように上目遣いで俺を見るリーザ。
多分、遊びに誘われた経験がなく、どうして良いかわからないのだと思う。
俺は微笑みながら、リーザの背中を押して、大丈夫と声をかけながら送り出してやった。
嬉しそうに頷いたリーザは、誘って来た子供と一緒にレオの所へ。
「ワフ?」
「こっちはこっちで話しておくから、一緒に遊んでいいぞ?」
「ワフ!」
俺に遊びに行っていいかを聞くように、顔を向けて鳴くレオに対し、頷いて遊びに行く許可を出す。
それを見て頷いたレオは、リーザや他の子供達を連れて俺達から離れて行った。
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