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第295話 孤児院にリーザの事をお願いしました
第295話 孤児院にリーザの事をお願いしました
「院長、孤児院の子供達はどうなのだ?」
「子供達の中でそういった事はありません。私を始め、他の者達が見ていますから。それに、ここにいる子達はほとんどが不運な境遇を受けて来ていますから……」
「ふむ……だとすると、リーザはやはり孤児院に預けるのが正解なのかもな?」
大人達がちゃんと見てくれてるのなら、イジメはそうそう起こらない可能性が高い。
アンナさんが言うように、孤児院にいるのだから、なにかしらの事情がある子供達ばかりなのだろう。
そういった子供達だから、誰かを集中的にイジメたり、排除しようとしたりはしないのかもしれない。
痛みを知る者は優しくなれる……と聞いた事はあるが……まぁ、だからと言って無理に痛みを知る必要はないけどな。
痛みを知るため、と言って子供に無理矢理何かをする…それは虐待になるしな。
ともあれ、俺もエッケンハルトさんの言ったように、リーザを孤児院に預けるのは賛成だ。
スラムに戻しても、皆の意識を変えない限りリーザはまたイジメられるだろうし、あの場所は簡単に目の行き届く場所じゃない。
孤児院なら、子供達が仲間外れにしなければ孤独になる事はないし、アンナさん達も見てくれる。
「アンナさん、俺がこんなことを言うのは違うのかもしれませんが……リーザの事をお願いできませんか?」
アンナさん達に任せられれば安心だと思い、頭を下げてお願いする。
「タクミ様! 頭をお上げください! タクミ様は子供達が病で苦しんでいる時、助けてくれた方。その方の頼みとあれば、出来る限り力になります!」
「それじゃあ……」
「ですが……その、申し訳ありません。リーザを預かる事はできません……」
俺が頭を下げた事に驚き、アンナさんは焦ってる様子だ。
力になってくれるとも言ってくれたので、リーザを預かってくれるかと思ったのだが……断られてしまった。
「院長、それはどうしてだ?」
「申し訳ありません……今、孤児院には子供達がいっぱいで……部屋やベッドの数が足りない状況なのです……リーザを預かる事は、できそうにありません……」
エッケンハルトさんの問いに、頭を下げて申し訳なさそうに言うアンナさん。
確かに、ラモギを使って病の治療をした時、部屋には子供達が何人も一緒にいた。
中には、一つのベッドで二人寝ている事もあったな……。
ベッドを増やせば、とも考えるがそれも難しいか。
どの部屋もいっぱいだったようだし……。
「ミリナちゃんが出て行った後は?」
「ミリナは成人しているので、子供達とは別でした。私達もそうなのですが、成人しても出て行かない場合、部屋とは別の場所で寝る事になっています……場合によっては、廊下に……という事にも……」
「むぅ……そこまで孤児が多いのか……これは何かせねばならんな……」
ミリナちゃんは、屋敷に来るまでは子供達とは別だったらしい。
アンナさんが言うには、子供達に優先的にベッドと部屋を宛がい、それ以外の職員や成人してもまだここにいる人達は、廊下や孤児院の空いてるスペースで寝ていたと言う。
説明を受けたエッケンハルトさんは、難しい顔をして考え込んだ。
孤児院を経営するのが、領主としての務めらしいから、これは公爵様であるエッケンハルトさんが考えないといけない事なんだろう。
部屋が足りないか……建て替えるにしても、すぐに出来るわけじゃないだろうし……これも難しいなぁ……。
孤児院の孤児たちがいつもいっぱいで……というわけでもないのなら、大きな建物を用意しても数が減ったら無駄になってしまう可能性もある。
俺も協力したいとは思うが、何もできないからな……聞き入れてくれるかどうかはわからないが、何か有効な手段が思いついたら、提案してみよう。
公爵様が、俺の提案なんかを聞かないという事は考えない。
エッケンハルトさんやクレアさんだからなぁ……相手の身分で意見を聞く聞かないと判断するような人達じゃないだろう。
「しかし、リーザはどうしましょう……せっかくお風呂に入って綺麗にしても、スラムに戻したらまた……」
「はい。獣人の差別がある限り、また同じことの繰り返しでしょう……」
「むぅ……」
「そういえば、何でレオはリーザの所に行ったんですかね?」
「確かにそうだな。レオ様は離れた場所からリーザを探していたようだった。何か理由があるのかもな?」
「そうですね……レオ、ちょっと良いか?」
「ワフ?」
ふと、レオがリーザの事を気にしていたのを思い出す。
まだスラムに入っていない時から、何か気になる様子でキョロキョロしてた。
そうして見つけたのがリーザだったから、何か理由があるのかもしれないな。
レオを呼ぶと、10人近い子供達を体にくっ付けたレオが、こっちに来て首を傾げた。
……子供達も、レオによく懐いてるなぁ……。
「レオ、何であの時遠くからリーザを探してたんだ?」
「ワフ? ワフワフ、ワフ」
「レオ様は何と?」
「えっとですね、遠くから同族っぽい匂いがしたと言っています。結局同族ではなかったみたいですが、それでも、そこから助けを呼ぶような気配がしたと……」
「ふむ……獣人だから、か」
「ワフ、ワフワフー。ワッフワッフ!」
「え、そうなのか?」
レオが言うには、魔物とは違うが獣人は獣型の魔物にとって重要な存在らしい。
同族っぽいと感じたのは、多分獣人だったかららしく、その獣人を助けるのは重要だったと思う……と。
レオから聞いた事を、エッケンハルトさんやアンナさんにも伝える。
「レオ様にとって重要な事……か。獣人は、よく獣の姿をした魔物を従魔としている事が多いそうだから、それに関係しているのかもしれんな……」
「獣の形ですか……じゃあ、シルバーフェンリルもですか?」
「いや、タクミ殿。シルバーフェンリルを従魔にする獣人というのはいないだろう。まぁ……フェンリルくらいならいるだろうがな」
さすがに獣人でも、シルバーフェンリルを従魔にする事はできないらしい。
フェンリルならできるだろうとの事だから、獣人は獣っぽい魔物を従魔にできる素質が人間よりは高いとか、そういう事かもしれない。
……屋敷で、人間の従魔になって、のんびり過ごしてるフェンリルもいるけど……。
獣型の魔物と相性が良いという事は、レオが助けを呼ばれてるように感じたのは、そういう繋がりがあったから……とも考えられるか。
囲まれてイジメられてたんだ、心の中で何かに助けを求めるくらいはしていそうだしな。
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