第272話 レオの足が汚れて屋敷を汚していました



「お父様、そろそろ中に入りましょう」

「うむ、そうだな」

「レオ、行こう」

「ワフ」


 レオと模擬戦をした時の事を話してたエッケンハルトさんを、クレアさんが止めて屋敷の中へと促す。

 シェリーを抱いてご満悦のアンネさんも含めて、皆で裏庭から屋敷へと入った。


「……ん?」


 屋敷へ入り、エッケンハルトさんの横を歩く、レオの後ろにいて気付いた。

 廊下に点々と土が付いていってる……しかもレオの足型に……。


「レオ、ちょっと待ってくれ」

「ワフ?」

「どうしたのだ、タクミ殿?」

「どうかしましたか?」


 思わずレオを止めるように声をかけ、それを聞いた他の人達も俺を見て首を傾げる。


「いえ……レオの足型が……」

「ワフ……」

「おぉ、確かにな……レオ様の足は大きいな、私の手よりも大きいぞ」

「いや、エッケンハルトさん。大事なのはそこではなくてですね……」


 日本とは違い、屋敷の中は土足だ。

 玄関で靴を脱ぐという習慣も無いのだから、当然なのだが……一応、金属でできた先の丸い剣山のような、靴から土を取り除くマットがある。

 裸足で体重を載せても、健康サンダルよりは痛くはない程度の物だ。

 俺もそうだが、他の皆は外から入る時は、それに乗って靴に付いた土や泥を落としてから屋敷に入るんだが……。


「レオ、もしかして……今まで、足に付いた土を落としてなかったのか?」

「ワフ……キューン……」


 レオを追求するように、ジト目で聞くと急に甘えだした。


「ゲルダさん、もしかしてですが……レオが外から帰って来ると、掃除が大変なのでは?」

「……えっと……」

「クゥーン、キューン……」

「いえ、大丈夫です! 掃除も私達の仕事ですので!」

「……それは、大変と言ってるようなものだと思いますが……レオ……」

「キュー? クゥーン……」

「甘えても駄目だぞ?」


 一緒にいたゲルダさんに聞くと、レオはゲルダさんにも甘え、大丈夫だと言わせようとする。

 まぁ、反応からどうなってるのかは想像できたが……。


「レオ……ちゃんと土を落とす物があるだろう? それで土や泥を落としてから屋敷に入らないと、皆が大変なんだ。わかるな?」

「ワフゥ……クゥーン……ワフワフゥ……」

「いや、あれに乗ったら足が痛いって……確かに肉球を乗せたら、痛いかもしれないけどな……」


 俺達人間が、裸足で足を乗せても痛くない程度の丸みがあるんだが、レオの肉球はそれでも十分に痛みを感じてしまうようだ。

 肉球って、敏感だと聞くから、仕方ない事なのかもしれないが……うーん、さすがにお世話になてる屋敷の人達に、掃除の手間を増やして迷惑をかけるわけにもなぁ。


 日本にいた時は、玄関に足を拭くための雑巾を用意しておいて、散歩から帰るとそれで俺が足を拭いて土を落としてたし、成長してからは、自分で覚えて足を拭いたりもしてた。

 この屋敷に来てしばらくして、マットの事も教えて、レオの返事もしっかり理解したようなものだったから、安心していて気付かなかった……。


「とりあえず、ゲルダさん。雑巾を持って来て下さい。できれば濡らして来てくれたら助かります」

「はい、すぐに!」

「すみません、エッケンハルトさん、クレアさん」

「はっはっは! 何を注意するかと思ったら、土が付いてる事だとはな! シルバーフェンリルの弱点は肉球なのか? まぁタクミ殿、気にするな!」

「そうですよ、タクミさん。レオ様には自由に過ごして欲しいですから、気にしなくても良いのですよ?」


 ゲルダさんにお願いして、雑巾を持って来てもらうようにする。

 駆けて行くゲルダさんを見送った後、エッケンハルトさんとクレアさんに謝る。

 二人共、気にしていないようで助かったが……それに甘えてこのままにするのは気が引ける。

 汚さずに済むのなら、それが一番良いからな。

 ライラさん達を始めとした、この屋敷の人達にはお世話になってるんだから、できるだけ迷惑をかけたくない。

 ちなみに、アンネさんはシェリーを撫でて我関せず、ティルラちゃんは何がいけないのかと、首を傾げてる。


「えーと、ゲルダさんが雑巾を持って来たら、レオの足を拭いてすぐに行くので、先に食堂へ行っていて下さい」

「わかった」

「はい……あまり気にしないで下さいね、タクミさん」

「レオ様、食堂で待ってますね!」

「キューン……クゥーン、クゥーン」


 皆に食堂へ先に行ってもらい、ゲルダさんを待つ。

 とりあえずレオ、置いて行かないでと皆に甘えた声を出すんじゃない!


「レオ……肉球が敏感で痛いのはわかったけど、そういう事なら言ってくれ。皆に迷惑をかけるわけにはいかないだろ?」

「ワフゥ……ワフワフ、クゥーン」

「ん? 色々始めた俺に気を使わせたくなかった? それに痛いからと言っても聞いてもらえるかわからなかった……と」 

「ワフ」


 レオがしょんぼりと項垂れながら、俺に理由を伝えて来る。

 確かに、剣の鍛錬や薬草作り、薬の勉強等々、色々やる事が増えて来たが……レオの事は特別だ。


「馬鹿だな、ちゃんと言ってくれれば、レオが嫌がらないようにちゃんと対処したぞ? 長い付き合いの相棒だし、レオにも俺は助けてもらってるからな。これくらいの事は言ってくれれば、何とかするさ」

「ワフ……キューン」

「わぷ……こらレオ、待て、動くな……」

 

 動いたら、また足跡が床に広がるだろうが。

 俺の言葉が嬉しかったのか何なのか、俺に甘えるように顔を寄せて来て、舐めて来るレオ。

 両手で顔を捕まえて、何とか動かないように止める。


「わかったな、レオ。これからは何かあればちゃんと言うんだぞ? 俺ができる事なら何とか対処するから。……まぁ、俺よりもレオの方ができる事が多そうだけどな」

「ワフワフ」


 レオにしっかりと言い聞かせるように、顔を見ながら伝える。

 嬉しかったのか、レオが尻尾をブンブンと振ってる……けどそれ、壁に当たったら壁が崩れたりしないか? 大丈夫か?

 幸い、屋敷の廊下は幅が広く取ってあるおかげで、大丈夫そうだ。

 この屋敷が大きくて良かった……。


「はぁ……はぁ……お待たせしました!」

「ゲルダさん、ありがとうございます。……そんなに急がなくても良かったんですよ?」

「いえ、タクミ様とレオ様のためですから!」

「ワフゥ……」


 雑巾を持って、掛けて来たゲルダさんにお礼を言うが……そこまで急いで帰って来なくても良かったんだが……。

 レオもすまなさそうにゲルダさんに向かって鳴く……どうもお手数をおかけしまして……と言ってるようだ。



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