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第271話 ラモギ入りワインができました
第271話 ラモギ入りワインができました
「そうですか……はっきりと断言できるわけではありませんが……それが一番ランジ村のワインの味に近いですね。他の物は……」
「そうですか。でしたら、やはりラモギを半分程度……というのが一番良いのでしょう。ラモギを入れる量が多くなるほど、苦みが出てしまっていますね」
一番色が綺麗な、ラモギを半分程度入れたワインは、かすかに苦みを感じるような気がする程度で、ほとんど気にならない。
ジュースとは違い、アルコールの感じもちゃんとあったし、ランジ村の物に一番近かったように思う。
むしろ、以前飲んだワインよりも、かすかに感じる苦みのおかげで甘さが強調されて、フルーティになっているようにも感じた。
……まぁ、苦みの方は、本当に微かに感じる程度で、集中して味わってみないと感じない程度なんだが。
ヘレーナさんの意見に、厨房にいる他の料理人たちも頷いている。
確かに、ラモギの量が多くなるにつれて、苦みが強く感じられるようになった。
ラモギ一つ入れたワインなんて、甘さをほとんど感じる事無く、苦みばかりが前面に出ている。
やっぱり、ラモギを半分入れたワインが一番良さそうだ。
味も、色合いも。
「では、本日の夕食後に、皆様にラモギを半分入れたワインを出させて頂きます。これ以後は、タクミ様が買われたワインは全て、こちらの樽一つにつきラモギを半分入れる事とします」
「はい、それでお願いします」
苦みの多いワインは、料理人達が責任を持って飲んでくれるんだそうだ。
捨てたりしないのは、物を粗末にせずできるだけ捨てたりしない……という考えなんだろう。
ラモギが足りない物は、追加でラモギを入れ、明日から飲めるようにするとの事だ。
これで、屋敷に運び込んだワインが、ジュースにするという手間をかけなくとも消費できる算段が付いた。
……無駄にせずに良かった……。
「あ、ティルラちゃんのは、さすがにジュースにして下さいね?」
「はい、わかっております」
さすがにティルラちゃんに、ワインを飲ませるのはまだ早いだろう。
ヘレーナさんにとっては、多少手間かもしれないけどな。
「ワフ!」
「ん、レオも飲みたいのか?」
「ワフワフ」
「そうか……ヘレーナさん、頼めますか?」
「はい。ティルラお嬢様、レオ様、シェリー様の物は、ジュースにしてお出しします」
「すみませんが、お願いします」
ティルラちゃんだけで良いかと思っていたら、レオも飲みたいと主張して来た。
どうやら、前にジュース状態で飲んだ時に気に入ったらしい。
レオが飲むなら、シェリーも飲むだろうと、ヘレーナさんは了承してくれた。
大量のワインが無駄にならず、ワインとしてもジュースとしても飲めることに安堵しながら、ご機嫌なレオを連れて厨房を出た。
……明日にでも、追加でラモギを多めに作って、ヘレーナさんに渡そうと思う。
「お、タクミ殿。来たか」
「鍛錬の時間です!」
「ははは、ティルラちゃん。やる気だね?」
「はい! 体を動かすのは楽しいのです!」
「ワフ!」
「キャゥ?」
厨房を離れ、レオを連れて裏庭に来ると、エッケンハルトさんとティルラちゃんが既に待っていた。
ティルラちゃんはシェリーを抱いていたが、あのアンネさんから引きはがせたのか……なんて考えていると、裏庭の端っこの方にアンネさんとクレアさんがいた……こっちを見てるな……そんなにシェリーが気になるのか?
やる気を見せるティルラちゃんは、活発な子供らしく、体を動かすのが楽しいようだ。
レオも同意するように吠えて頷くが、シェリーは「そんなに体を動かすのが楽しいの?」とばかりに首を傾げた。
遊んでる時ははしゃいでるのに……フェンリルとしてそれは良いのだろうか?
「タクミ殿、ワインの方はどうだった?」
「あぁ、飲める物ができましたよ。今日の夕食に出すそうです」
「そうか、それは楽しみだな! これは、気合を入れて鍛錬にも打ち込まなくては!」
シェリーがフェンリルとして大丈夫なのかを考えていると、エッケンハルトさんがワインの事を聞いて来る。
美味しいワインが飲めるかどうか、気になってたみたいだな。
ちゃんと飲める事を確認すると、嬉しそうにしたエッケンハルトさんも笑顔になってやる気を出す。
楽しみな事を前にした時の顔が、ティルラちゃんに似てるなぁ……いや、ティルラちゃんはこんなに強面じゃないが。
「では、早速鍛錬を始めよう」
「はい!」
「はいです!」
「ワフ!」
「キャゥ!」
木剣を持ち、俺達を鍛えるために鍛錬を開始するエッケンハルトさん。
俺とティルラちゃんが返事をするのはわかるが、レオやシェリーは気合を入れなくても良いんじゃないかな?
特にシェリーは、鍛錬に関わりがある事をするわけじゃないのに……。
「よし、今日はこんなものだな。そろそろ夕食だ」
「はい、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「ワフ!」
いつもなら、誰かが夕食の準備ができたと伝えに来るまで鍛錬を続けるのに、エッケンハルトさんは自分で時間を確認して鍛錬を終わらせた。
……そんなにワインを飲むのが楽しみなんだろうか……? 確かに見た目としてはお酒が好きで、酒豪そうだけど……。
鍛錬の終わりに、エッケンハルトさんに皆で礼を言って終わる。
今日はレオも参加したから、そちらも礼をするように吠えている。
ちなみにシェリーは、鍛錬が始まってすぐクレアさんの方へと駆けて行った。
体を動かすよりも、抱かれてのんびりしてる方が良いらしい。
本当にフェンリルとしてそれで良いのか?
聞いた話では、獰猛な魔物だったはずなんだが……。
「しかし、やはりレオ様は凄いな。私でもかなわない」
「ワフゥ!」
エッケンハルトさんが、関心するようにレオに話しかける。
つい昨日まで及び腰だったのに、もうレオに慣れて来たようだ……良い事だな。
ともあれ、今日の鍛錬では見本という事で、レオとエッケンハルトさんが模擬戦をした。
まぁ、俺とティルラちゃんとの鍛錬の時と同じように、レオは攻撃を避けるだけだったが。
俺達よりも、素早い動きで剣を振るエッケンハルトさんだが、それでも中々攻撃はレオに当たらない。
数十回振った剣でも、当たったのは2、3回程度だ。
しかも、聞いていた通り、レオの毛が固くなっていたのか、木剣を当てたエッケンハルトさんの方が、手が痺れて痛がっていた。
初めて見たが……これなら確かにレオに敵う人間なんていないんじゃないかと実感できた。
シルバーフェンリルって、凄いんだなぁ。
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