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第270話 試作ワインの選別をしました
第270話 試作ワインの選別をしました
ティータイムの後、セバスチャンさんと何やら話をするエッケンハルトさんが食堂を出て、次に俺がレオを連れて退室した。
エッケンハルトさんは、セバスチャンさんと話すのも公爵としての仕事とかがあるだろうからな。
しょんぼりしたシェリーは、クレアさんとティルラちゃん、それからアンネさんに慰められてるようだ。
まぁ、あっちは任せよう……元気になったら、鍛錬の時間までティルラちゃんと外で遊ぶようだったしな。
「失礼します。ヘレーナさんは……?」
「ワフ」
「あ、タクミ様。ちょうどいい所に……今試作したワインの用意をしたところです」
レオと一緒にヘレーナさんを訪ねて厨房に行くと、一抱えするくらいの大きさがある樽が5個並べられてた。
ラモギを混ぜて試作するにあたって、ランジ村から持って帰って来た樽から移し替えて小分けにしたんだろう。
「ありがとうございます。えーっと、どういうやり方をしたんですか?」
「はい、タクミ様から分けて頂いたラモギを、それぞれ右から順番に……人間一人が摂取するラモギの量から、4分の1程度入れた物、3分の1程度入れた物、半分を入れた物、3分の2程度入れた物、全て入れた物となります」
「量を減らしたり、多くしたりという事ですね」
「そうなります」
試作したワインは、ラモギを入れる量が少なくても大丈夫なのか、多くないといけないのか……という事も考えられているようだ。
ただラモギを混ぜるだけじゃなく、違いを考えて作るのは料理人っぽいな。
「では……レオ、頼む」
「ワフ!」
レオに頼んで、ワインの判別を始めてもらう。
俺の声に頷いて答えたレオは、ゆっくりとワインの樽へと鼻先を近づけ、匂いを嗅ぎ始めた。
ヘレーナさんを始めとした、厨房にいる料理人達が、その様子を固唾を飲んで見守る。
「ワフゥ……? ワフ!」
「一番右は駄目……と。他にはどうだ?」
「ワフ……ワフワフ」
「それ以外は大丈夫か……ありがとう、レオ」
「ワフ」
レオが示したのは、一番右の樽……ラモギを4分の1程度入れた物。
それだけがまだ病が完全に取れておらず、他のワイン樽は大丈夫という事だ。
「ヘレーナさん、一番右の樽だけはまだ駄目なようです。他の樽は飲んでも良さそうですね」
「そうですか……やはり、ラモギの量でも違いが出たようですね。ありがとうございます、レオ様」
「ワフ」
レオが判別した結果をヘレーナさんに伝える。
結果を聞いて、考えながらもレオへと頭を下げたヘレーナさん。
やっぱり、ヘレーナさんに頼んで正解だったな。
俺が考えてたら、ラモギの量を変えて試作するなんて思いつかず、適当にラモギを放り込んで……だっただろう。
「では……念のため、ラモギ半分以上を入れた樽を飲める物としましょう。この樽一つでラモギ半分……樽二つでラモギ一人分、とした方がわかりやすいでしょうから」
「そうですね。それで良いと思います。後は……味が変わっていないか、ですね」
「そうですね。ラモギの量によって味が変わるかもしれません。飲めるワインをそれぞれ試飲してみましょう……ですが……」
「何か、問題でもありますか?」
ラモギを入れる事で、飲めると分かったのだから、後は味見をするだけだ。
しかしヘレーナさんは、何かを考えるように言い淀む。
どうしたんだ?
「いえ、正直に言いますと……このワインの味がどんな物か、我々は知らないのです。飲んだ事が無いので……もちろん、他のワインは飲んだことはあるのですが……」
「あぁ、そうですね……それは味見として正しいのか、判断に困りますよね」
「まぁ、我々は他のワインと比べて……という事で味見をする事にします。ランジ村のワインと比べてどうか……というのはタクミ様が判断して下さい」
「俺も、飲んだことはありますが、舌に自信があるわけじゃないですが……やれるだけやってみます」
「はい、お願いします。では……」
ランジ村のワインを飲んだことがあるのは、この中で俺だけという事だ。
まぁ、大量に買って持ち帰ってるから、飲もうとすれば飲めるのだが、病に罹るワインだから味を試すために飲んだりはできないだろうしなぁ。
俺も、飲んだのは1回だけだから、自信があるとは言えないが……。
フィリップさんを呼んだ方が良いのかな?
……飲み過ぎて酔っ払ったら、今日の仕事ができなくなるだろうし、またセバスチャンさんに怒られる可能性があるから、どうしてもわからない時の最終手段だな、これは。
「タクミ様、どうぞ」
「はい。……それぞれ、色が違いますね」
「はい。ラモギが溶けた色でしょうか……入れた量が多い程、色が濃いようです」
料理人達が手分けして、樽からグラスにワインを注いで持って来てくれる。
それを見ると、ヘレーナさんの言う通り、ラモギを入れた量によってそれぞれワインの色が違っていた。
ラモギが半分のワインは、紫がかった赤……というよりもピンクに近い。
ラモギが3分の2のワインは、少し赤みが見える程度の紫。
ラモギを一人分入れたワインは、濃い紫だ。
確かセバスチャンさんが、ラモギを水に浸けると紫色になると言っていたので、ラモギを混ぜる事で色が変わったんだろう。
俺は詳しくないが、確か以前こちらに来る前に聞いた話に、ロゼワインというのがあった。
それが、今目の前にあるラモギを半分入れた、紫がかったピンクに近いワインだったように思う。
透明なグラスに注がれたピンクのワインは、女性に好まれそうな綺麗な色をしていた。
「では、少しだけ……ん」
「はい。我々も……ん……」
樽と同じように、色別、ラモギの量別に置かれたワインを右から順番に飲んでいく。
ランジ村で飲んだ時は、何故か酔う事はできなかったが、今回はどうなのかわからない。
これが終わったらエッケンハルトさんと、剣の鍛錬をする予定だから、少しだけ舐めるように飲むにとどめて置いた。
俺がワインを口にしたのを見て、ヘレーナさん達厨房にいる料理人たちもそれぞれワインを飲み始めた。
「成る程……」
「元の味の違いはわかりませんが、ラモギの量でもやはり違いが出ますね……?」
「はい。ヘレーナさんは、どれが一番美味しいと感じましたか?」
「私は、やはり一番ラモギの量が少ない……半分だけ入れた物ですね」
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