第269話 病の終息が近いようでした
「レオ、こっちに戻っておいで。お昼だから」
「ワフ!」
「シェリーはこっちですね」
「キャゥ!」
「お昼です!」
昼食の配膳を始めたメイドさんを見ながら、テーブルにつくようレオを呼ぶ。
レオの頭に乗っていたシェリーは、クレアさんに抱き上げられていつもの椅子へ。
勉強を終えたティルラちゃんも食堂へ入って来て、昼食の準備が整った。
レオに驚かされた警戒心からか、アンネさんは少しだけ離れた席のままだ。
時折、シェリーの方へ視線が向けられている。
「さて、では頂こうか」
「はい」
「頂きます」
「ワウ」
昼食の配膳が終わり、エッケンハルトさんの合図で食べ始める。
いつもの如く、豪快に肉へ齧り付くエッケンハルトさんを見ながら、クレアさんは溜め息。
ティルラちゃんは、そちらを気にする事も無く、自分の食事へ集中。
アンネさんは、行儀よく食べるシェリーを見て顔を綻ばせていたが、時折レオの方に視線を向けて顔を強張らせていた。
……レオも、エッケンハルトさんに負けず劣らず、豪快に肉に食いついているからな……もしかしたら、自分が齧られる想像でもしたのかもしれない。
「タクミ様、ヘレーナより言伝です。ラモギを使ったワインの準備はできましたので、時間が空いている時にレオ様を連れて来てほしいとの事です」
「わかりました。この後行って来ますよ」
「お、ついにレオ様のワイン判別か。レオ様、頼みましたぞ?」
「ワフ!」
「本当に、シルバーフェンリルに病気の選別ができるのでしょうか?」
昼食後のティータイムの時、セバスチャンさんからヘレーナさんの言伝を伝えられる。
剣の訓練までの時間で、さっさと終わらせよう。
試作だから数も少ないだろうし、もし時間がかかるようなら、ヘレーナさんにレオを任せて俺だけ裏庭に行けばいいしな。
しかし、アンネさんはレオがワインの病気を判別するのに懐疑的だ。
レオに対する信頼感のようなものが、まだ低いからだろうなぁ……。
この屋敷、というより公爵家の人達はシルバーフェンリルとの関わりがあるから、レオに関する事はあっさり信じてくれる。
アンネさんの反応の方が、知識を持っていない人からすると普通なのかもな。
「ん? アンネ、疑っているのか?」
「あの魔法具での病は、魔法具を使ってでしか感知できないはずですわ。それを……シルバーフェンリルとはいえ、何も道具を使わずに選定できるとは思いませんわ」
「それじゃあ、アンネはワインを飲まなくても良いのね?」
「そうは言ってませんわ!」
「ふははは、まぁ、疑う気持ちもわからないでは無いがな。だが、レオ様が本当は判別できないのであれば、今頃ラクトスはもっと病気が広まっていただろう。それに、ガラス球……病気を広める魔法具も発見はできなかったしな」
「それは……そうですけど……」
アンネさんの疑いはもっともだ。
俺も、レオじゃなければ信じて無かったかもしれないしな。
ともあれ、エッケンハルトさんは笑ってアンネさんの疑問を否定する。
「セバスチャン、ラクトスの様子はどうだ?」
「はい。タクミ様が作られたラモギのおかげで、広がっていた病は終息に向かいつつあります。日に日に病に罹っている民は減っているようです。それと、病の原因が判明してより、ラクトスにてワインの回収を行いましたので、新しく病に罹った者も減っているようです」
「まぁ、これだけでレオ様が判別できると証明できる事では無いが……レオ様とタクミ殿がいなければラクトスでの病は、もっと広がっていただろうからな。最悪、街が機能しなくなっていた可能性もある」
エッケンハルトさんがセバスチャンさんに聞いて、ラクトスの状況を説明させる。
ラモギを集中的に作ったおかげで、病に罹っている人が少なくなってきているようだ。
ワインの回収までしているとは俺は知らなかったが、全てではないにしろ、病の素が入った物だから、終息のためには必要な事だな。
「カレスの店では、ラモギを求める人が減っております。頃合いを見て、価格をもとに戻す事を検討しています」
「うむ。タクミ殿の報酬を減らさせてもらい、販売価格を下げさせてもらったからな。混乱が無いよう、注意するようカレスに伝えてくれ」
「はい、畏まりました」
「アンネ、疑いたい気持ちはわかるがな、こうして病を終息へと向かわせてくれたタクミ殿、そしてレオ様を私は信じるぞ」
「私も信じます」
「キャゥ!」
「私もです!」
「ありがとうございます」
「ワフ!」
病が終息に向かっているから、そろそろラモギの価格も戻すようだ。
報酬に関しては、減らすように言ったのは俺からなんだが、まぁ良いか。
ともあれ、例の店も無くなったのだから、これから街に薬草も行き渡り始めるだろうし、価格は近いうちに戻るんだろう、カレスさんが上手くやってくれる事を願う。
それに加えて、エッケンハルトさんを始めとした、皆から信頼されてるとわかって嬉しい。
レオと一緒に、面映ゆい気持ちを押さえながら、皆に頭を下げてお礼を言う。
「わかりましたわ。そんなに皆が信じると言うのなら、私も信じますわ。でも、もし私が病に罹った時は、ラモギをすぐ用意して下さいませ!」
「アンネ……それは信じてると言えるのかしら?」
「ははは、まぁ良いだろう。ともかく、ラモギとワインのかけ合わせが上手くいったとレオ様が判断し、それを飲んでみればわかる事だからな。ラモギもあるから、すぐに治せるだろうしな」
「ははは、そうですね。皆が病気にならないように頼んだぞ、レオ?」
「ワウ!」
「キャゥ?」
「いや、シェリーは……レオ様の真似はできないだろう……」
「キャゥゥ……」
本当に信じてるのかわからない事を言いながら、アンネさんは無理矢理納得したようだ。
もし何かがあっても、俺がすぐにラモギを作れば良いだろうから、問題にはならないかな……まぁ、レオが判別してくれたら大丈夫だと思う。
そんな俺達の話を首を傾けながら聞いていたシェリーが、自分も頑張るとばかりに吠えたが、エッケンハルトさんに否定された。
シェリーとしては、レオの真似でもして見たかったんだろうが……しょんぼりしてしまったな……。
あ、アンネさんが慰めるように撫で始めた……本当にシェリーを可愛がっているようだ。
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