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第265話 何故伯爵が病に罹らないかを推測しました
第265話 何故伯爵が病に罹らないかを推測しました
「えっと……ハンネスさん……ランジ村の村長さんは、伯爵側からワインの指定をされていたと言っていました」
「指定? どのような指定だ?」
「ワイン蔵の奥にある、熟成したワインを……との事です。ワイン蔵には、奥にある物程熟成された物になるようです。それで、病の素を発生させる魔法具……ガラス球は蔵の入り口に設置するとの指定がされていて……」
「ふむ、そういう事か。病は入り口から広がるが、蔵の奥までは届かない。奥にあるワインならば、安全という事だな?」
「はい。実際、レオが判別したワインの中で、飲める状態の物は蔵の奥にある熟成されたワインばかりでした」
「バースラーが自ら指定する事で、安全なワインを飲んでいた……というわけか」
「お父様がいつも飲んでいたワインは、そのようにして手に入れていた物なのですね……」
「アンネさん、知らなかったんですか?」
「提案したのは私ですけれど、どのような物を媒介として病を広げるかは、お父様の管轄ですわ。さすがに物の指定まではしていませんわ」
「……それもそうですね」
伯爵が実行した事であり、提案したのはアンネさん。
とは言え、どのように実行するのかは伯爵が決めた事なんだろう。
次期伯爵とは言え、他領の村で作られる物がどこに何があるかなんて、知らなくても無理はない。
「結局、俺とハンネスさんとの間で話したのは、ガラス球の指定と仕入れるワインを指定する事で、安全な物を入手していたのだと、結論付けました」
「その通りだろうな。そのうえで村を襲撃し、ガラス球を回収し、ワインもついでに回収する手はずだったんだろう。伯爵家ともなれば、病の素が入っているのかを選別するための魔法具を手配する事もできるだろうしな」
オーク達を捕まえて来た幌馬車の数を考えると、エッケンハルトさんの考えで合っていると思う。
俺が目くらましをして余計に馬車の傍でオーク達が暴れたせいで、使い物にならなくなった馬車も多い。
だが、それが無かった場合……無事な馬車に、村が壊滅した後のワインを載せて帰るつもりだったと考えられるな。
「お父様がわざわざ、そんな事をしていても飲みたがったワイン……楽しみですわ!」
「……貴女には、飲ませませんよ?」
「え? 何を言っているんですの、クレアさん?」
「当然でしょう? ワインを危険な物にしたのは、貴女の提案あってのもの。そんな貴女に飲ませる事なんて……」
「殺生ですわ! クレアさん!」
「まぁまぁ、クレア落ち着け。あのワインは、タクミ殿が買い取った物だ。飲めるように工夫しているのもタクミ殿だ。決定権はタクミ殿にあるのだぞ?」
「お父様……それは、そうですけど……タクミさん……」
「えーっと……」
クレアさんが言い出した、アンネさんには飲ませないという話。
確かにエッケンハルトさんの言うように、買ったのは俺だし、ラモギを作ってるのも俺だから、決定権は俺にあるのかもしれない。
俺としては、保管してもらってるのはこの屋敷の人達だし、ラモギを使って試作してくれてるのもヘレーナさんだから、自由にしてもらって良いと思ってたんだけどなぁ。
量が量だし、ジュースにするにしろ、ラモギでワインの状態のままにしろ、俺とは関係無く好きに飲めば良いんじゃないかな?
と思うんだけど……それじゃぁこの場は収まりそうにないなぁ……はぁ。
「んー、一応アンネさんは、この屋敷のお客様ですし……飲んでもらえば良いんじゃないですか?」
「むぅ……」
「ワインを飲んで、美味しさをわかってもらえれば、この先また同じように変な事を考えたりは、しなくなるかもしれませんからね」
「タクミさんが言うなら……わかりました」
「はっはっは、クレアもタクミ殿には弱いな!」
「お父様、一言余計です!」
「助かりましたわ、タクミさん。おかげでワインを飲めそうですわ」
「いえいえ……」
美味しい物を美味しく頂く。
それをおかしな考えで、阻害するのはいけない……とアンネさんがわかってくれれば良いんだけど……。
まぁ、これ以上はクレアさんやエッケンハルトさんの領分だろうから、余計な事は言わないでおこう。
そうして、エッケンハルトさんがクレアさんをからかいつつ、はしゃぐアンネさんを見ながら朝食の時間は過ぎて行った。
ワインに興味が無いティルラちゃんやレオ、シェリーは「ワイン一つで何でこんなにはしゃいでるんだろう?」という視線をアンネさんに向けてたのはご愛嬌。
ティルラちゃん達にはジュースにしてもらうよう、ヘレーナさんに頼んでおこう……。
「ミリナちゃん」
「あ、師匠! お疲れ様です!」
「お疲れ様。今、時間は良いかい?」
「はい。昨日師匠と調合をすると聞いて、来るのを待っていました!」
朝食を食べ、ニックへ渡す薬草を作り終えた後、ミリナちゃんを探して客間へ。
そこでは本や今まで勉強した紙束……ノートを見て復習していたミリナちゃんが待っていてくれた。
勉強熱心だなぁ……俺も負けないようにしないと。
「それじゃ、薬の調合だね。これなんだけど……」
「はい。本ではここに書かれていますね……」
ニックへ渡す薬草を作る傍ら、昨日ヘレーナさんやセバスチャンさんに見せた、栄養のある薬草三種を作っておいた。
それを『雑草栽培』で効果を発揮する状態にしておき、いつでも調合できる状況へ。
ミリナちゃんと二人、本を見ながら手順を確認する。
「えーと、粉末にして混ぜる……か。ライラさん、すり鉢のような物はありますか?」
「はい、持ってきますね」
「お願いします」
作る薬にもよるが、基本は薬草をそれをすり鉢とすりこぎですり潰しながら混ぜるのが多いようだ。
液体だとすり潰せないから、また違った手順があったり、熱したし冷やしたりしながらという調合もあるようだが、まずは基本の調合を試そうと思う。
味はまだしも、今回はそれで何とかなるような気はしてるしな。
「お待たせしました」
ライラさんが持って来てくれた、すり鉢の中に俺が作った栄養薬草三種を入れ、すりこぎですり潰し始める。
持って来たすり鉢は二つで、俺とミリナちゃんがそれぞれ試す。
ゴリゴリとすりこぎを使う音が、客間に響き始めた。
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