第253話 アータバは魔力に作用するようでした



「確かにアータバは、体に良い物……というのを聞いた事があります。これなら、ワインに入れて飲む事でその効果を発揮するでしょう」

「ですが……この味は……ワインの味を損ねてしまいそうですな」

「そうですね……この臭みと苦みを取り除かないと、ワインには入れられそうにないですね」


 噛んだ瞬間、口の中に広がる匂いと苦み……ワインの味やアルコールと混ぜて、味を損ねないなんて事は考えられないくらい強烈だ。


「しかし、タクミ様の仰る通り、滋養強壮という効果は強いようです」

「そうですな。疲労回復の薬草程ではありませんが、確かに効果があるようです。皆で分けた物で、欠片に過ぎないのにこの効果……やはり素晴らしいですな」


 ヘレーナさんもセバスチャンさんも、他のコックさん達すらも、滋養強壮の薬草食べて効果を実感しているようだ。

 滋養強壮の物なんて、食べてすぐ効果が実感できるような物じゃないと思うんだが……そう考えてる俺も何となく効果があるような気がする。

 プラシーボ効果かな……? とも思ったけど、前の世界とは薬草の効果が高く出て、すぐに実感できるほどなんだろうと考える事にした。

 セバスチャンさんの言う通り、疲労回復の薬草とは違って、疲れが完全に取れたとまではいかないが、これはこれで良い効果のようだ。


「タクミ様、まだ同じ薬草はありますか?」

「皆に分けたので……残りは一つですね。まずは試してからと、あまり数を作らなかったので……」

「そうですか……それでは、その薬草を頂けますか? 臭みや苦みを取ってみたいのです」

「わかりました」

「薬草を加工しても、効果が残るかの実験……ですかな?」

「はい」


 残った一つのアータバをヘレーナさんに渡す。

 さっき言っていた、黄色い汁を取り除いて臭みや苦みが無くなった状態で、滋養強壮の効果が残るかどうか……という事らしい。

 黄色い汁に効果があるのなら、取り除いた時に効果は無くなるし、葉っぱ自体に効果があるのであれば、効果は残るという事だろう。

 俺とセバスチャンさんは、ヘレーナさんが行う処理を黙って見守る。


「……できました」

「確かに、黄色い部分が無くなり、葉の色のみになりましたな」

「この状態で効果があるかどうか、ですね……」


 葉を水で洗い流したり、お湯に浸けたり、ナイフのようなもので固まっている部分をそぎ落としたりして、一回り小さくなった葉っぱを見る。

 完全に黄色い部分が無くなり、茶色く枯れた見た目の葉っぱが残ってるだけだ。

 果たして、これに効果は残ってるのか……。


「一つなので、皆さんで分けるわけにもいきませんな」

「はい。私とセバスチャンさん、あとはタクミ様のみで試しましょう」

「いえ、俺は試さなくても良いですよ。セバスチャンさんとヘレーナさんの二人で……その方が食べられる量も多く、効果があるかどうかもわかりやすいでしょう?」

「わかりました。セバスチャンさん」

「はい、畏まりました」


 俺が食べても、効果を実感できるかとか、分析できるか自信が無いからなぁ。

 それなら、量を多くして、詳しいヘレーナさんやセバスチャンさんが食べた方が良いだろうと思う。

 二人は葉を半分に分け、恐る恐る口の中へ入れる。

 ……強烈な臭みと苦みが頭に浮かんで、躊躇してるんだろう。

 さっき食べたのよりも大きいから、もしそれらが残ってたら……と考えるとどうしてもそうなってしまったんだろうな。


「ふむ……これは……」

「どうですか?」

「臭みと苦みは完全に消えましたね。やはり、黄色の部分があれの原因だったようです」

「ほんの少し、苦みはありますが……これは葉っぱ本来の苦みでしょうな」

「これくらいなら、余程鋭い方でない限り、ワインに混ぜても問題は無さそうです」


 どうやら、臭みと苦みの素は取り除けたようだ。

 これでワインに混ぜても味の方に問題は出なくなる。

 あとは、効果がどうか……だけだな。


「効果は感じますか?」

「先程の物より少々感じにくいのですが、体に何かが行き渡る感覚です」

「おそらく、魔力に反応してなのでしょう。体全体に行き渡っている魔力が、滋養強壮という効果を示して反応しているのだと思われますな」

「魔力、ですか……」

「魔力は人間に必要な物。つまり栄養と似た物、と考える事もできます」


 栄養というより、魔力が全身に行き渡る感じなのかな?

 言われてみると、さっきの黄色いままの薬草を食べた時も、魔力が反応していた気もする。

 魔力と栄養が似た物だと言うのなら、体の不足している部分へ行き渡らせ、体を元気にする……という効果は出ていると言えるのかもしれない。


「ふむ……」

「どうかしましたか?」


 何かを悩むように目を閉じたセバスチャンさん。

 集中してるようだけど、どうしたんだろう?


「……確かに、魔力がいつもより活発になっているようですな。魔力増幅……とまでは行きませんが……」

「魔力が?」

「はい。体に活力を与えるように動いています。……全身に行き渡る魔力を確かめてみましたが、これはしっかりとした効果が出ているようです」

「魔力ですか……食事をする事によって栄養を摂取し、魔力が活性化されるという事もあります。成る程、これは良い薬草ですね」


 さっき食べた薬草と、処理を済ませた薬草を食べた事で、効果をはっきりと実感し、どのような作用があるかがわかるようになったみたいだな。

 つまりは、臭みと苦みを取り除いた薬草でも、効果は下がってしまうが無くなる事はない……という事か。


「これでしたら、ワインに入れて健康を……という物も作れそうですな」

「はい。黄色い部分は、効果を増幅させる物で、タクミ様の仰る滋養強壮の効果は葉っぱ自体にあるようです。あとは、ワインに混ぜた時にこの効果が持続するか……ですね」

「そうなりますな。いくつか、試作する必要があるでしょう」

「はい。タクミ様、薬草の方をいくつかお願いできますか?」

「わかりました。今日中にもう少し作っておきます」


 味の方も問題無く、効果もしっかり出るのであれば、あとは試作するだけ。

 ワインに混ぜた時に、効果がそのまま残るのかどうかを試し、残るのであれば滋養強壮のワインができあがりそうだ。

 空いた時間にでも、いくつか薬草を作って渡そうと思う。



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