第252話 ヘレーナさんに新しい薬草を渡しました



「えーと、今からヘレーナさんの所へ行くんですけど……」

「新しい薬草の話ですな? わかりました。ライラ、ゲルダ、この場の片付けはお任せします」

「「畏まりました」」

「すみません、お願いします」


 ライラさん達の仕事を増やしてしまう事になって、少し申し訳ないが、ヘレーナさんと話すときはセバスチャンさんも……という約束だから仕方ないか。

 あまり時間をかけてからヘレーナさんの所へ行くと、今度は夕食の準備で忙しいかもしれないからな、早く行きたい。

 ……洗い物とかがあるかもしれないけど。


「それで、新しい薬草というのは?」

「……えーと、これです」

「ふむ……」

「一つが滋養強壮の薬草で、他が栄養を補うための薬草です」

「滋養……それはどんな効果なのですか?」

「ははは、ヘレーナさんの所で、全部説明しますよ」


 興味津々なセバスチャンさんに、薬草を見せて軽く説明。

 すぐにでも、どういう物かを聞きたそうにしていたセバスチャンさんだが、ヘレーナさんと相談する時もう一度説明する事になりそうだしな。

 二度手間になるのなら、待ってもらって一緒に説明した方が良いだろう。

 それに、早く行かないと、ヘレーナさんが忙しくなっちゃいけないし。



「失礼しますよ。ヘレーナはおりますかな?」

「セバスチャンさん。ヘレーナさんですね、少々お待ちを」


 厨房に入り、近くにいたコックさんにヘレーナさんを呼んでもらう。

 昼食の用意が終わった後だからか、皆まったりとしていて、時間には余裕がありそうだ。


「セバスチャンさん。昼食で何かありましたか? 先程言われたように、味付けの変更はしたはずですが……」

「今回はその事ではありませんよ。タクミ様が、ワインに対する物を作られたのでね……」

「タクミ様が?」

「はい。えーと、これらの薬草なのですが……」


 持っていた薬草を、呼ばれて来たヘレーナさんに見せる。

 どうやら、昼食前にセバスチャンさんが厨房への用があったのは、味付けの事に関してらしい。

 いつものように美味しかったから気付かなかったけど、セバスチャンさんやヘレーナさんとの打ち合わせで、料理や味付けが決定されるのかもしれないなぁ。

 エッケンハルトさんがいるから、というのもあるのかもね……当主様だし。


「滋養強壮……ですか? それはどのような?」

「えっとですね、人間の体には、必要な栄養素というのがあります。その栄養素を摂取した時に、体の調子によって吸収されない物というのもあるんです」

「栄養……というのは、料理をするうえで考えるべき事ですね。わかります」

「吸収されずに無駄になる栄養というのは、人間の体を通って排出されますが、それらを無駄にする事無く、体に必要な栄養素へと変え、体に吸収させる。そして、弱っている部分を補い強くする事で、病気に罹りづらくする働きをもたらします」

「ほぉ、それは凄い物ですな……」

「そんな考えが……タクミ様の世界には、素晴らしい考えがあるのですね」


 セバスチャンさんとヘレーナさんは、俺の説明を感心した様子で聞いてる。

 細かい事や作用の仕方に関しては詳しくないが、聞きかじった知識だとこうだったはずだ。

 多分、間違えて無いと思うが……まぁ、要は体を強くする働きって事で良いだろう。

 体に良い物なのは間違いないのだから。


 そう考えて説明していると、いつの間にかヘレーナさん以外の、厨房にいたコックさん達も俺達の周りに集まって来ていた。

 皆感心して聞いている様子だから、料理人として、興味があるんだろうと思う。

 勉強熱心な人達だ。


「これをワインに混ぜて飲む事で、飲んだ人達の健康を守る、という物が作れないかと思いまして。……味の方は、試作してみないとわかりませんが」

「以前言っていた、薬酒の事ですね?」

「はい」

「ふむ……その薬草の味はどうなのですかな?」

「いえ、さっき作ったばかりなので、まだ味は試してません」


 薬草自体の味、というのはまだわからない。

 まずはヘレーナさんに話を……と考えていたから、試しに食べてみるなんて考えて無かったからな。


「では、まずはその薬草の味を……良いですかな?」

「はい。作るのはすぐにできるので、まずはですね。俺も……」

「私も頂きます」

「では、いくつかに分けて……」


 黄色いアシタバっぽい薬草をいくつかに分け、セバスチャンさんやヘレーナさんに渡す。

 何個か作って持って来てたから、集まっている他のコックさんにも分ける。

 皆、新しい薬草の味が気になるようだったから。

 今回は、味を確かめるためで、効果を確かめるためじゃないから、少しで良いだろう。


「ふむ……ん、これは……」

「んぐ……成る程……」

「俺も頂きます。……ん!」

「「「……んんっ!」」」



 口の中に入れてまず広がるのは、独特な臭み……これは灯油?

 あのしつこく取れにくい臭いと一緒に、独特の苦みが広がる。

 噛んでみると、少しだけ甘みを感じるような気がするが、ほとんど灯油の臭いと苦みでかき消されて、とてもじゃないけど、このままで食べられそうにない……。


 吐き出すのもいけないと思い、口を押えて無理矢理飲み込む。

 周りを見ると、セバスチャンさんも他のコックさんも、口を押えて何とか飲み込んでる様子だ。

 ヘレーナさんだけは、味を吟味するように頷きながら食べてるけど……平気なのかな?


「これは……クセが強すぎますな……」

「そうですね……すみません、お水を……」

「……どうぞ」

「ありがとうございます。ング、ング……」


 コックさんに水をもらい、臭み残る口の中を洗い流す。

 ヘレーナさん以外、セバスチャンさんも含めて全員それでなんとかしのいだようだ。

 ……この臭いを何とかしないと、ワインには使えそうにない……かな?


「ふむ……これは、アータバという薬草ですね。葉の周りを覆っている黄色い汁……これが、臭いや苦みの素になっているようです」

「アータバ……こちらにもあった物なんですね?」

「はい。公爵家の領内では群生していませんが……以前、料理を学ぶためにと、食べた事があります」


 アシタバに似た薬草、こちらではアータバという薬草らしい。

 俺の『雑草栽培』を使ったら、黄色い汁が葉を包み込んで着色したから、これに薬効成分のようなものがあるのかもしれないんだけどな……。

 ヘレーナさんの言う通り、黄色い汁を取り除けば良いのなら、『雑草栽培』は食用では無く、その植物の効果を最大限発揮する……という目的に適した能力という事だろう。

 ……今まで作って来た薬草も、味はちょっと……というものが多かったから、わかってた事なんだけどな。



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