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第239話 馬車で屋敷に帰り着きました
第239話 馬車で屋敷に帰り着きました
「……今決めないといけない、ですか?」
「ふむ、そうですわね……確かに急な事だったのは理解しております。そうですわね、明日。明日には返答を頂ければ、と思いますわ」
「明日!? いくら何でも急すぎるわよ、アンネ!」
「何を仰っていますの、クレアさん? こういうのはフィーリングと、自分の勘を頼りにするべきですわ。まぁもっとも、数多くのお見合いをして来ているクレアさんは、女の勘という物をお忘れになっているのかもしれませんけれど?」
「レオ様を従えている、と知る事だけで決めた貴女に、フィーリングや勘だとか言わないで欲しいわ!」
「どうしてですの? シルバーフェンリルを従える男性……貴族として、伯爵家を盛り立てる者として、それがどんなに魅力的に見えるか……貴女にはわからないのかしら?」
「そんな……それは、確かにそうですけれども……でも、タクミさんはそれだけでは……」
「レ、レオ様! ぬわぁぁぁぁ!」
「ワフ! ワフ!」
アンネさんに言い募られて、旗色の悪いクレアさん。
まぁ、俺の魅力なんてそんなもんだよなぁ……なんて考えながら、一応『雑草栽培』があったりもするけど……という事も考えるが、これは男の魅力にはあまり繋がらないかもしれない、と考え直す。
混乱する頭で、クレアさんとアンネさんの言い合いを見ながら、俺はどう断るべきかを考えていた。
……クレアさんがお見合いの話を持ってこられてた時は、こんな気持ちだったのかな?
時折聞こえる、外からのエッケンハルトさんによる悲鳴のような叫びを聞きながら、馬車は屋敷へと向かって行った。
「「「「「お帰りなさいませ、皆様!」」」」」」
「……うむ」
「帰ったわ……はぁ……帰りの馬車が一番疲れたわ」
「中々良い出迎えね。さすがは公爵家、と言ったところかしら」
「ただいま帰りました」
クレアさん達の言い合いを眺めていたら、あっという間に屋敷に到着。
馬車から降り、レオから降りたエッケンハルトさんを先頭に、屋敷に入って使用人さん達の出迎えを受ける。
エッケンハルトさんは、レオに連れまわされたせいか、街を発つときよりも大分くたびれて見える……結構堪えたみたいだな。
クレアさんは、帰りの馬車中ずっとアンネさんと言い合っていたから、こちらも疲れた様子。
そんなクレアさんと同じかと思って、アンネさんの方を見ると、こちらは使用人さん達に出迎えられて気分が良くなっているみたいだ。
……意外にも、結構タフなのかもしれない。
「旦那様、すぐに夕食になさいますか?」
「……そうだな。今日は疲れた……夕食を取ってすぐに休む事にしよう」
「畏まりました。すぐに用意致します」
使用人さん達の中から、ヘレーナさんが進み出てエッケンハルトさんに聞いた。
エッケンハルトさんが言ってる、疲れた理由のほとんどが、クレアさんに怒られた事と、レオに乗った事だと思う。
走り回っていたレオの方は、思う存分走れてストレス解消できたのか、ご機嫌の様子で尻尾を振っている。
「お帰りなさい、父様、姉様、タクミさん、レオ様!」
「キャゥキャゥ! キャゥ!」
「ただいま、ティルラ」
「帰ったわよ、ティルラ」
「ティルラちゃん、ただいま」
「ワフ、ワフワフ!」
「……私にはないんですのね」
屋敷の奥から、俺達が帰って来た事に気付いたティルラちゃんが、シェリーを抱いて満面の笑みで駆け寄って来てくれる。
あちらの方から来たって事は、今まで裏庭で鍛錬してたのかな? 熱心な子だ。
皆で挨拶を返しながら、それを迎えるが……アンネさんはまだ、ティルラちゃんにあまり認識されていないようだ。
小さい子供に気にされないって、結構ダメージあるよなぁ……。
「……なんだか、皆さん疲れているようです」
「キャゥキャゥ」
「ははは、さすがにティルラにはわかるか」
「そうね、子供の目はごまかせないわね」
ティルラちゃんが俺達を見て、すぐに疲れてると気付いた。
エッケンハルトさんや、クレアさんは見てすぐわかるくらいだと、俺も思うんだがな。
そんな俺も、今日は色々な事があったから、疲れた表情になってるかもしれない。
例の店で戦った事もあるが、やっぱり一番は、帰りの馬車でのアンネさんからの求婚のせいかもしれない。
……クレアさんと似たような理由だなぁ。
「はぁ、人心地ついた……」
「ワフ」
あれからすぐ、ヘレーナさんに用意された夕食を皆で頂き、街での事を簡単にティルラちゃんへ話した。
その後は、皆疲れてたのか、すぐに解散になった。
エッケンハルトさんやクレアさんが、特に疲れた様子を見せていたけど、大丈夫だろうか?
俺も疲れて、今は風呂に入って体を温め、部屋へ戻ってレオを撫でながら癒されている最中だ。
「しかしアンネさん……本気なんだろうか?」
「ワフ?」
呟いた言葉に、レオが首を傾げて反応する。
そういえば、レオはあの時エッケンハルトさんを乗せて走り回っていたから、アンネさんからの求婚の話を知らないんだよな。
「えーとな、レオ。驚きなんだが……」
「ワフ? ワフワフ……ワフ!?」
レオにアンネさんから突然の求婚をされた事を説明すると、声を上げて驚いてくれた。
レオでも、やっぱり驚くよな……。
「ワフワフ……ワフ!」
良い機会だから、これを機に身を固めろ?
「いや、レオ。まだアンネさんとは知り合ったばかりだから……断ろうと思ってるんだよ」
「ワフ?」
「嫌い……と言う程、相手の事を知らないな。まぁ、突然の事だから、とりあえず考える時間をもらってる。明日までだけどな」
「ワフワフ」
「そうなんだよなぁ、何て断るか考えないと……。アンネさん、俺が断るなんて考えて無さそうだったし……」
「ワフゥ」
レオと話しながら、アンネさんにどう断るかを考える。
嫌いと言える程の付き合いはまだしていないから、そう言うのも説得力は無さそうだしな。
レオのフサフサの毛を撫でながら、どうしたものかと考え込む事しばらく……何も良い考えが浮かばない!
はっきりと、結婚する気はありませんと伝えれば良いんだろうけど、理由を聞かれたら困るし……。
「ん? はい、どなたですか?」
「私です、クレアです。タクミさん、今よろしいですか?」
「あー、はい。良いですよ」
良い考えが浮かばず、頭を悩ませていると、部屋のドアがノックされた。
外に向かって声を掛けると、クレアさんらしい。
こんな時間に、どうしたんだろう……もう寝ていてもおかしくない時間なのに?
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