第210話 ワインの利用法を相談する事にしました



 翌日、レオのおかげでスッキリと目覚めた俺は、朝の支度をして皆と朝食を取る。

 久しぶりにティルラちゃんやレオと一緒に鍛錬をして、ミリナちゃんとの勉強だ。

 ミリナちゃんは、俺が屋敷を出る時より随分と勉強が進んだみたいで、逆に俺が教えられる部分もあるくらいだった。

 頑張ってたんだと嬉しくなるのと一緒に、師匠として俺も頑張らないと、と思わされたな。


「タクミ様、少々よろしいですかな?」

「セバスチャンさん?」


 昼食後、明日から通常通りにラクトスへ薬草を卸す予定にしたため、必要分の薬草を作ろうと裏庭に出たあたりでセバスチャンさんに声を掛けられた。


「ワインの事なのですが……フィリップが村に到着したのは、ラクトスで私とタクミ様が合流した日ですかな?」

「そうですね。フィリップさんが来て、ワイン樽を積み込んだのを確認してから、ラクトスに出発しました」

「そうですか……となると、屋敷へ到着するのは本日より4日から5日程度……ですな」


 どうやらセバスチャンさんは、ワイン樽がいつ到着するかを確認するのが目的だったらしい。


「イザベルの言葉通りなら、ワインは煮詰める事でしか飲めないとの事でしたが……」

「そうですね……他に何か方法があれば良かったんですが」


 煮沸消毒する事で、病の原因が取り除かれてようやく飲めるようになる……との事だ。

 ワインを煮詰めてしまえば、当然アルコールが飛んでしまうので、ジュースとしてしか楽しむことはできないだろう。

 俺はそれでも良いし、ティルラちゃんも喜びそうだが、ワイン好きやお酒好きにはちょっともったいないと思うかもしれない。

 ……他に方法があれば良いんだけどな。


「薬草……ラモギを使って何か出来る事は無いでしょうか?」

「ラモギをですか?」

「はい。ワインを介して広まっている病は、ラモギで治す事ができます。そのラモギを使えば、ワインに熱を加えなくとも、飲めるようになるのではないかと……」


 病気を治す事ができるのなら、ラモギを使えば飲み物に入り込んでいる病も取り除く事ができるんじゃないかと考えているんだろう。

 ……言いたいことはわかるが……微妙なところだなぁ。


「どうでしょう……できないとは言えませんが、できるとも言えませんね……」

「そうですか……煎じ薬や薬酒という物があるので、もしかしたら……と考えましたが」


 煎じ薬か……確か、薬を水で煮詰めて作る飲み薬だったな……ミリナちゃんとの勉強で学習した事だ。

 薬酒かぁ……あまり聞いた事はないが……無いわけじゃない。

 確か、日本だと薬局とかで売っている赤い箱に入ったお酒……というより、薬に近い飲み物だったはずだ。

 そうか……あれと同じような考え方なら、お酒に薬草を合わせるという事もできるのかもしれない。

 ……作り方がわからないが……。


「薬酒、というのは良いかもしれません。俺の元居た場所にも同じような物がありましたから。薬草とどうやって合わせるかはわかりませんが……」

「左様ですか……それでしたら、一度ヘレーナと相談してみるのも良いかもしれませんな」

「ヘレーナさんに?」

「ヘレーナはこの屋敷の料理長ですからな。お酒の事にもある程度詳しいでしょう」


 料理とお酒は切っても切り離せない関係……なのかもしれない。

 そう考えると、料理長で料理に詳しいヘレーナさんに聞くのは当然だと思える。

 ここでセバスチャンさんと話しても、答えは出ないだろうし、別の人の意見を聞いてみるのも良いかもしれないな。

 どちらにせよ、ワインが到着したら、ヘレーナさんにも関わる事だろうしな。


「わかりました。それならヘレーナさんに相談しましょう。今からでも?」

「昼食が終わった後なので、ちょうど良いでしょう。しかし、これから薬草をお作りになるのでは?」

「まぁ、それはあまり時間のかからない事ですからね。また後にでも空いた時間に済ませますよ」

「そうですか。では、こちらに」


 『雑草栽培』があるから、薬草を作るのはそんなに時間はかからないしな。

 誰か……ライラさんやミリナちゃんに手伝ってもらえれば、すぐに終わるだろうから、後で時間を見てで良いだろう。

 セバスチャンさんに案内され、ヘレーナさんがいるであろう厨房へと行く事になった。

 ……そういえば、この屋敷に来て随分経ったが、厨房に入るのは初めてだな。

 どんなところだろうか……?


「失礼しますよ」

「セバスチャンさん? それにタクミ様も、どうされましたか?」


 屋敷の中を移動して厨房に来ると、中ではヘレーナさんを含む数人の料理人達が食事をしている最中のようだ。

 かまど等の火を扱う場所の他に、鉄製と見られる台がいくつかあり、包丁や木のまな板、食器類がしまってある棚や洗い場もあって、しっかりした厨房に見える。

 その厨房の隅で、あまり大きくないテーブルを囲んで食事をしていた。


「邪魔しましたかな?」

「……んく……いえ、もう食べ終わりましたので、大丈夫です。それで、こんなところまでどうしたのですか?」


 食事はもうほとんど終わっていたようで、食器の上に残っていた料理を慌てて口に含んで飲み込み、セバスチャンさんに答えるヘレーナさん。

 他の料理人さん達も、ヘレーナさんと同じように慌てて残った料理を口に入れている。

 急ぎの用じゃないから、あまり慌てて食べなくても良いですよー。


「少々相談がありましてな。料理というよりは、飲み物の事なのですが……」

「セバスチャンさんからの相談とは珍しいですね。何か改善点でもありましたか?」

「いえ、改善点などはありません。クレアお嬢様も、大変満足しているご様子ですよ」

「俺も、ヘレーナさんの料理は美味しくて、不満はありません」


 執事であるセバスチャンさんさんからの珍しい相談という事で、ヘレーナさんは誰かから不満が出たのかと考えてしまったようだ。

 貴族お抱えの料理人というのは、そういった不満なんかも聞いて改善しなきゃいけないのかもしれないと考えると、大変だなと思う。

 ……飲食店でも、客からの不満に対処するのは大変なんだろうけどな。

 一応、俺もセバスチャンさんに続いて不満が無い事を伝える……ヘレーナさんの料理は十分に美味しいからな。


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