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第211話 熱を加えて別のお酒にする方法を聞きました
第211話 熱を加えて別のお酒にする方法を聞きました
「ありがとうございます。それでは、どんな相談でしょうか?」
「数日後……5日程度でしょうか。それくらいにワインの樽が大量にこの屋敷へ持ち込まれます」
「ワイン……ですか。それはまたどうしてですか?」
「ランジ村がワインで有名なのは知っていますな?」
「はい」
俺やセバスチャンさんから不満点や改善点が無い事を聞いたヘレーナさんは、ホッとした様子で相談内容を聞く。
ランジ村のワインは有名らしいが、あれ程美味しかったんだからそうなるのも無理はないだろう。
それに、料理人であるヘレーナさんなら、その事を知っていてもおかしくないしな。
「そのワインのおよそ半数が、飲めなくなるという事態になったのです」
「それはまた……大丈夫なのですか?」
「村に関しては、今の所問題は無いようです……原因は取り除いたので、これ以上飲めないワインが出る事はありません」
ヘレーナさんが心配そうな面持ちで村の事を聞くが、問題無いと答えるセバスチャンさん。
ガラス球はもうないから、飲めないワインがこれ以上出て来る事はないだろうし、村のこれからは村長であるハンネスさんも色々考えているようだから心配ないだろうと思う。
何か協力出来る事があれば、したいと考えてるけどな。
「それで、屋敷に届くワインは全てが飲めないワインとなっております」
「飲めないワイン……何故そのようなワインを?」
「それに関しては……」
「俺が話します。……大量のワインが飲めなくなったわけですが……それらが破棄されるのがもったいないと思いまして……それで、それらを買い取りました」
「タクミ様が……」
飲めないワインを屋敷に、という説明は当事者の俺が説明した方が良いだろう。
セバスチャンさんもそう考えたのか、言葉を切って俺に目配せして来たので、俺が話を継いだ。
あんなに大量のワインが破棄されるのがもったいないのも理由だが、やっぱりそれに伴う村の損害が心配だったのもある。
「ヘレーナさんなら、あの村で作られるワインが美味しいのは知っていると思います」
「はい。あそこで作られるワインは、他のワインとは違い、素晴らしい味を保っているのを知っています。お嬢様方があまりお酒を飲まれないので、飲酒用に買い付けたりはしていませんが……」
ヘレーナさんは、ランジ村のワインが特別美味しいという事を知っていたようだ。
料理人なら、そこらの事を調べているのも当然かもしれないな。
「セバスチャンさんの説明では、飲めないワインと言われましたが、そのワイン……熱を加えれば飲めるようになるんです」
「熱を……煮詰めるのですか?」
「はい。そうすれば、飲めなくなった原因を取り除く事ができ、問題無く飲む事ができます」
「……しかし、ワインを煮詰めたりすれば……」
「当然、お酒としては飲めないでしょうな」
ワインを煮詰めればアルコールが飛んでしまう。
当然そうなれば飲酒用として飲む事はできない。
そのあたりの事を当然の事として知っているヘレーナさんは、難しい顔をしている。
「まぁ、お酒としてではなく、ジュースとして飲む分にはそれで良いと思いますが……」
「はぁ……まぁ、ティルラお嬢様は喜びそうですね」
「はい。ですが、それ以外にワインを飲む方法がないかと……」
「飲めないワインを飲む方法……ですか……」
ヘレーナさんとしても、お酒でないブドウジュースはティルラちゃんが喜ぶと思ったようだ。
美味しいワインだから、アルコールを飛ばしても十分に美味しいだろうしな。
しかし、ヘレーナさんは俺が行ったそれ以外でワインを飲む方法を考えて頭を悩ませるように腕を組む。
他の料理人さん達も、同じように俺とセバスチャンさんの話を聞いて悩んでいるようだ。
「熱を加えれば、原因は取り除かれるのですよね? ……ですが、そうすると酒精が消えてしまう……熱以外では原因を取り除く事はできないのですか?」
「飲めなくなった原因というのが特殊でしてな。通常だとそれ以外の方法はなさそうです」
「……そうですか……でしたら難しいですね……」
まぁ、いくらヘレーナさんが優秀な料理人だからと言って、そう簡単にアルコールを飛ばさず熱を加える方法というのは考え付かないようだ。
「……少々良いでしょうか?」
皆が頭を悩ませている時、ふと一人の料理人が何かを思いついたようだ。
「どうぞ、何か有効な方法がありますか?」
「いえ、……有効という程では……ですが、お酒に熱を加えて新しいお酒にする方法があると聞いた事があります」
「新しいお酒……?」
セバスチャンさんに発言許可を得た料理人さんは、少し自信の無さそうな口調で話す。
お酒に熱を加えて新しいお酒……どこかで聞いたような……?
「私もそれは聞いた事があります。……確かあれは遠方の地域で飲まれているお酒の作り方だったと記憶していますね。えーと、確か一度蒸発させて成分を分け、さらに冷やす事でもう一度液体にするとか……」
ヘレーナさんもその話は聞いた事があるらしく、多少具体的にその方法を思い出すように言う。
「ん? どこかで……?」
「どうされましたか、タクミ様?」
「いえ、どこかで聞いた事のある方法だなと思いまして……」
何となく聞いた事のある方法で、思い出そうとして頭を悩ませていると、セバスチャンさんに声をかけられる。
それに答えながら、記憶を探って思い出そうとする。
「……えーと……熱……蒸発……液体……あぁ!」
「何か思いついたのですか?」
色々考えているうちに、何の事か思い出した俺は思わず大きな声を出してしまった。
セバスチャンさんに問いかけられるのと一緒に、ヘレーナさん達からもどことなく期待されてるような雰囲気で見られてる。
「えっと、確か蒸留という方法だったと思います。熱を加えて沸騰、蒸発させ、沸点の違う物を分離させるためとかなんとか……詳しくは俺もわかりませんが……」
確か、いつだったか学生の頃に、授業の実験か何かでやった気がする。
えーと、ワインなんかを蒸留して作ったお酒を……。
「ブランデー……でしたか」
「ブランデー……」
「そういうお酒なのですか?」
「はい。俺のいた場所ではそう呼ばれていました。こちらでは別の名前かもしれませんが……」
「……聞いた事はありませんね……」
この世界では、ブランデーと呼ばれてはいないのかもしれないな。
ヘレーナさん達の話が本当なら、蒸留という事はしているのだから、ブランデーに似たお酒があるのは確かだろう。
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