第209話 魔物と戦った時の事を詳しく話しました



「では、私は旦那様への報告をまとめ、使いの者を走らせます」

「お願いね」

「お願いします」


 セバスチャンさんが一礼して、食堂から退室した。

 そこからは報告会というか会議というか……も終わり、弛緩した雰囲気になった。

 ライラさんの淹れてくれたお茶を飲みながら、ゆっくりとした時間を過ごす。

 こうやってゆっくりしていると、屋敷に帰って来たと感じて休まる気がするな。

 いつの間にか、屋敷に馴染んで来てるんだろうな。


「そういえば、ティルラちゃん。鍛錬の方はちゃんとやってるかな?」

「もちろんです。タクミさんがいない間も、休まずに鍛錬しています!」


 お茶を飲みながら、そういえばと思い出してティルラちゃんに鍛錬の事を聞く。

 鍛錬が好きなティルラちゃんだから、サボる事は無いだろうと考えていたが、予想通りしっかりとやっていたようだ。

 屋敷を離れていた間、俺も鍛錬はしていたが、集中してできてはいないから、置いて行かれていないか少しだけ心配だ。


「それよりも、私はタクミさんの話が聞きたいです!」

「俺の?」

「はい。魔物との戦いはどうだったのですか?」


 屋敷に帰って来た時からだったが、ティルラちゃんは俺が魔物と戦った事に興味があるようだ。

 夕食も終わり、お茶を飲んでゆっくりしている時間だし、まったり話す分にはちょうど良いかと、ティルラちゃんにランジ村での出来事を話す事にした。


「えっと、魔物はオークだったね。それが数十……正確な数は数えて無いからわからないけど……」

「それを一人で倒したんですか?」

「ははは、そんな事はさすがにできないよ。ティルラちゃんと同じく、まだ剣の鍛錬を始めたばかりだからね」

「そうなのですか? それなら、オーク達はどうしたのですか?」


 さすがに剣を多少は使えるようになったからといって、オークを数十も相手にできるなんてあり得ない。

 せいぜいが時間稼ぎをするので精一杯だった。

 まぁ、1対1なら、油断をしなければオークを倒せた事に、自分の成長を感じられて嬉しかったのは確かだけどな。

 俺は目を輝かせて興味津々にその時の様子を聞いて来るティルラちゃんに、オークとの戦いを話して聞かせた。


 レオはシェリーを背中に乗せて丸まっている。

 クレアさんはティルラちゃんに似た様子で、俺の話を好奇心いっぱいで楽しそうに聞いている……こういう所は姉妹で似てるんだな。

 ライラさんやゲルダさんといった食堂に残っている使用人達は、表情を変えないようにして待機しているが、しっかり俺の話を聞いている雰囲気だ。

 ……皆魔物との戦闘に興味があるのか?


「そうだティルラちゃん、エッケンハルトさんの言う事は本当だったよ」

「お父様の? どのことですか?」


 エッケンハルトさんから剣を習う時、注意するべき点をいくつか教えられていた。

 俺と同じくティルラちゃんも、それらを聞いているので、どれの事を言っているか思い出してる様子だ。


「戦闘中に、動きを止めない……って言葉だね」

「戦闘中に……何かあったんですか?」


 もちろん、1対1が絶対の状況で、相手が動かないのならこちらも動きを止めて様子を見るといいうのはあるが、複数のオークが襲って来てる状況……戦闘というより敵味方入り乱れている戦場ともいえる状況で、動かずにただ突っ立っているのは自殺行為だ。

 俺が『雑草栽培』を発動させてしまった時、何故発動したのかを考えて動きを止めてしまった。

 そんな俺を狙って後ろからオークから強打されたからな……幸い槍の刃が無かったから助かったが、それでも大きな怪我をしてしまった。


「運が良かったから助かったけど……あの状況で動きを止めた俺は、死んでいてもおかしくなかったんだよ」

「……そうだったのですか……」

「……ほぅ」


 俺がその時の状況を話して聞かせると、ティルラちゃんは頭に刻み込むように真剣な顔で頷く。

 同じく話を聞いていたクレアさんも、運よく無事だった俺を見て、ホッと息を吐いている。

 ……もしかすると、心配させてしまったのかもしれないな。


「まぁ、怪我をしただけで助かった、というわけでもないんだけどね。当然、俺を強打したオークはそこにいるし、助けを呼ぼうにも村の人達は他のオークで手一杯」

「……どうなったのですか?」

「……ハラハラ」


 その後の状況を話しているが、ティルラちゃんはどうなったのか聞き入っている。

 クレアさんの方は……声に出してハラハラとか言ってるが……それは口に出して言う事なのだろうか?

 それだけ真剣に聞き入っているという事かもしれないが。


「怪我をしたせいで、体が思うように動かなくなってね。俺ももう駄目だと思ったんだ。オークが腕を振り上げた時は、もう駄目だと思ったよ」


 あの時は本当にもう駄目だと思った。

 体は動かないし、オークは俺を狙っている。

 周りに村人はいるが、助けに来る余裕は無い。

 避ける事ができない以上、もう一度オークの強打を受けなければならないし、もう一度受けても意識が保っていられる自信も無かったからな。


「目を閉じて、覚悟を決めた時にね……」

「時に?」

「どうしたんですか?」

「……レオが来てくれたんだ」


 食い入るように俺の話を聞く、ティルラちゃんとクレアさん。

 姉妹で似たような反応をしている事に、笑いを堪えながら続きを話す。


「レオ様が!」

「……ほぅ」

「ワフ?」


 レオが来てくれた事を話すと、ティルラちゃんが喜び満面に笑みを浮かべ、クレアさんはまたホッと息を吐いた。

 レオは、自分が呼ばれたと思って、顔を上げてキョトンとしてるな。


「あの時レオが来てくれて本当に助かったよ。ありがとうな、レオ」

「ワフワフ」


 隣で丸くなっているレオをゆっくり撫でて、改めて感謝する。

 その後は、レオの活躍や商人達の捕縛、怪我をロエで治した事を話した。

 話しが終わる頃には、随分と遅い時間になってしまい、ティルラちゃんがうとうとし始めた頃合いで解散となった。

 俺もさすがに眠気に勝てそうにないから、今日は素振りをやらずに就寝しよう。


「まぁ、今日くらいは良いか……ずっと張りつめてた部分もあるしな」

「ワフゥ」


 風呂にだけはしっかり入り、体を温めてベッドに横になる。

 レオが労わるように、体を半分ベッドに乗せて、枕代わりになってくれたが……本来色々頑張って活躍してくれたレオが、一番労われるべきだと思う。

 とはいえ、レオの好意を無駄にしないよう、しっかりモサモサの毛に包まれて寝る事にした。

 やっぱりこの方法だと、いつもよりしっかり寝る事ができそうだった。



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