第205話 屋敷へと帰り着きました



「まぁ、魔力だけじゃなく意志力も関係している……とも聞いた事があるけどね。これは研究不足でよくわかってないよ」

「成る程……とにかく、強く願わなければ生き物相手には発動しないんですね。……良かった……」

「危険な能力と忌避する事はないさね」

「詳しく話を聞いてよかったですな。生き物に対して発動する事だけしかわからなけば、危険な能力者として隔離されてしまいかねません」


 ホッとしている俺に、セバスチャンさんが怖い事を言っているが、確かに『雑草栽培』のそこだけしか知らなければ、危険な能力とみなされてしまうだろう。

 そして、誰にも触れてはいけないとして、隔離されるのもおかしい話じゃない。

 ……日本とか地球だったら、隔離されたうえで研究対象として使われそうだけどな。

 

「ありがとうございました、イザベルさん。おかげで自分の能力の事を知ることができました」

「なぁに、あたしゃ珍しいギフトをどう使うか楽しみなだけだよ。あとは魔法具を見る楽しみさね」

「お世話になりました」

「また珍しい魔法具がみつかったら持ってきな。……茶を飲みに来るだけでもね」


 イザベルさんにお礼と挨拶をして店を離れる。

 ……最後にボソッと呟いた言葉からすると、やっぱり一人で店を切り盛りしてるのは寂しいのかもしれない。

 失礼かもしれないが、あの店構えだとお客さんも多くなさそうだしな……。

 暇があれば、またラクトスに来た時にでも話し相手になりに来るのも良いかもな。


「予想以上の収穫がありましたな」

「そうですね。イザベルさんを頼って良かったです」


 長く話し込んでしまったが、今回イザベルさんに話を聞いて良かった。

 ガラス球の事、ワインの処理、『雑草栽培』の能力……一部俺の知らない知識でわからない事があったが、詳しく知ることができたからな。


「そろそろ日も落ちる頃です、屋敷へと戻りましょう。お嬢様方が首を長くして待っているでしょうからな」

「クレアさん達には、今日帰る事を?」

「先にラクトスへ来た時、使いの者を手配して、屋敷には報せてあります」

「さすがですね」


 こういうことは、やっぱりそつなくこなすセバスチャンさん。

 クレアさん達をあまり待たせないよう、早く帰る事にしよう。


「それでは、レオ様。よろしいですかな?」

「ワフ!」


 ラクトスの東門を出て、レオに伏せの体勢になってもらい、その背中に乗る。

 レオに確認をしてから同じく乗り込むセバスチャンさん。

 ここからなら、レオに乗れば屋敷まで1時間もかからない。


 ……随分久しぶりだが、ようやく屋敷に帰れるなぁ。

 公爵家の屋敷は、俺の正式な住処というわけでは無いが、やはり慣れた場所。

 ランジ村でものんびりと過ごせたが、やっぱり慣れた場所でのんびり過ごしたいと思ってしまう。


「ご苦労様。ありがとうな、レオ」

「ワフワフ」


 そんな事を考えている間に屋敷へ到着し、走ってくれたレオを労う。

 ほんと、今回はレオによく走ってもらったからな、ちゃんと感謝しないと。


「「「「「タクミ様、お帰りなさいませ!」」」」」

「お帰りなさい、タクミさん」

「タクミさん、レオ様、お帰りなさい!」

「キャゥキャゥ!」


 セバスチャンさんと共に屋敷の玄関を入る。

 中では、俺の帰りを待っていてくれた使用人さん達とクレアさん、ティルラちゃんとシェリーが迎えてくれた。

 俺相手だけでも、使用人さん達は一斉に声を掛けてくれるのか……。


「ただいま帰りました、クレアさん、ティルラちゃん、皆さん。それとシェリーも」


 迎えてくれた皆に挨拶を返す。

 進み出てくれたライラさんやゲルダさんに、持っていた荷物を少し渡す。

 ……全部渡さないのは、女性に全て持たせたくないというちっぽけなプライドかもしれない。

 まぁ、多少は遠慮もあるけどな。


「タクミさん、大丈夫でしたか? 魔物が襲って来たとの事ですが……」

「魔物と戦ったんですか!? タクミさん!」

「まぁ、なんとか無事に済みました」

「……我々が駆け付けた時、酷い怪我をしていましたが……あれを無事と言えるのかどうか……」


 クレアさんとティルラちゃんは、セバスチャンさんから知らされたんだろう、俺が魔物と戦った事を知っていた。

 レオが異変を察知したらしいから、その分も含めて心配してくれたのかもしれないな。

 ティルラちゃんだけは、実戦をしたという俺に興味津々の様子だけど。

 あ、ヨハンナさんもいるな……セバスチャンさんと一緒にラクトスに商人達を護送したから、先に屋敷へ帰って報せたのはヨハンナさんかもな。


「酷い怪我を……?」

「いつ意識を失って、倒れてしまってもおかしくないような怪我でしたな」

「……それは……大丈夫だったのですか?」

「なんとか助かりましたよ。ロエのおかげですけどね」

「ロエ……『雑草栽培』のおかげですね」


 鏡で見たわけじゃないから、どれだけ深い傷かは見ていないが、血が流れていたのと、頭部である事。

 ロエが無かったら重傷だったのかもしれない。

 痛みは戦闘からの興奮状態もあって、酷くは感じなかったが。


「タクミさん、タクミさん。実戦とはどんなものでしたか!?」


 ティルラちゃんは、魔物と戦ったという話に興味があるようだから、俺の怪我の事よりも実戦がどんな物なのか聞きたがっている。


「ティルラ、今はその話よりもタクミさんの怪我の事よ」

「でも……」

「ははは。クレアさん、怪我はもう何ともないので大丈夫ですよ。ティルラちゃん、後で話してあげるからね」

「わかりました!」

「では、まず荷物を置いて落ち着きましょう。ヘレーナ、夕食の方は?」

「すぐに用意できます」


 ティルラちゃんが興味津々で俺に尋ねるのをクレアさんが諌める。

 心配してくれるのはありがたいが、もう大丈夫だ。

 ティルラちゃんには、後でたっぷり話をしようと思う……実戦とはどうなのか、というのはしっかり教えておいた方が良いと思うから。

 セバスチャンさんの言う通り、まだ屋敷に帰って来たばかりだから、一度荷物を置いて落ち着きたい……久しぶりに屋敷で出されるお茶も飲みたいからな。

 ヘレーナさんもその場にいて、夕食はすぐに用意できるとの事だから、食堂に改めて集まるという事になった。


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