第206話 皆と情報を話し合いました



「師匠、レオ様。ご苦労様です」

「ミリナちゃん」

「ワフ」


 レオを部屋へと荷物を置きに行く途中、ミリナちゃんに話しかけられた。

 久しぶりに師匠と言われて懐かしいと感じてしまった……そこまで長い間屋敷を離れて無かったと思うんだけどなぁ……。


「師匠がいない間、薬の勉強はちゃんとやっていましたよ!」

「そうか。偉いね。どれだけ進んだか教えてくれるかい?」


 嬉しそうに勉強をしていた事を報告してくれるミリナちゃんは、ティルラちゃんとは別の意味で妹のようだ。

 部屋へ戻るまで、どれだけ勉強が進んだか聞きながら廊下を歩いた。

 しばらく離れてたから、進行を聞く限りもう俺より薬の知識があるかもしれないな。

 師匠と呼ばれる身からして、俺も頑張らないといけない。


「では、タクミさんもお疲れでしょうから、まずは夕食を頂きましょう」

「頂きます」


 荷物を置いて食堂に集合。

 すでに配膳された料理を前に、テーブルについて夕食を食べ始める。

 ランジ村の食事も美味しかったが、屋敷の料理はヘレーナさんが頑張ってくれているだけあって、こちらはこちらでやはり美味しい。


「セバスチャン、どうだったの?」

「はっ、様々な情報を得られ、確証を得る事ができました」

「そう、それは良かったわ」


 食事の途中、クレアさんがセバスチャンさんに声を掛ける。

 内容は、多分例の店や病に関する事だろう。


「そういえば、クレアさんはセバスチャンさんがいない間、代わりに仕事をしていたんですよね?」

「えぇ。セバスチャンにしかできない事もあるので、手付かずですが、それ以外は何とかこなせました」


 何とかできたと言うクレアさんだが、その表情は少し疲れている気がする。

 やっぱりセバスチャンさんの仕事を代わりに、というのは相当な負担なんだろう。

 ……後で疲労回復の薬草を差し入れするかな?


「それでは、食事中ではありますが……今回タクミ様が遭遇したガラス球に関しての報告をしましょう」

「ええ、お願い。ガラス球の事は知っているけど進展はあったようね」


 食事中だが、皆が集まっているこの機会にとセバスチャンさんが報告を始める。

 まぁ、こういう話は早いうちにしておいた方が良い、という判断かもしれないな。

 ティルラちゃんとシェリー、レオは話にあまり興味が無いようで、用意された夕食を一心不乱に食べている。


「ではまず、ガラス球の効果についてですな。イザベルの所へタクミ様と確認に参りましたが……」


 セバスチャンさんはまずガラス球の説明から始める。

 さっきイザベルさんに聞いて来た内容だから、俺もはっきり覚えてるな。


「そう……あのガラス球はそんなに危険な物だったのね」

「はい。今回タクミ様が発見してくれて良かったと思います。あれは人知れず悪用されていたと想像すると……」

「まぁ、ほとんどレオのおかげなんですけどね」

「ワフ?」


 最初に発見したのはフィリップさんだが、それが病とつながりのある物だと見抜いたのはレオだ。

 もしレオがいなければ、まだワイン蔵に置かれて病を広める原因になったままだったかもしれない。

 レオの方は、夢中で料理を食べていたが、自分の名前が出たことに顔を上げて首を傾げた。


「レオ様は凄いですな。人間に察知できない微量な魔力をも感知するとは」

「嗅覚が鋭いという事もあるかもしれませんね」

「ワフワフ」


 レオは元は犬……今は狼だが、そのために人間よりも鼻が利くのだろうと思う。

 確か……犬って人間の1億倍匂いに敏感だとか……あれは好きな匂いに関してだったか?

 匂いによって変わるようだが、少なくとも人間よりよっぽど鼻が良いのは間違いない。

 シルバーフェンリルになった事で、その辺りが強化されたのかもしれないし、魔力に対して敏感になったのかもしれない。


「では次に、捕らえた商人達ですな。これはタクミ様とレオ様の協力もあり、無事捕縛し尋問する事ができました」 

「その商人がガラス球を……」


 セバスチャンさんの報告が商人達の尋問に話が変わる。

 こっちは俺の知らない話だから、集中して聞く事にした。

 一応、料理の方は美味しく頂いてるけどな。


「商人達は今回、ランジ村に魔物を連れて来ました」

「従魔にしていたの?」

「いえ、ただ捕まえて逃げ出さないようにしていたようです。幌馬車へ詰め込んで外から見えないようにし、鎖で繋いで運んだようですな」


 商人達は、あの時鎖を外してオーク達を解放した。

 従魔にしていれば、シェリーのようにいう事を聞くはずだからそんな必要はないだろう。


「そして商人達はランジ村で魔物を開放します。全てがオークだったのが、従魔にしていない理由でしょうな」


 オークが従魔にしない理由になるのかわからなかたが、話の腰を折らないために黙っておく。


「解放されたオーク達は、村人の抵抗とタクミ様、レオ様の活躍により全て討伐されました」

「タクミさん、レオ様も凄いです!」

「結構、怪我人が出たので……あまり褒められたものじゃないと思いますけどね。最終的にほとんどレオ任せでしたし」

「レオ様が到着するまでの間、あの数のオークを相手に死者を出さずに持ち堪えたのは、間違いなくタクミ様の功績ですよ」


 セバスチャンさんが俺やレオの活躍といったおかげで、ティルラちゃんが目を輝かせている。

 でもあの時、村人の協力があったからだ、俺一人じゃ時間を稼げてもレオが来るまでにやられてしまっていただろう……それに怪我人も出してしまったしな。

 でもセバスチャンさんからすると、死者を出さなかったのは評価に値するらしい。

 運も良かったんだと思う。


「村の怪我人は?」

「軽い怪我程度なら手当をするだけで済ませましたが、酷い怪我を負った者はタクミ様によるロエの治療を行いました」

「そう。それなら良かったわ」


 村の人達の怪我を気にするクレアさんだが、治療した事を伝えると安心した様子だ。


「商人達がオークを連れて来た理由ですが……やはりランジ村を滅ぼすつもりのようでした」

「……何て事を」


 オークをあれだけ連れて来た時点で、何となくわかる事だとは思うが、やはり商人達はランジ村の皆を殺してしまうつもりだったようだ。

 セバスチャンさんの話す内容に、俺もクレアさんも眉をしかめた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る