第202話 ラクトスへ到着しました



「レオ、頼む」

「ワフ。ウゥー……ガウ!」


 そこらに落ちていた木の枝を集め、レオに頼んで火をつけてもらい、適当な焚き火にする。

 今回は屋敷から出発する時と違って、十分に用意された料理では無かったが、一応パンとスープだけは用意してもらっていた。

 ハンネスさんの奥さん、ありがとうございます。


「レオには……少ないけど、ソーセージを……パンに挟むか。ほら」

「ワフワフ」


 レオが満腹になる程のソーセージが無いため、パンに挟んでかさ増しだ。

 それでもレオは美味しそうに食べてくれる。

 その間に、用意してもらっていたスープを温め直して……と。


「あぁ……やっぱりこのスープは良いな。ホッとする味で、体に染み渡る……」

「ワフ?」

「レオも飲んでみるか? ほら」

「ガフガフ……ワフゥ」

「美味しいだろ?」


 温めた野菜たっぷりのスープを味わうように飲んでいると、レオが興味を示した。

 試しにとレオに飲ませてみたら、レオの方も安心する味にホッと一息吐いている……表現方法が豊かだな……。

 レオには牛乳も用意していたんだが……この分ならホットミルクにした方が喜んでくれそうだ。

 暖かいスープの後だから、暖かい牛乳を飲むのも良いだろうと、同じく温めた牛乳をレオに飲ませる。


「よし、そろそろ出発するか。早くしないとセバスチャンさんとの合流が遅れるからな」

「ワフー」


 パンとソーセージ、スープと牛乳で満足したレオが、俺を乗せてのっそりと立ち上がる。

 焚き火は消して、片付けもちゃんと終えた。

 食べてそんなに時間は経ってないが、あまりゆっくりしている時間はないからな。


「レオ、食べたばかりですまないが、頼むぞ」

「ワフ!」


 お腹を満たしても、すぐ動く事に支障はないのか、食後の運動とばかりに走り出すレオ。

 速度が休憩前より速いのは、空腹を堪える必要が無いからかもしれない。

 食べて体が重くなったはずなのに、元気だな……やっぱり食事は必要な物なんだろう。


「……ここからは、街道を通らなきゃな。レオあっちだ」

「ワフワフ」


 ランジ村から真っ直ぐ進み続けていたが、ずっとそのままというわけにはいかない。

 そのままだと、ラクトス北の山に入ってしまうからな。

 ラクトスの街に入るのだから、街道を通って東門に行かなきゃいけない。

 レオを見て驚く人達には申し訳ないけどな。


「もうすぐだ」


 街道へと戻り、そのままラクトスに向かって疾走するレオ。

 時間が遅くなって来たから、予想より人の往来は少なかったが、それでもやっぱりすれ違う人達は驚いていた。

 中には、拝み始める人もいたように見えたが……シルバーフェンリルって信仰の対象になるのか?


「レオ様、タクミ様」

「どうも、お疲れ様です」

「ワフワフ」


 西門にたどり着き、衛兵さんに挨拶する。

 以前ここを通ってランジ村に出発した時の人と同じ人だから、お互い顔を覚えていた。


「先日レオ様だけで人を乗せて来た時は驚きましたが……今回はタクミ様も一緒なのですね」

「ははは、あの時は特別ですよ」


 この衛兵さんは、レオがフィリップさんを乗せて来たのを見たらしい。

 まぁ、レオに人が縛り付けられて走って来たら、驚くのも無理はないか。


「えーと、セバスチャンさんと合流する予定なんですが……?」

「それでしたら、こちらに。例の商人達の尋問も終わっています」

「わかりました。すまない、レオ。少し待っていてくれるか?」

「ワフ」


 衛兵さんが示したのは、門の横にある兵舎というか、衛兵の詰め所だ。

 さすがにそこまでレオが入るわけにはいかないので、申し訳ないが待ってもらう事にする。


「レオ様がいて下されば、最高の見張りになりますな」

「ははは、そうですね。でも、ラクトスに来る人達が怖がって引き返さなければ良いんですけど……」

「それは確かに……一応、他の者に伝えておきましょう」


 レオが門の横にでんと座っているのは、確かに見張りとしては最高だろう。

 レオなら、察知能力とかもあるようだしな。

 でも、それを見た人達は驚いたり怖がったりするかもしれない。

 その事を伝えると、衛兵さんはすぐに思い当たったらしく、近くにいた他の衛兵さんに伝え、ラクトスに来る人達に説明するようにしたようだ。

 これで大丈夫だろう……多分。


「失礼します。タクミ様をお連れしました」

「失礼します」

「タクミ様、ご苦労様です。お早いお付きでしたな」


 衛兵さんに案内されたのは、詰め所の一室。

 そこにはテーブルと椅子が用意されていて、あまり広くは無いが待合室のようになっていた……テーブルの上にはお茶が用意されていて、セバスチャンさんはここでゆっくりしていたようだ。


「レオが頑張りましたからね。それで、商人達はどうしましたか? 尋問は終わったと聞きましたが」

「レオ様を見てますからね、軽くその事を出すだけでペラペラと色んな事を話してくれましたよ。おかげで尋問は楽でした。まぁ、これらは屋敷に帰ってからにしましょう。クレアお嬢様にも報告をしませんと」


 レオの事を見ている商人達は、セバスチャンさんが脅したのもあって完全に怯えてしまっているようだ。

 そのおかげで、尋問がスムーズにいったのなら、レオが怖がられるのも悪い事ばかりじゃない……のかな……?

 いや、でもやっぱりレオが怖がられるのはかわいそうだ……あんなに可愛いのにな。


 セバスチャンさんは、尋問でわかった事を屋敷に戻ってから話すつもりのようだ。

 確かにクレアさんに報告もしないといけないから、ここで話すよりも屋敷に戻ってからの方が良いか。

 ここでこのまま話してたら、日が暮れて屋敷に帰るのも遅れてしまうしな。


「わかりました」

「それでは、イザベルの店に向かいましょう。レオ様は外に?」

「はい。さすがにここには入れませんからね」


 椅子から立ち上がったセバスチャンさんと一緒に、衛兵さんに挨拶をして外へ出る。

 レオとも合流し、そのまま街の中へ。

 しばらく街の中を歩き、以前にも来たイザベルさんの店の前に到着した。


「相変わらず……他の家とは一線を画した店構えですね……」

「イザベルの趣味ですな。なんでも、魔法具を扱うにはこれくらいではないと……との事です」


 たどり着いたイザベルさんの店は、以前来た時から変わっておらず、六芒星の看板に黒の扉、建物自体が灰色に塗装してあって、並んでる他の家からはどうしても浮いてしまっている。

 この店構えが、魔法具とどう関係しているのか俺にはわからないが、店主のイザベルさんがそう言うならそうなんだろう……きっと。

 ……怪しい雰囲気が好きなだけ……じゃないよな?



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