第201話 ランジ村を出発しました



「お待たせしました」

「ご苦労様です、フィリップさん」


 村でまったり過ごして6日目、この村に来てからだと9日目くらいかな?

 ラクトスの街から、数台の荷馬車を率いてフィリップさんが戻って来た。


「そう言えば、レオに繋がれてましたけど……どうやって降りたんですか?」

「……レオ様が縄を口で引きちぎりました……おかげで降りる事が出来ましたが……代わりに背中から落ちてしまいまして……」

「そうですか……」


 レオの体に括り付けられていたフィリップさん。

 自分ではどうにもできない状態になっていたのを、レオが自分の体に巻かれている縄を引きちぎったらしい。

 衛兵や誰かに頼めば良いと考えていたセバスチャンさんの読みは外れた事になるが、この際どうでもいいか。

 背中を軽く打ったらしいフィリップさんが、その時の事を思い出して、痛そうに顔をゆがめた。

 ……レオに注意をしたいところだが……フィリップさんを運んでもらって、ラクトスと往復してくれたんだから、それもなぁ……。


「タクミ様、ワイン樽の積み込みは終わりました」

「ありがとうございます」


 俺やフィリップさんも手伝って、買い取ったワインを全て荷馬車に積み込む。

 運んでいる最中に落ちてしまわないよう、しっかりと固定する。

 全てのワインが積まれたのを確認し、作業は完了だ。


「すぐに出発しますか?」

「……さすがに少し休みたいですね……」


 疲れた様子を見せるフィリップさんを見ながら、すぐに出発するかを聞いた。

 フィリップさんは、この村に来てから、レオに乗って屋敷に戻り、すぐに村へ戻って来たうえオークの後処理から商人の監視、レオに括り付けられてラクトスに送り出されたと思ったら、荷馬車を率いて村へ……こう考えると、結構ハードなスケジュールだな……疲れるのも無理はない。

 初日に酔って蔵に侵入、その後潰れて寝こけた事は帳消しにしていいと思う。


「それでは、他の人や馬も含めて村で休んで下さい」

「すみません、お願いします」


 ハンネスさんの勧めで、村で休む事になったフィリップさん。

 荷馬車を曳く馬や、それに乗る人と、ラクトスから来てるから疲れていても仕方ないか。


「それじゃあ、フィリップさんは休んでから村を出発するという事で。俺はそろそろラクトスに向けて出発します」

「セバスチャンさんと合流する予定でしたか。途中すれ違った時に聞きました」

「はい」


 フィリップさんとセバスチャンさんは、ラクトスと村の間ですれ違ったらしい。

 まぁ、通る道が同じなら当然か。


「レオ、行こうか」

「ワフ」


 来た時と同じように、いくつかの荷物を唐草模様の風呂敷に包み、レオに括り付ける。

 そのままレオに乗り込んで、ラクトスへと出発だ。

 それなりに滞在した村だから、少し名残惜しいな。


「タクミ様、少ないかもしれませんが……これを」

「……これは?」

「蔵の奥で熟成されたワインです。タクミ様は美味しいと気に入ってくれていたようですから」

「ありがとうございます。大丈夫か、レオ?」

「ワフ!」


 レオに乗った俺に、抱える程の大きさがある樽を持って来たハンネスさん。

 中には病とは関係が無いワインが入ってるようだ。

 美味しくて、また飲みたいと思っていたからありがたい。

 屋敷に帰ったら、クレアさん達と飲むのも良いかもしれないな……クレアさんがお酒を飲めるのかはわからないが。

 ……ティルラちゃんやミリナちゃんには……まだ早いか。


 樽を荷物の後ろに括り付け、俺はそれにしがみ付くような体勢になる。

 思わず荷物が増えたが、レオは問題ないようだ。


「それでは、ハンネスさん。お世話になりました」

「いえいえ、こちらの方こそ。ありがとうございました」

「「「「レオ様ーまた来てねー!」」」」

「ワウー!」


 ハンネスさんに挨拶をして、別れをお告げる。

 少々名残惜しいが、また来る事もできるからな。

 出発しようとした時、村の方から子供達が掛けて来てレオに向かって叫ぶ。

 それを聞いたレオが吠え、走り出して村から離れて行く。


「またこの村に来て、子供達と遊んでやらないとな」

「ワフワフ」


 来る時よりゆっくりな速度で走りながら、レオに話しかける。

 レオの方も、子供達と思う存分遊べて楽しそうだったからな。

 屋敷に戻ればティルラちゃんやミリナちゃん、シェリーといった遊び相手はいるが、それとはまた違うはずだ。

 ……シェリーは遊び相手というよりも、保護相手か。


「レオ、ここはこのまま真っ直ぐ行ってくれ!」

「ワフ!」


 ランジ村から走ってしばらく……。

 本来なら、街道に向けて方向転換する場所で、向きを変えようとしていたレオにそのまま真っ直ぐ進むように言う。

 返事をしたレオは、速度を落とすのを止めて真っ直ぐ進んでくれる。

 街道を通ると、道行く人達がレオを見て驚くからな。


 ……すでにフィリップさんを縛り付けて走ったから、手遅れかもしれないが……。

 それでも一応、驚いたり怖がったりする人は少ない方が良いだろう。


「ワフワフ!」

「ん……どうしたレオ?」

「クゥーン……」


 しばらく真っ直ぐ移動していると、途中で急にレオが速度を落として何かを訴えかけて来た。

 どうしたんだろう……。

 完全に止まってしまったレオから降り、どうしたのか聞いてみると、甘えるような声を出している。

 えっと……お腹が空いた……?


「あぁ、そうか……昼も食べて無かったからな」

「ワフ!」


 そうだと頷くレオ。

 考えてみれば、フィリップさんが村に戻って来たのが昼前くらい。

 そこからワイン樽を積み込んで、休憩する時間もあまりなく出発した。

 時間はそろそろ日が傾き始めようとするくらいだから、お腹が空いてもおかしくない。

 ……思い出すと、俺も腹が減って来たな……。


「前の仕事をしてる時は、こんな事考えなかったんだけどな。よしレオ、飯にしよう!」

「ワフワフ!」


 仕事をしている時は、休憩時間もろくに取れなかったため、お昼とかを食べてる暇はなかった。

 疲れを取る事の方が重要だったからな……食べないと体に悪いのはわかってたが、それでも食べるよりも体を休める事を優先してた。

 そう考えると、この世界に来てほとんどいつもしっかり三食食べてる……健康的な生活が出来るのは嬉しいな。

 ……だから体の調子が悪くなることが無いのかもしれない。



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