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第200話 ランジ村でのんびりと過ごしました
第200話 ランジ村でのんびりと過ごしました
「子供達が元気な場所……というのは重要なのかもしれませんな。いくら仕事があっても、次代を担う者達がいなくなれば、村として存続する事ができません」
「確かに。今は良くても、子供達がいなくなれば人はいずれいなくなります」
今お金を稼ぐことができていたとしても、いずれは次代に引き継がないといけない時が来る。
その時、継げる人がいなければ、そこはそれで終わりだ。
だから、子供が離れて行かないようにすることも大事な事なのかもしれない。
それだけになってもいけないから、バランスが難しいんだけどな。
「今回、疫病の事があり、この先ワイン作りがどうなるかわかりません。ですが、タクミ様のおかげで村には多少の余裕があります。今が良い機会なのかもしれません」
疫病が広まったのは、ほぼ間違いなくワインが原因だろう。
その事は、誰も言わなくてもいずれ噂として流れてしまうかもしれない。
そうなったら、どれだけ美味しいワインであっても、この村のワインを買おうとする人は減ってしまうだろう。
つまり、村としての収入は減ってしまうわけだ。
「大丈夫なのですか?」
「今回はブドウの仕入れもしませんでしたから。その分の蓄えでしばらくは何とかなると思います。そのあいだに、村として何をすべきかを考えて行こうと思いますよ」
ブドウを仕入れるためのお金を、別の事に使って生活を保たせるつもりのようだ。
ワイン作りを完全に辞めるのかどうかわからないが、収入が減る見込みがある以上、今までのように村人総出で、というわけにはいかなくなるんだろう。
今回来た商人達が魔物を連れて来た事による、仕入れ先への不安や、領外から仕入れる事への不安なんかもあるかもしれない。
実際、例の店と商人の関与が明らかになって、伯爵家の悪事が表沙汰になると、公爵家との関係が悪化しそうだしな……。
「幸い、木材は他の街に売れますから。ワイン樽に使わなければ、他の村や街に売る事もできます」
ワイン樽用の木材だが、売るとなればそれなりの値段が付くかもしれない。
そちらを優先する事で食いつないでいくつもりらしい。
「ワインが売れなくなる前に……ですか?」
「そうですね。村の事を考えると、先に手を打っておく……もしくは考えておくだけでも、重要かと思いまして」
「それは……そうですね」
村長であるハンネスさんにとって、村の事を考えるのなら早いうちに色々考えて動いておきたいのだろう。
それは確かだし、先の事を考えるのは大事だ。
だけど俺としては、あの美味しかったワインが無くなるのは惜しいと考えてしまう。
ワインが疫病を広める事になったとはいっても、原因は商人が持って来たガラス球だ。
けど、人の噂というものは無責任だからな……一度ワインが原因だと噂になってしまえば、風化するまで時間がかかってしまうだろう。
「まぁ、年寄りの戯言と思って聞いて下さい」
そう言われても、気になってしまう。
俺の性分……というより、今までの経験のせいだな、これは。
仕事で余裕の無かった状況と、ハンネスさんから聞いた村の状況が重なってしまう。
今は違うのだし、俺が村に何かできるわけじゃないが、それでもと考えてしまうんだ。
……ワインが美味しかった……というのも大きな理由だろうけどな。
「ワフワフ!」
「あ、レオ様だ!」
ハンネスさんと話し、村の今後なんかを考えているうちに、結構な時間が経っていたようだ。
遠くからレオの声が聞こえ、それを聞いた子供達がにわかに騒ぎ出した。
「ワフー……ワフ」
「お帰り、レオ。偉かったぞー」
「ワフゥ」
一度俺の前をすごい速度で通り過ぎ、行き過ぎた事に気付いたレオが焦って戻って来た。
ズザーという音を立てて、足を踏ん張り俺の前に止まったレオを、ガシガシと撫でる。
「レオ様ー」
「ワフ?」
レオが戻って来た事に気付いた子供達が、ぞろぞろと集まって来る。
やっぱりレオは、どこにいっても子供達の人気者だ。
子供には、レオが怖い魔物じゃなく、優しいのだとわかるのだろうか……?
単に遊び相手として見ているのかもしれないな。
「すみません、ハンネスさん。喉が渇いてると思うので、水か牛乳はありますか?」
「畏まりました。すぐに牛乳を用意させて頂きます」
「ワフワフ」
「レオ様ー、あそぼー」
ラクトスの街とこの村をずっと走りっぱなしで往復したんだ、喉が渇いているだろうと、ハンネスさんに飲み物をお願いする。
牛乳と聞いて嬉しそうに尻尾を振るレオ。
ご褒美というか、あれだけ頑張ったんだから、これくらいはないとな。
揺れる尻尾にじゃれつきながら、子供達は後から続々と集まって来ている。
「どうぞ、レオ様」
「ワフ! ワフワフ。ガウガブブ……」
「勢いが良いなぁ」
走り通しで余程喉が渇いていたのか、桶のようなものに並々と注がれた牛乳に、顔ごと突っ込むようにして飲むレオ。
一気に飲み干した後、顔に付いた牛乳をタオルでしっかり拭いてやる。
この後子供達と遊ぶのなら、綺麗にしとかないとな。
「先程も感じましたが、やはり子供達が遊ぶ姿は良いですね」
「そうですね。レオも楽しそうです」
「ワフワフ」
「「「きゃっきゃっ」」」
レオと子供達がじゃれながら遊んでいる様子を、広場にあったテーブルについて眺める。
お茶を用意してもらい、それを眺めるのはのんびりとしていて癒されるなぁ。
そんな風に癒されながら、村でのんびりとしながら数日を過ごす。
特にやる事もないため、世話になっているハンネスさんには申し訳なかったが、恩人である俺はいつまで滞在していても迷惑にならないと言われた。
そう言われても、さすがに遠慮も無くいつまでも滞在しようとは思わないけどな。
村では、レオと子供達が遊んでいるのを見ながら、まったりとした時間が流れている。
とはいえ、体がなまったりしないよう、素振りやランニングは忘れず行う。
それと一緒に、ハンネスさんの家の裏で、カレスさんの所へ卸す薬草作りも忘れない。
セバスチャンさんには十分な量を渡したが、帰った時にまた必要だろうしな。
だけど、まったりしてのんびりとした数日の間、俺の頭の中にずっと引っかかっている事がある。
この村のワインなんかに関してだ。
ハンネスさん達がこれからどうするのかわからないが、ワインをなくすには惜しいのと、大人達が子供の相手が出来なくならない程度に仕事を……と考えるとどうすれば良いのか……。
俺に出来る事はないのかもしれないが、そればかりが気になった。
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