お正月特別編 皆で羽根突き対決
このお話は、お正月特別編となります。
本編とは一切の関係が無い、おまけ的な内容になっておりますので、ご了承下さい。
登場人物の発言が本編とかけ離れている場合もあります。
「「「新年、明けまして、おめでとうございます」」」
「「「「おめでとうございます」」」」
「ワフ、ワフワフ、ワウワウワフー」
「キャゥ、キャゥキャゥ、キャゥー」
「「「今年もよろしくお願い致します」」」
「「「「よろしくお願い致します」」」」
「ワッフ」
「キャゥー」
お正月、新年最初の挨拶と言えば、これだな。
食堂にて、屋敷にいいる人達が勢ぞろいし、皆で一斉に挨拶。
まず、クレアさんとティルラちゃん、あと何故か俺が最初に声を揃えて挨拶をし、それに続いて使用人さん達が揃って挨拶をする。
使用人さん達の中には、セバスチャンさんを始め、ライラさんやゲルダさん、ミリナちゃんもいる。
レオやシェリーは、皆に習うように吠えて挨拶だ。
「タクミさん、今年もよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「お願いします!」
「ワフワフ」
「キャゥ!」
挨拶も終わり、使用人さん達はそれぞれの持ち場へ帰って行く。
食堂には正月らしい装いのクレアさんとティルラちゃん、いつもと変わらないセバスチャンさんとライラさん、そこに俺とレオとシェリーが残った。
「……ほぁー」
「どうかされましたか、タクミさん?」
「あぁ、いえ。すみません、なんでもないです」
クレアさんは正月らしく、振袖姿だ。
綺麗で長い金髪をまとめ、着こなしている姿はとても似合っている。
金色の髪と赤い艶やかな振袖との相性が良いのか……。
思わず見とれてしまったのな……初めて会った時以来だ。
さすがに恥ずかしいから、誤魔化したけどな。
「しかし、この世界にもお正月があったんですねぇ」
「数百年ほど前、時の王が定めた制度ですな。……年の始まりは皆で騒いで過ごしたいと……」
説明好きのセバスチャンさんがすかさず教えてくれる。
しかし、年の初めから騒いで過ごす事を考えるとは……その時の治世は大丈夫だったんだろうか……?
「タクミさん、正月といえばこれですよ!」
「ん? それは……羽子板?」
「そうです!」
ティルラちゃんが嬉しそうに持ちだしたのは、木の板と黒い羽根付きの玉。
よく見てみると、その板は柄があり、日本で見た事のある羽子板そのものだった。
日本で見た羽子板は意匠をこらしてあったが、ティルラちゃんが持っているのはただ木を伐って作っただけの簡素な物のようだ。
ちなみにティルラちゃんの方は、薄い桃色の振袖で、とても似合っていて可愛い。
「こんなものもあったんですね」
「それは、時の王が作らせた物でしてな。正月にこれでを使って競技を行い、賞品を争奪するのです」
「競技はまだしも……争奪、ですか?」
「はい。その王は遊ぶなら派手に……というのが信条だったらしく、場合によっては国宝までも賞品にして競い合わせたそうです」
派手に遊ぶ……というのはわからないでもないが……さすがに国宝まで持ち出すのはやり過ぎじゃないだろうか……?
そんなので、よく今までこの国が続いたな……。
本来の羽子板は確か、厄払いや魔除けの意味もあって、女性にあげる物という事もあったはずだけど。
羽子板を使って羽根突きをして、罰ゲームで墨を塗る……何てこともあったっけ、そういえば。
「じゃあ、今回も何かを競うんですか?」
「いえ、今回はただこれを使って遊ぶだけですよ」
「競技や争奪戦としての意味合いは、既に廃れましたからな」
時の王とやらが決めた羽根突きの争奪戦は、すぐに廃れてしまったらしい。
まぁ、国宝を出して争奪させるとか、良い趣味にも思えないし、そんなにほいほい高価な物を出していられないだろうからな。
「皆で遊ぶのです。今まであまりしてなかったのです」
「そういえば……確かに」
「良い機会のなので、皆で一緒に遊びましょう」
「そうですね。それも楽しそうです」
確かに今まで、皆一緒に遊ぶという事はしてなかったな。
レオとティルラちゃんが遊ぶのを見守る事が多かった。
だけど、クレアさんとかティルラちゃん……振袖来てるのに、動いたりして大丈夫なんだろうか?
「それでは、裏庭の方へ参りましょう」
俺の心配を余所に、セバスチャンさんに促されて皆で裏庭に移動する。
「さすがに寒いですね……」
「雪がいっぱいです!」
「白い世界……綺麗ですね」
「ワフワフーワッフワッフ!」
「キャゥ! キャゥ!」
裏庭に出ると、そこは白銀の世界とも言える光景が広がっていた。
昨夜から吹雪のように降っていた雪が積もったらしい。
地面には、足首より少し上くらいまでの雪が積もっている。
レオとシェリーはそれを見た途端、弾かれたように駆け出して、裏庭をはしゃぐように走り始めた。
……犬は喜び庭駆け……か? 狼じゃなかったっけ……似たようなものか……。
しかしシェリー……雪に埋もれて体がほとんど見えないんだが、大丈夫か?
白い毛だから、雪の中に埋もれてしまうと判別もしにくい。
「レオ様もシェリーも喜んでますね。楽しそうです!」
「そうだね。ただシェリーはあのままでいいのかな……?」
「大変です! すぐに助けま……わぷ!」
「ティルラちゃん!?」
レオもシェリーも楽しそうなのは良いんだが、やっぱり雪に埋もれてもがくようなり始めたシェリー。
それを見てティルラちゃんが助けようと駆け出し、雪で足を滑らせて転んだ。
降り積もった新雪が、ティルラちゃんが万歳したような形のまま沈む。
「もう、ティルラ。あまりはしゃぐと転ぶわよ?」
「いや、もう転んでるんですけどね……」
溜め息を吐くような様子で、雪の上を滑るように移動したクレアさんは、ティルラちゃんの形になっている雪の穴に手を入れ、中からティルラちゃんを引っ張り出した。
……片手で持ち上げたけど……クレアさんって意外に力持ち……?
エッケンハルトさんの娘と考えると、不思議じゃない感覚は何だろう。
「ほらティルラ、雪の上はこうやって移動するのよ?」
「凄いです、姉様!」
「……どうやって移動してるんだ……?」
雪を沈ませる事なく、何故かスケートリンクで滑ってるように移動するクレアさん。
新雪だから、踏めば沈むのは当然なはずなのに……。
「それではクレア様、そのまま羽子板のコートをお願いします」
「わかったわセバスチャン。ほら、ティルラも手伝って」
「わかりました! ……わぷ!」
セバスチャンさんが、クレアさんにお願いして、誰も踏んでいない雪が積もった場所に線のような物を刻んでいく。
移動の仕方は不思議で謎だが、線がきっちりと出来て行くから便利だな。
手伝うように言われたティルラちゃんは、また踏み出そうとして転んでしまった。
どうでもいいけど、羽根突きってコートとか作るようなものだったっけ……何かこちらならではの決まりがあるのかもしれない。
「これで大丈夫ね」
「はい、よろしいかと」
「……びしょびしょです……」
「ティルラちゃん、風邪を引いたらいけないから、これを」
「ありがとうございます!」
「お礼ならライラさんに、ね」
クレアさんが線を引き終わる頃、ティルラちゃんは雪に埋もれまくって全身びしょびしょになってしまっていた。
振袖がそんなに濡れるのは良いのだろうかというのも気になるが、それよりもこんな寒い中濡れていたら風邪を引いてしまう。
この世界に風邪があるかはともかく、ライラさんい大きめのバスタオルのようなものを受け取り、ティルラちゃんに渡した。
「さて、では……タクミ様、クレアお嬢様がチームとして……ティルラお嬢様とレオ様、シェリーを一つのチームとしましょうか」
「それで良いわ」
「はい、わかりました」
「ワフ!」
「キャゥ!」
「……チーム戦?」
どうやら今回の羽根突きは、チーム戦で行われるらしい。
羽根突きが競技として厳密なルールで管理されてるらしい……日本ではどうだったかな……?
まぁ、バドミントンのダブルスみたいなものと考えれば良いか。
「私は、審判を務めさせて頂きます」
「では私達は線審を」
どこから持って来たのか、テニスとかでよく見る審判台を設置し、そこに座るセバスチャンさん。
ライラさんは線審としてライン際を見定めるのだろう、書かれた線を見られる位置に移動した。
他の使用人さん達も、何人か屋敷の中から出て来て、ライラさんと同じように配置に付く。
……あれ、これって単なる羽根突きだよな?
「レオ様、シェリー、頑張りましょう! 皆でにっくき姉様を倒すのです!」
「ワフ!」
「キャゥ!」
ティルアちゃんは、俺とクレアさんがいる場所と逆のコートで、レオ達と気合を入れるようにエンジンを組んでいる……ようにも見えるが、実際はレオの毛に包まれているようにしか見えない。
……ティルラちゃんはクレアさんに何か思う所があるのだろうか。
シェリーは雪に紛れたり埋もれてしまうため、レオの背中に乗ってるんだが……そんな状態で羽子板が出来るのか……?
一応、口には羽子板を咥えてやる気はあるようだ。
「タクミさん、こちらも負けていられません! 頑張りましょう!」
「……はい」
「気合が足りませんよ!」
「……はい!」
「よろしい!」
ティルアちゃんの言葉を聞いたからなのか何なのか、クレアさんは相当熱くなってる。
俺が何となく返事をしたら注意されてしまった。
勝負事になると、人が変わるっていうのはいるから、クレアさんやティルラちゃんもそれかもしれない。
父親がエッケンハルトさんだったと考えると、不思議でもなんでもないな。
それはともかく、クレアさんのように雪の上を不思議な移動ができるわけじゃないから、俺は役に立たなそうなんだけどな。
向こうもティルラちゃんやシェリーは同じような感じだろう。
実質、レオとクレアさんの一騎打ち……か?
「では、始め!」
「姉様、行きます!」
「来なさい!」
セバスチャンさんが開始の合図をすると同時、ティルラちゃんが叫んで羽根をサーブ!
狙いは……俺じゃなくセリフの通りクレアさん狙いか。
「まだまだ甘いわよ、ティルラ!」
雪の上を滑るように移動しながら、ティルラちゃんの打った羽根を打ち返すクレアさん。
ゴウ! という音を立てながら俺の横を通過した。
……え?
「レオ様、お願いします!」
「ワフ!」
とんでもないスピードで打ち返された羽根は、レオによって再び打ち返される。
……また俺の横を、ゴウ! という音を残しながら通過して行った。
「くっ、ここでレオ様なんて……っ!」
クレアさんが打った時よりもスピードが速いように見える羽根を、何とかクレアさんがすくい上げるように羽子板で拾う。
しかし今度は、先程のように力強く打ち返す事が出来なかったためか、ふわふわと緩やかに相手コートに向かう羽根。
「今です!」
「キャゥ!」
自分達のコートまでフワフワと飛んで来た羽根に向かって、レオに乗っていたシェリーがティルラちゃんの言葉でジャンプする!
「なんですって!?」
「キュー……キャゥ!」
空中で一瞬だけ静止したように見えるシェリーは、思い切り力を溜めて体を一回転させながら羽子板で羽根を打ち返す。
クレアさんは驚きの声を上げながら移動を開始したが、それも間に合わず、俺達のコートに羽根は突き刺さった。
……いやあの……また俺の横を凄い音を立てて通り過ぎたんですが……これって本当に羽根突き?
勢いが凄すぎない?
「やりました!」
「ワウー」
「キャゥー」
「むぅ……」
喜んで湧き上がる相手コートとは裏腹に、こちらではクレアさんが悔しそうにしている。
……俺立ったままで何もできてないけど……こうなったら仕方ない、奥の手だ。
「……タクミ様?」
「少し待って下さい。俺も本気を出しますから」
俺が雪の中に手を突っ込んだのを見て、首を傾げたクレアさんに声をかけつつ、『雑草栽培』を発動。
数秒で出来上がった薬草を素早く処理して口の中へ。
「これで、俺も戦える!」
身体強化を極限までさせる薬草を作り、雪の中でも問題なくからだを動かせるようにする。
足手まといにはならない!
「タクミさんが本気です! レオ様!」
「ワフワフ……ワフゥ……」
こちらを見ていたティルラちゃんが焦ったように叫ぶが、もう遅い。
何かがおかしい競技が、俺を本気にさせたのだから。
変なスイッチが入った俺はもう止められない!
レオの方からは、「まずいな……」とでも言うような声が聞こえて来る。
さすが相棒だ……俺が本気になったらどうなるかわかっているらしい。
「クレアさん、いきますよ!」
「はい、タクミさん!」
「……タクミ様……恐ろしい子!」
線審をしているライラさんが何か言っているような気がしたが、今はそんなネタに付き合う余裕は無いし、これは演劇ではない。
クレアさんに声を掛け、今度は俺がティルアちゃん達に向かいサーブだ。
「行くぞ、ティルラちゃん、シェリー、レオ!」
「くっ!」
「ワフ!」
「キャゥゥ」
羽根を上に上げ、それを追いかけるようにジャンプして羽子板で打つ!
ギュオゥ! という音と共に発射された羽子板砲は、ティルラちゃんに向かって一直線に飛んで行く。
「きゃあ!」
「ワフ!?」
自分に向かって来た羽根を、何とか持っていた羽子板で跳ね返すティルラちゃん。
横でレオが「ティルラ!?」と心配そうな声を上げている。
「クレアさん、チャンスです!」
「はい!」
フワフワと緩やかに上がった羽根は、絶好のチャンスに見える。
俺が声を掛け、すぐに飛び上がるクレアさん。
思い切り体をしならせ、全力で羽子板を振り切り羽根を打ち返した。
その威力は、先程の俺が打った羽子板砲と比べても遜色のないものだ。
「もう、駄目です……」
それを見て諦めた様子のティルラちゃん。
俺の羽子板砲を受けて手が痺れてしまったのか、羽子板を持てない様子だ。
「もらった!」
「ガウ!」
俺が叫んだとほぼ同時、いつの間にかコート外ギリギリまで移動していたレオが、羽子板砲……羽根に向かって風の如く走り寄る。
「何だと!?」
「ガウーガウ!」
レオの気合一閃、走る勢いと共に口に加えた羽子板を振るレオ。
クレアさんの打った羽子板砲は、打ち返され、その威力すらも吸収したようなとんでもない勢いでこちらに向かう羽根。
「くっそぉぉぉぉ!」
俺は羽子板を立てに構え、何とか羽根を抑えようと試みる……が。
抵抗もむなしく、羽子板は羽根によってもろくも打ち砕かれ、俺の体に突き刺さる!
「ぬわぁーーーー!」
「タクミさーーーん!」
突き刺さった羽根の勢いは、それだけで止まることは無く、俺の体を持ち上げて空に舞った。
クレアさんの叫びを聞きながら、俺はレオの打った羽根の力で体ごと飛ばされた……。
「大丈夫ですか……タクミ様?」
「ここまで飛んで来るなんて……何があったのですか?」
「ヤ……無茶しやがって……」
「……うぅ……」
羽根の勢いのまま飛ばされた俺は、勢いよく地面に叩きつけられた。
聞き覚えのある声からすると、ここはランジ村だろう……屋敷からここまで人を飛ばすなんて……どんな力なんだ……レオ……。
落ちて来た勢いで、クレーターのようになった場所から、身動きが取れないまま、俺はか細い声を漏らすだけしかできない。
「……これは……死にましたかな……?」
いやまだ生きてますから!
全身が痺れて動けないだけですから!
薬草の副作用か、落ちた衝撃か、どちらにせよ、寒空の下俺はしばらくそのまま身動きが出来なかった……。
もう絶対羽根突きなんてやらないからな!
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