第188話 セバスチャンさんも来てくれました



 村の入り口に殺到していたオーク達をレオが蹴散らした事で、ハンネスさんが俺に駆け寄って来た。

 ハンネスさんの方は、特に怪我をしている様子は無く一安心だ。

 こうしている間にも、レオによって残っていたオークの半分以上が倒されている。

 やっぱり強いんだなぁ、レオ。


「ははは、俺は時間稼ぎくらいでしか役に立ちませんでしたからね。レオが来てくれて良かった。お礼なら、レオにしてやって下さい」

「レオ様にはもちろんですが、タクミ様にも感謝しなければなりません。タクミ様がここで戦て下さったおかげで、我々も集まる事が出来ましたし……それに、私共のために必死で戦う姿にも感銘を受けました」

「そんな、言い過ぎですよ。俺は目の前に襲って来たオークを何とか相手にしていただけですって」

「いいえ、そんな事はありません。タクミ様が時間稼ぎをと考えて行動して下さったおかげなのです。それが無ければ……オーク達は簡単に村に入り込み、蹂躙されていたでしょう」

「……まぁ、役に立てたのなら、良かったです」


 ハンネスさんの言い方は大げさだとは思うけど、鍛錬が中途半端になっている俺でも何かの役に立てたのなら良かったと思う。

 倒したオークの数は多いとは言えないだろうが、光の魔法で足止めだとかは出来たからな。


「ワフー」

「お、レオ。終わったのか」

「ワフワフ」

「レオ様、ありがとうございます」


 ハンネスさんと話してるうちに、レオがオーク達を全て倒して戻って来た。

 さすがはレオだ。


「助かったぞ、レオ。本当にありがとうな」

「ワフーワフワフ」


 感謝をしながら、しっかりとレオの体を撫でてやる。

 頭の方はまだズキズキと痛むが、少しづつ落ち着いてきてるから、体を動かす事は出来る。

 レオは尻尾をブンブン振りながら、俺が体を撫でるのに気持ち良さそうにしている。


「しかし、どうしてレオがここにいるんだ? フィリップさんを乗せて戻ってたんじゃないのか?」

「ワフ? ワーフワフワフ……ワフーワワウガウ、ワーウワーウワフワフワウワウ。ガウーガウワフ」


 レオは、俺が何故ここにいるのかという質問に答えようとしているんだろうが、長くてよくわからない。

 頭の痛みもあって、レオの言ってる事を全て考えられない状態だ。

 いつもなら、何とか理解出来たんだろうけど……。


「すまん、レオ。ちょっと長くてわからない……」

「ワフゥ……」


 俺に伝わらない事に落ち込んだ様子を見せるレオ。

 すまない、ちゃんとわかってやりたいんだが、今は痛みがあるからな。


「私が説明しますよ、タクミ様」

「え?」


 レオに謝っている俺に、後ろから声を掛けられた。

 この声は聞き覚えはあるが……こんなところにいるわけがないはずなんだが……?


「……セバスチャンさん!? どうしてここに!?」

「ほっほっほ。レオ様に乗せてもらいました。やはり、速いですなぁ」


 頭の痛みを抑えながら後ろを振り向くと、そこには見慣れた柔和な笑みを浮かべながらも、しっかりと相手を見据える鋭を持ったお爺さん……セバスチャンさんがいた。


「レオもそうですけど、セバスチャンさんまでどうしてここに?」

「その話は、また後にしましょう。まずは、この騒ぎを収めませんとな」

「あ、そうですね」

「ハンネスさん、怪我人の手当てを。それと……魔物の処理は任せても?」

「はい! わかりました! 処理の方は、慣れている者を呼んできます!」


 レオに聞いてもわからないのなら、セバスチャンさんに聞けば良い。

 だが、セバスチャンさんは、まずこの場をどうにかする方を優先したようだ。

 ……怪我をしてる人もいるわけだし、それは当然か……まぁ、後で事情を聞く事にしよう。

 セバスチャンさんに言われて、ハンネスさんは他の村人たちの方へ向かった。


「あ、そうだセバスチャンさん!」

「どうかされましたか?」


 セバスチャンさんにこの場を任せようとして、思い出した。

 オークをここまで運んで来て、解放してすぐに逃げた商人達。

 あれからどれくらいの時間が経っているのかはわからないが、すぐに追いかければ捕まえる事が出来るかもしれない。


「このオーク達を運んで来た奴らがいるんです。確か……馬に乗ってラクトスの方向へ逃げて行ったんですけど……」


 村の入り口が西側……ラクトスに向くような場所にあるから、商人たちはラクトスに向かって馬を走らせたのは見えていた。

 ……途中で方向転換とかをしていたら、なんとも出来ないが……。


「ふむ……途中ですれ違った馬に乗った二人組……あれはそう言う事だったのですね?」

「馬に乗った二人組という事なら、多分そうだと思います」

「そうですか……レオ様に乗って、ここへ駆けつける事を優先させましたが……怪しい二人組だったのを記憶しています」

「その二人が、フィリップさんが持って行ったガラス球を仕掛けて、今回オーク達をけしかけて来た張本人です!」


 セバスチャンさんは、レオに乗ってここに駆けつけて来る時、途中ですれ違ったみたいだ。

 それなら、商人達は方向を変える事なくラクトスの方へ真っ直ぐ向かってるみたいだな。


「成る程……そう言う事ですか。わかりました、すぐに追いかけましょう。ヨハンナ!」

「はい!」


 ある程度理解したセバスチャンさんは、すぐに追いかける事にし、ヨハンナさんを呼んだ。

 今まで気づかなかったけど、セバスチャンさんから少し離れた場所で、村人の手当て何かをしていたようだ。

 一緒にフィリップさんがいたのも見えた。


「ハンネスさん……村長に言って馬を借り、すぐにラクトス方面へ向かいます。相手は馬で移動中、こちらもすぐに追跡しなければ」

「はい、わかりました!」

「あ、ちょっと待って下さい」

「どうされましたか、タクミ様?」


 すぐに商人達を追うように手配しようとしたセバスチャンさんとヨハンナさんを止める。

 馬で追いかけるより、もっと良い方法があるからな。


「レオで追いかけましょう。馬で追いかけるより、よっぽど早いですよ」

「……そうですが……良いのですか? レオ様ならば確実に追いつけるでしょうが……タクミ様と一緒にいた方が……」

「俺も一緒に行きます。良いか、レオ?」

「ワフゥ!」



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