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第189話 怪我を押して商人達を追いかけました
第189話 怪我を押して商人達を追いかけました
レオで追いかければ、馬にはすぐに追いつく事が出来るだろう。
セバスチャンさんは、レオを俺に付けておくつもりだったようだが、俺が一緒に行くのなら問題はないだろうと思う。
それに、オークに村を襲わせるなんて事をしたあの商人達を俺は許せない。
「わかりました、それでしたら私と……ヨハンナ、一緒に」
「畏まりました!」
セバスチャンさんと、ヨハンナさんも一緒に来るようだ。
まぁ、レオがいるとはいえ、人を捕まえるのに俺だけじゃ心もとないから、ありがたい。
今回は、オークのように倒すんじゃなくて、捕まえるのが目的だしな。
「じゃあレオ、走り通しになってすまないが、俺達を乗せてくれるか?」
「ワフゥ……クゥーン、クゥーン」
「わぷ……どうしたんだ?」
レオに乗せてもらおうと頼むと、何故か甘えるように顔を摺り寄せて来て、俺の顔をぺろぺろ舐めて来る。
いつもなら、すぐに承諾してくれて俺達を乗せてくれるんだが……どうしたんだろう?
「……タクミ様……!」
「ん? セバスチャンさん、どうしたんですか?」
「どうしたではありません! タクミ様の頭から!」
「頭……? あ……」
「ワフゥ、ワフゥ」
レオの行動が何なのかを考えていると、横にいたセバスチャンさんが急に驚いて声を上げた。
セバスチャンが俺の頭を見ているようだけど……と思って自分の手を上げて頭を触ると、ぬるりとした感触がした。
その手を顔の前に持ってくると、そこには真っ赤な血が付いていた。
どうやら、さっきオークに強打された時に頭から血が出ていたみたいだ。
通りで頭の痛みが引かないと思った……レオは心配して俺の頬まで流れて来る血を舐めてくれてたのか……。
「怪我をしていたようですね……えっと、何か拭く物を……」
「こちらをお使い下さい」
「……良いんですか? 綺麗なハンカチですけど」
「ハンカチよりも、今はタクミ様の怪我の方が重要です!」
タラリタラリと流れて来る血を拭こうと何か拭く物を求めていたら、ヨハンナさんが白く綺麗なハンカチを差し出してくれた。
白いハンカチを血で汚すのは気が引けるが、今はありがたく使わせてもらおう。
「よし、それじゃあ商人達を追いかけましょう」
「タクミ様……大丈夫なのですか? 頭部の怪我は大事に至る事が多いはずですが……」
「まぁ、多少痛みはありますけど……なんとか大丈夫です。もしもの時は、ロエでも作ってすぐに治しますよ」
「……わかりました。ですが、もし私がこれ以上危険だと感じたら、すぐに治療をして下さい」
心配そうに俺を窺うセバスチャンさん達とレオ。
そんな皆に笑みを浮かべて大丈夫だと伝える。
今は怪我の治療よりも、商人達を追いかける方が先決だからな。
早くしないと、商人達の行方がわからなくなってしまう。
こういう時でも、自分ではなく他の事を優先してしまうのは、以前仕事をしていた時からあまり変わってないのかもなぁ。
「すまないレオ、乗せてくれるか?」
「ワフゥ」
再度レオにお願いをする。
レオは仕方が無いと言うように声を上げた後、後ろを向いて伏せの体勢になってくれた。
「よし、それじゃ追いかけましょう。ラクトスの街方面で良いんですね?」
「はい。私達がすれ違った時はラクトス方面に向かっていました」
「それじゃレオ、頼む。出来るだけ早く走って欲しいけど、振り落とさないようにな」
「ワフ!」
俺とセバスチャンさん、ヨハンナさんを乗せたレオは、ランジ村の入り口からラクトスに向かって走り始める。
残す事になったフィリップさんには、村人の怪我人やオークの後始末を任せておく。
「くっ……さすがに揺れると痛むな……」
「大丈夫なのですか?」
「まだ、何とか大丈夫です」
ランジ村に向かって走っていた時よりは、少しだけゆっくり走ってくれるレオにしがみ付きながら、頭の痛みに顔をしかめる。
俺の後ろに乗ってるセバスチャンさんは、俺の様子を窺っているようだ。
揺れるから、立っているだけよりは痛みがあるが、我慢できない程じゃない。
さすがにずっとこの痛みが続くのは嫌だから、落ち着いたらすぐにロエで治療しようと決めた。
「ワフゥ?」
「大丈夫だよ、レオ」
レオの方も、走りながら俺を心配するように鳴いた。
恐らく、俺の怪我を気遣って以前よりも速度を落としてくれてるんだろう、心配かけてすまないなレオ。
「あ、いました!」
「馬が2頭……あれで間違いなさそうですな」
「そうですね。レオ、あの馬に近付いてくれ」
「ワフ!」
頭の痛みを我慢しながら走ってもらう事少し、俺とフィリップさんやハンネスさんが合流した地点よりはランジ村に近い位置で、逃げ出した商人達を発見した。
2頭の馬に乗った二人は、ラクトス方面に向かって馬を走らせている。
完全に日が沈んで暗くなっているが、まだ感覚を鋭くする薬草の効果が残ってる俺にははっきりと、村に来ていた商人の姿を確認出来た。
セバスチャンさんやヨハンナさんには、馬がうっすらと見えるくらいだろうけど。
……そういえば、レオは夜でもしっかり前が見えてるみたいだな……。
「レオ、あの馬に近付いて驚かせやってくれ!」
「ワウ!」
大分近付いて来た時、レオに向かって馬を驚かすように伝える。
馬にはかわいそうだが、走っている馬を止めるのにはそれが一番だ。
……もっと良い方法があるかもしれないが、頭の痛みに耐えてる状況だと、これしか考え付かなかっただけなんだけどな。
「ハッハッハッハ……ガウ!」
「ぬお!?」
「何だ!?」
レオが走りながら、舌を出して呼吸してる音が聞こえた頃、馬の横まで追いついて一気に吠える。
レオの咆哮に驚いた馬が、走るのを止めその場で暴れ始める。
商人達はそんな馬を制御する事が出来ずに、地面に落下した。
……怪我をしてなきゃ良いけど……なんて考えは、今回一切浮かばなかった。
ランジ村にオークをけしかけるなんて、悪質な事をしてる相手を気遣うような精神はさすがに持ち合わせていない。
「くぅ……ありがとうなレオ」
「ワウ」
「ヨハンナ!」
「はっ!」
止まった馬を少し追い越したあたりで、レオが急ブレーキ。
頭には結構な痛みが走ったが、それに耐えてレオにお礼を言う。
すぐにレオから降りたセバスチャンさんが、ヨハンナさんと共に落馬した商人達へ駆け出した。
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