第199話 商人達は護送されて行きました



 商人達をラクトスへ連行するのは昼食後に決まった。

 レオが帰って来るとしたら、遅くとも夕方から夜だと思うが、そのくらいなら俺一人でも大丈夫だろう……さすがにもう魔物が襲って来る事もないだろうしな。

 セバスチャンさんは、商人達にニックに掛けた魔法をかけるつもりのようだ。

 確かにそれなら、逃げ出したとしてもすぐにまた捕まえる事ができる。

 それと、まだ時間があるから、それまでに『雑草栽培』でいくつかの薬草を作っておこう。


「それじゃあ、俺はハンネスさんの家の裏で薬草を作っておきます」

「何か作るものでも?」

「随分長い間屋敷から離れていますからね。ラクトスに卸す薬草を作ろうかと」

「……確かに、ガラス球と一緒にフィリップが持って来ていましたが……もう数日この村に留まるとなると、足りなくなるでしょうな」

「はい。だから出来るだけ薬草を作っておきます」

「わかりました。無理はなさらず」


 軽くセバスチャンさんと打ち合わせをして、別れる。

 俺はそろそろ行き慣れて来た家の裏へ向かって薬草作りに集中だ。


「セバスチャンさん、薬草です。カレスさんにもよろしく伝えて下さい」

「確かに。承りました。……量が多いようですが……体調の方は?」

「大丈夫です。今日はこれで『雑草栽培』をおしまいにしますよ」


 薬草作りに集中して数時間、ちょっとやり過ぎたかなと思う程の薬草を作ってしまった。

 昼食を食べた後、商人達をラクトスへ連れて行くセバスチャンさん達の見送りだ。

 村の入り口で作った薬草を渡すと、数の多さに心配されたが、これ以上今日は『雑草栽培』を使わない事を約束する。

 自分でも多過ぎたと思うくらいだから、さすがにこれ以上無理をするのは止めておきたい。

 この村で滞在中に倒れるわけにもいかないからな……屋敷だから良いというわけでもないけど。


「無理はなさらないように、気を付けて下さい」

「はい」

「それでは……あぁ、そうだ。商人達をラクトスに連れて行ったら、その場で尋問する事になりますが……しばらくはラクトスの街にいますので」

「そうですね……それじゃあ、俺もフィリップさんが馬車を連れて来たら、すぐラクトスに出発します」

「はい。それでは、ラクトスで合流致しましょう」


 フィリップさんが順調に馬車を手配出来れば、ここに来るまで大体4日から5日くらいだろう。

 セバスチャンさんの方も、商人達を連れてるので、馬を早く走らせることが出来ない。

 だから、こちらも4日から5日かかるとして、フィリップさんが村に戻ってワイン樽を積んだ後、レオに乗ってラクトスに向かえば、ちょうど尋問の終わった頃くらいに到着しそうだ。

 多少前後はするだろうけどな。


 セバスチャンさんとラクトスで合流して、イザベルさんの店に行く事になるかな。


「それでは、タクミ様」

「はい、お気をつけて」

「失礼します」

「ヨハンナさんも、気を付けて」


 商人達を連れて来た時とは違い、1台の馬車に商人と監視のヨハンナさんを乗せ、セバスチャンさんが御者をしている。

 馬車は商人達が持って来ていた物なのだが、唯一傷が少なく使えそうだった物だ。

 他の馬車はほとんどオーク達によって破壊されているため、馬に曳かせて走れそうにないらしい。

 オークを積んできたんだから、仕える馬車が1台でもあった事が幸運なんだろう。

 走って行く馬車を見送り、見えなくなったあたりで村へと戻る。


「タクミ様、レオ様はまだでしょうか?」

「ロザリーちゃん。んーもう少しかかると思うよ」


 ハンネスさんの家の近くまで来た時、ロザリーちゃんに呼び止められた。

 レオが帰って来るのを待ちわびてるようだ。

 随分懐いたようで、俺としても嬉しい限りだ。


「レオ様とまた遊びたいです!」

「レオ様って格好いいですね!」


 子供達が数人、ロザリーちゃんのところに集まって、一緒にレオを待っているようだ。

 何度かレオが一緒に遊んでいた子供達だな。


「今レオは頑張って走ってるだろうからね。すぐに帰って来ると思うよ。帰って来たら、また遊んであげてくれるかい?」

「もちろんです! ね?」

「「「うん!」」」


 子供達に声を掛け、ロザリーちゃんが元気の良い返事。

 他の子供達も、レオと遊べるのを楽しみにしているようで、笑顔で頷いた。


「子供達に活気があるのは良い事です。……久々にこういった光景が見られます。レオ様には感謝しかありません」

「ハンネスさん」


 レオが待ちきれなくなった子供達が、駆けて行く様子を見守っていると、横からハンネスさんに話しかけられた。

 ハンネスさんは、ロザリーちゃん達の笑顔を見て目を細めている。


「ここしばらく、病気が村に広まっていましたから……村の雰囲気が明るくなりました」

「そうですか」

「病気以前も、ワインを作るようになって、仕事ばかりの大人達を見るしか子供達にはできない様子でしたから」

「子供達の相手をあまりしてなかったんですか?」

「お恥ずかしい限りなのですが……働ける村人総出で、木の伐採から樽の製造、ワインへと……私が若い頃には無かった活気が、村を満たしておりましてな」


 病気が広まったから、村の雰囲気が暗くなった……というのはわかる。

 実際に俺も見たからな。

 でも、それ以前はどうだったのかは知らない。

 ハンネスさんが言うには、大人達は仕事ばかりで、あまり子供達の相手をしてやれてなかったらしい。


 今は、ワインの数が減ったからなのか、昨日のオークとの戦闘で休むためなのか、村のあちこちで大人達が座ってのんびりしており、駆けまわる子供達を優しく見守っている。

 人によっては、一緒に遊んでいる人もいるくらいだ。

 この様子を見ると、子供の相手が出来ない村のようには全く見えない。


「活気はあっても、子供達の楽しそうな声……というものはあまり聞けません。聞こえるのは、仕事に対する事ばかり」

「……わかります」


 以前の職場では、活気があったか無かったかと言われるとあった方だと思う。

 けど、聞こえてくるのは上司が新人を叱咤する声や、責任のなすりつけ合い。

 同僚と私語をする暇すら与えられない環境だった。

 そこまで酷い状況ではないにしても、この村では子供達の相手よりも、収入のための仕事が重要だったんだろう。

 ……生活のためなんだから、責める事はできないな。



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