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第198話 フィリップさんには罰が与えられました
第198話 フィリップさんには罰が与えられました
「フィリップにラクトスの街まで行ってもらおうと思いましてな」
「それは良いんですが、何故縄で?」
「レオ様に運んでもらうためです。今回、レオ様不在時にタクミ様が魔物に襲撃されました……正確には村ですが……」
「はぁ……」
レオがいない間にオークに襲われた事と、フィリップさんが縛られている事に何か関係があるのだろうか?
「そのため、レオ様はタクミ様の近くから離れたがらないでしょう」
「ワフ」
セバスチャンさんの説明に、レオが頷く。
レオの気持ちはとてもありがたい。
「なので、レオ様がタクミ様から離れる時間を最小限にするための措置です。ラクトスの街までレオ様にできるだけ早く向かってもらい、その日のうちに帰ってくるため、ですね」
「……なる……ほど……?」
わかったようなわからないような……。
レオなら乗っている人を気にしなければ、半日程度でラクトスとこの村を往復する事はできるだろうと思う。
それと、フィリップさんが縛られている関係がわからないような……えっと……もしかして?
「……レオに振り落とされない……ため、ですか?」
「その通りです。フィリップをレオ様に縛り付けておけば、どれだけ速く走っても振り落とされることは無いでしょう」
「まぁ、そうですが……でも……」
「タクミ様……」
フィリップさんが懇願するような目で見られるが……俺には楽しそうなセバスチャンさんを止める事はできそうにない……。
「フィリップ、諦めなさい。貴方がこの村に来て行った所業……聞き及んでいますよ?」
「……そんな! まさかタクミ様が!?」
「いえ、ハンネスさんや、村の人達から伺いました」
いつの間にやら、セバスチャンさんは村の人達からフィリップさんが、この村に来てすぐの宴にて、ワインに酔っ払ってお酒に飲まれた事を知ってしまったらしい。
さすがに怒られたりするのは不憫だと思って、俺は黙っていたんだけどなぁ。
「公爵家の護衛としてこの村に来ておきながら、酒に飲まれるとは……これはその罰ですよ。なに、さすがに死ぬことはないでしょう」
「ワフ」
「……くっ!」
フィリップさんに対して、罰を与えるという名目もあるみたいだ。
楽しそうに話すセバスチャンさんに、レオも頷く。
まぁ、レオから振り落とされなければ死ぬような事はないのはわかる。
レオもさすがにわかってるだろうしな。
でもセバスチャンさんはそれを明言しない……フィリップさんへの罰だからかな。
「ワフワフ」
「レオ……お前もか……」
レオとしても、反省を促すと考えているようだが……いつの間にかレオがセバスチャンさん側だ……。
すまない、フィリップさん。
俺にはどうする事もできないようだ。
「では、ヨハンナ」
「はい。フィリップさん、すみません」
「やめてくれー!」
もがくフィリップさんを、村人に商人達の見張りを任せて来たらしいヨハンナさんがレオに乗せる。
抵抗してはいるが縛られたうえ、着々とレオに結ばれて行くフィリップさんにはどうする事もできない。
「おっと、これも忘れずに……」
「ワフ」
小樽を持ちだしたセバスチャンさんは、それをフィリップさんと一緒にレオに縛り付ける。
「その小樽は?」
「例のワインが入っています。ガラス球と一緒に、イザベルに調べてもらおうと思いましてな」
「あー、成る程」
イザベルさんは今ガラス球を調べているから、ついでにその効果で感染したワインの事も調べてもらうのだろう。
俺とは違って、飲めるようにする方法なんかがわかるかもしれない。
「では、フィリップ。荷馬車の手配とイザベルへの依頼。頼みましたよ」
「……わかりました……」
「それと、レオ様。フィリップを降ろしたらすぐに戻ってきても良いですからね?」
「ワフ!」
観念したのか、セバスチャンさんの言葉に渋々承諾するフィリップさん。
声を掛けられたレオも、元気よく頷いている。
……セバスチャンさん、十分にレオと意思疎通して言う事を聞かせてる気がするんだけど……?
「では、よろしいですかな。タクミ様?」
「……あぁ、はい。すまないな、レオ。頼む」
「レオ様、お願いします」
「ワフー!」
「ああぁぁぁぁぁぁ…………」
一応と、俺に確認を取るセバスチャンさん。
ここまで来て止められないからな……レオにも一言声を掛けておいた。
セバスチャンさんが合図をすると、勢いよく吠えたレオが風のような速度で走り去る。
ドップラー効果でフィリップさんの声が遠ざかって行き、レオの姿はすぐに見えなくなった。
あの速度はさすがに……しがみついてても落とされそうだなぁ……縛り付けてて正解だと思う。
「あ」
「どうかされましたか、タクミ様?」
レオが見えなくなった後になって気付いた。
「ラクトスの街に着いても、誰がフィリップさんを縛っている縄を解くんですか?」
「「あ」」
俺が気付いた疑問を口にすると、セバスチャンさんもヨハンナさんも、同時に気付いて声を出した。
二人共、そこまで考えていなかったようだ。
「……レオ様がなんとかしてくれないでしょうか?」
「……難しいんじゃないですか……?」
さすがにシルバーフェンリルとはいえ、背中に括り付けられた人を降ろす事は出来ないと思う。
体の構造的に、足を背中に回す事はできないしな……。
「ふむ……向こうの人が気付いて解いてくれる事を願いましょうか」
「それで良いんですか?」
「街の衛兵あたりは、レオ様とフィリップを見知っていますからね。大丈夫でしょう」
フィリップさんを罰する事と、ラクトスへ向かう事を一石二鳥と考えていた様子のセバスチャンさんは、縄を解く必要がある事を失念していたようだ。
いつもしっかりしているセバスチャンさんにしては珍しいが、今回はあまり考える時間が無かったから、こういう事もあるのかもしれない。
輸送方法を考える事を忘れて、ワイン樽を買った俺が人の事は言えないしな。
「では、続いて……商人達を護送しましょうか」
「はい」
「いつ頃出発しますか?」
「……そうですね……早く街に連れて行き、尋問もしなければならないので……昼食後としましょうか。それまでに、馬の用意を……ヨハンナ」
「わかりました!」
「昼食後ですね、わかりました。レオがいなくても大丈夫でしょうか?」
「昨夜散々脅しておいたので、もう抵抗する気も無さそうです。それに、追跡の魔法をかけるので、例え逃げ出したとしても追う事が可能です」
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