第197話 ワイン輸送の相談もしました



「これは推測も多分に含みますからな。違う可能性もあります。詳しくは、帰ってから屋敷の土を使って調べてみるのも良いかもしれません」

「そうですね。知らないうちに屋敷の土を、使い物にならなくしたなんて事にならないように気を付けます」

「そこは大丈夫でしょう。今まで屋敷の土に異変はありませんでした。日の光を浴びている土ならば、大丈夫だと思いますよ」

「そうですね。一応気を付ける、という事にします」


 とりあえず、土の様子が変わっているかどうかを見るくらいで大丈夫かもしれないな。

 まぁ、周りの草花や土に異変が感じられたら、別の場所で……という事で良いか。


「あとは、何故オークを使って発動できたのか……ですね」

「そうですね。今までは地面に対してしか使えないと考えていましたから」


 問題は、何故オークが死んだのかよりも、何故オークの体を使って『雑草栽培』が発動できたのか、だ。

 植物を栽培するんだから、当然、土のある地面でしか栽培できないものだとばかり考えていた。

 ……生き物相手に発動し、相手の命を奪う事ができる……そう考えると反則級の力のようにも思えてしまう。

 こればかりは、理由を知らないと安心して人に触れなくなる可能性もあるな……。


「発動できた理由……これはわかりませんな……」

「セバスチャンさんでも、ですか?」

「私もギフトに関して全て知っているわけではありませんからな。……そうですな……ラクトスの街でイザベルに聞いてみましょう」

「イザベルさんに?」


 イザベルさんは魔法具の専門家だが、ギフトにも詳しいのだろうか?


「イザベルの知識は広いですからな。それに、ギフトの事を調べたのもイザベルです。何か知っているかもしれません。それに、ガラス球の事で何かわかったのか聞きに行くついででもありますから」

「ガラス球の事……そうですね」


 ガラス球の事を聞くついでに『雑草栽培』の事も聞く。

 ランジ村から屋敷へ帰る途中で、ラクトスの村は通ることになるから、イザベルさんに色々と聞いてみると良いだろう。

 セバスチャンさんの提案に乗る事にして、話を終えた。


「では、おやすみなさいませ」

「はい、おやすみなさい」


 部屋を出て行くセバスチャンさんを見送り、改めて横になって寝る事にする。

 今日は……というより今日も色々な事があった。

 ランジ村に来て疫病に関する事、『雑草栽培』に関する事、それぞれ進展が望めそうで、ここに来たかいがあったな。

 そんな事が無くとも、村の人達をオークから助ける事ができたのが一番だと思うけど。

 ……自分一人の力ではさすがになんともできなかった事を、少しだけ悔しく思いながら、レオやセバスチャンさん達に感謝しつつ、意識が遠のいて行った。



――――――――――――――――――――



 翌日、朝食を頂きながらセバスチャンさんとの相談。

 昨日はオーク達の事や、商人達の事があってすっかり忘れてしまっていたが、買い取ったワインの輸送に関してだ。


「まさかタクミ様がそこまでなさるとは……」

「もったいないと思いまして……勢いみたいなものなんですけどね。何かに利用できないかと」


 セバスチャンさんにワイン樽を買い取った事を説明すると、驚いて言葉を失っていた。

 まぁ、俺がそこまでする事もなかったんだろうけど……できるだけの事をしたかったからな。

 ちなみにレオに朝食を上げるのを忘れないよう、ハンネスさんの奥さんに頼んでソーセージを用意してもらっている。

 好物だからと、いつもそればかりなのはいけないから、野菜を多めに入れたスープも一緒に。


「そうですか……ですがワイン樽の輸送……少々難しいですな……」

「難しいですか?」

「いえ……人や馬車を用意する事で輸送はできるでしょう。しかし……そのためにも一度ラクトスへ行かねばなりません」


 セバスチャンさんに聞いても、すぐにワイン樽を輸送する事は難しいとの事だ。

 そりゃそうだよな……人が持って運ぶ事ができる重さじゃないし、樽を転がして長距離を運ぶのは現実的じゃない。


「人や馬車を用意するためにですか?」

「はい……ですがその場合、数日は必要とするので……」

「ワインの保存期間が……」

「そうです」


 俺が買ったワイン樽は現在、蔵とは別の場所に保管してある。

 誰も使っていない木造りの家で、日が当たらないようになっているが、さすがに蔵とは違い、冷やす事はできないため、保存に難がある。

 瓶に入れられているのなら、数日くらいなら大丈夫だろうが、今は樽のままだ。

 量が量なので移し替える事もできないし……どうしたものか……。


「何かしらの方法で、病の原因を取り除いたとしても……このまま保存されていた場合、味の方がどうなるか……」

「輸送にも数日かかりますしね……」


 ラクトスの街からこの村まで、馬で約3日……荷馬車を率いて来ると考えると、4日から5日くらいだろうか。

 さらにワイン樽を積んで屋敷までとなると、重さも考えて5日以上はかかりそうだ。

 最短でも大体9日から10日はかかるという事だ。

 この村からラクトスまで行く日数を合わせるとなおさらだ。

 荷馬車に乗せて運んでる時は仕方がないとしても、それ以外の期間を放ったらかしにしてしまうと、味が劣化してしまう可能性が大いにある。


「まぁ、そもそも飲めるかどうかわからない物ですからね。味の方は気にしない事にしましょう」

「ワインなのにですか?」

「飲めるように考えますけど、今回の目的はランジ村に不利益を出さない事ですからね。当初の目的は達成されました」

「成る程。でしたら、問題はありません。すぐにラクトスの街へ荷馬車の手配に向かいましょう」


 そう言って、セバスチャンさんはニヤリと笑って家を出て行った。

 何か考えがあるようだが、今の事でセバスチャンさんが楽しむ要素はあっただろうか……?


「……フィリップさん?」

「タクミ様……助けて下さい……」

「どうしたんですか?」


 朝食を終えて、奥さんにお礼を言い、セバスチャンさんを追いかけるために外に出ると、レオの隣に縄で縛られたフィリップさんが転がされていた。



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