第196話 『雑草栽培』の事を聞きました



「……後で詳しく聞いた方が良いですな」

「お願いします」


 『雑草栽培』の話はまた後という事にして、話を終わらせた。

 その後は、宴を開きたそうなハンネスさんを止めて、ゆっくり遅めの夕食を食べて就寝の時間。

 レオは、子供達と遊んだり、用意されたソーセージをたらふく食べて、満足そうに馬達のいる所へと寝に行った。

 今日はありがとうな、レオ。

 おかげで助かったよ。


「ワフ」


 心の中で感謝しただけなのに、離れて行くレオは返事をするように一鳴きしてくれた。

 少しだけ、通じ合ってるような気がして、嬉しい。


「失礼しますよ。おや、もうお休みですか?」

「セバスチャンさん?」


 用意された部屋に戻り、寝るために横になった辺りで、セバスチャンさんが部屋を訪ねて来た。

 ちなみにセバスチャンさんも、ハンネスさんの家で空いていたもう一つの部屋に泊まる事になってる。

 開いていた部屋は一つだけなので、セバスチャンさん、フィリップさん、ヨハンナさんの三人が同室らしいけど、フィリップさんとヨハンナさんは交代で商人達を見張る役割があるので、寝る場所さえあれば十分という事らしい。

 男女同室、という事はあまり気にしてはいないみたいだな。


「こんな時間に、どうしたんですか?」

「先程の話をと思いましてな。『雑草栽培』の事です」

「あぁ、成る程」


 セバスチャンさんは、さっきハンネスさんがいたために話せなかった『雑草栽培』の話を聞きに来たみたいだ。

 顔にははっきりと興味がありますと言っているような、楽しそうな表情を浮かべているので、聞きたくて仕方が無かったのかもしれない。

 セバスチャンさんにとって、こういった知識を得るのは楽しい事なのかもしれない。


「それで、私に聞きたいこととは何でしょうか? ギフトの事に詳しいわけではありませんが……わかる事なら答えますよ」

「そこらの人より十分に詳しいとは思いますが……ええと、『雑草栽培』の事で、ちょっと疑問がありまして……」

「疑問、ですか? それはどんな?」

「『雑草栽培』はその名の通り、雑草を栽培するギフトです。地面に手を付いて、その場所から雑草……薬草等を栽培する事ができます」

「……そうですな」


 今までずっと、屋敷の裏庭で地面に手を付けて『雑草栽培』を使って来た。

 雑草……というより植物の事だから、地面に生えるのが当たり前だと考えていたからだ。

 でも、今回オークと戦っていた時、予想していなかった事が起こった。

 必死だったから、細部までははっきりとしないかもしれないが、その時の様子をできるだけ思い出しながらセバスチャンさんに説明する。


「オークの体……胸のあたりですね。そこに手を付いていた時に、『雑草栽培』が発動したんです」

「オークの……それで、その後はどうなりましたか?」

「いつものように、考えていた雑草……薬草が生えてきました。これがその薬草です」

「見たところ、以前作られた薬草と変わりはありませんな」


 セバスチャンさんにオークを使って栽培した薬草を見せる。

 その薬草は、以前作った時と変わらず、同じ見た目をしているので効果の方もしっかりしてると思う。

 ……オークの体から……と考えて食べるのを躊躇してそのままだけどな。


「……そのオークの方はどうなりましたか?」

「『雑草栽培』が発動して、薬草が生え始めたと同時に死んだように見えました。詳しくどの瞬間に、とははっきり言えませんが……」

「戦闘の最中ですからな、それは仕方ありません。ですが……そうですか……」

「何かわかりますか?」


 オークの状況、薬草の事を聞きながら、セバスチャンさんは考え込む。

 何か、思い当たる事でもあるのだろうか?


「はっきりとはわかりませんが……雑草を始め、植物というのは土から栄養を吸い取っていると考えられています」

「……そうですね」


 正確には、土と光と水や二酸化炭素等、様々な方法でなんだが、それは今言う必要はないだろう。

 土からというのも間違ってないしな。


「もしかすると、そのオークに向かって『雑草栽培』を使った事で、急速にオークから栄養……この場合は体力かもしれませんが……それを吸収した……という事かもしれません」

「オークから……ですが、それだといつも『雑草栽培』を使ってる裏庭は……?」


 裏庭では、今まで散々『雑草栽培』を使って薬草を作って来た。

 栄養を吸い取る必要があるのなら、オークの体力を一瞬で吸い取って殺してしまうくらいなら、裏庭の土は今頃不毛の土となっていてもおかしくない。

 だが、今の所そんなことは無く、俺が『雑草栽培』を使う以外にも他の草花が生えている。


「そこは私にはわかりかねますな……土だから大丈夫なのか……それとも……ふむ……もしかしたら……」

「何か思い当たる事が?」

「オークに対して『雑草栽培』を使ったのは、日が暮れてからですよね?」

「はい」

「もしかしたら、それが原因かもしれません」

「日が暮れている事が、何か?」


 裏庭では日が暮れた後も『雑草栽培』をしていた事がある。

 それが関係するとは思えないんだけど……。


「最近の研究で、植物には太陽の光が必要という事もわかって来たのです」

「……ふむ」


 これはさっき考えた事だ。

 太陽の光でなく、蛍光灯なんかの光でも良いんだが、とにかく光があれば光合成ができる。

 それが植物には必要な事なのは間違いない。


「もしかすると、オークは十分に光を浴びていなかったのかもしれません。屋敷の土は、普段日の光を浴びていますからな」

「日の光……」

「オークは基本的に森等に住みますが……その過程で日の光をあまり浴びないのでしょう。そして、馬車に積まれて運ばれて来たと考えると、日の光を全身に浴びる機会は少なかったと思われます」

「……そうですね」


 でも、日の光をいつも浴びているかどうか、という事は関係あるのだろうか?

 植物に直接日が当たってなければ、光合成とは関係ないように思う。


「土はいつも日を浴びて、日の力を蓄えています。それと違ってオークは日を十分に浴びていないため、日の力を蓄えられていないのかもしれません。そして、日の暮れた後に植物に栄養を吸い取られた事によって、全体力が奪われた……と私は考えます」

「そうですか……」


 俺の考える植物と考えると、セバスチャンさんの推測は違う気もしたが、この世界では魔法等を始め今までとは違った法則があるように思える。

 もしかすると、この世界の植物は本当に、直接光を浴びる事じゃなく、土に蓄えられた日の力を吸い取って成長するのかもしれない……。



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