第195話 クレアさんがセバスチャンさんを派遣したようでした



「レオ様が察知した事の中に、魔物の気配というのがあった様子でしたので、まずヨハンナも一緒に行く事にしました。戦える者がいる方が良いでしょうからね」

「そうですね」

「本当は、さらにニコラも来させようとしたのですが……クレアお嬢様に止められました」

「クレアさんに?」


 ヨハンナさんやニコラさんは、フィリップさんと同じく屋敷で護衛をしてくれる人達だ。

 当然、魔物と戦うという事なら、適役だと思うが……何故クレアさんがそれを止めたんだろう……?


「クレアお嬢様曰く、二コラを行かせてもレオ様程の戦力は期待できないとの事。それよりも、事態の収拾、情報を得るためにも、私が向かう方が良いだろうと……」

「……ふむ……確かにレオが全力で戦うなら、オークは相手になりませんからね」


 実際、レオが助けに来てから、後の事は全てレオがやってくれた。

 誰かが協力してオークに向かう事も無く、多少話をしている間に、あれだけいたオークを全て倒してしまったんだからな。

 それを考えると、確かにその後の事を考えてセバスチャンさんを向かわせるというのも納得できる。

 事態の収拾や、皆が動く指示を出せる人だから。


「タクミ様と話す事も含めて、私が向かった方が良いとの判断でした」

「でも、セバスチャンさんも色々とやる事があったでしょう? 例の店の事で忙しいでしょうし……」

「その辺りは、クレアお嬢様に頑張ってもらう事に致しました。私を派遣する事に決めたのです、このくらいやってもらわねば」


 そう言ってニヤリと笑うセバスチャンさん。

 もしかすると、そうやって代わりに仕事をさせる事で、クレアさんへの教育のようにしているのかもしれない。

 公爵令嬢だからな、多少の仕事はできるようになって欲しいんだろう……元々優秀そうなクレアさんだから、仕事ができない事はないだろうと思う。


「そう言った事がありまして、私もここへ来る事になりました」

「そうですか。……あーでも、駆け付けた時はレオだけでしたよね? セバスチャンさん達は後から来たように見えたのですが……?」


 俺がやられそうになった時、レオだけが飛び込んでオークを倒して助けてくれた。

 その時は目を閉じていたからよくわからないが、さすがにあの瞬間までセバスチャンさん達が乗っていたら振り落とされると思う。

 それに、目を閉じていた俺に最初、声を掛けて来たのはレオだけだったしな。


「私達は、村の少し手前でレオ様から降りました」

「レオから……どうしてですか? そのまま一緒に来た方が早かったのでは?」

「それが……途中でまたレオ様が前よりもさらに戸惑う様子を見せたのです」

「ふむ……」

「村に何かが起こっている可能性を考えて、先に私達はレオ様から降り、レオ様だけで村に向かってもらったのです。その方が、早く着きますからな」


 レオは人を乗せてる時、全力では走っていない。

 乗っている人を振り落とさないように走るのだから、それは当然だ。

 だから、セバスチャンさん達が降りる事で、レオに全力で走ってもらう事にしたんだろう。


「タクミ様や村の様子を見ると、その判断は正しかったようですな。きっとあの時、レオ様はタクミ様の危機を感じたんだと思います」

「……そうですね。おかげで多少の怪我をしただけで助かりました。……さすがに、もう少し遅ければどうなっていたかは……考えたくありませんね……」


 もう少しレオが遅れていたら、オークの攻撃は間違いなく俺の頭に直撃していただろう。

 その後どうなるか……今はあまり考えたくないな……。

 セバスチャンさんの判断と、レオが察知してくれたおかげで、全力で走れたレオはなんとか間に合った、という事だ。


「その後はタクミ様もご存じの通り、私達はレオ様を追ってこの村へ。……クレアお嬢様の予想通り、レオ様だけでオークは全て片付けてしまいましたが……」

「そう言う事だったんですね。色々納得がいきました」

「レオ様は凄い方ですね……主の危機を察知し、それを助ける事ができる……執事として、私共もそうあらねば……」


 レオが俺の危機や村の危機を察知していた事には驚いたが、おかげで助かった……というのは今回だけじゃない。

 いつもレオには助けてもらってるからな。

 それと一緒で、エッケンハルトさんやクレアさん、ティルラちゃんもセバスチャンさんには助けてもらってると思う。


「セバスチャンさんは、十分に執事としての役目を果たしていると思いますよ。……むしろそれ以上に皆助けてもらってると思います。俺もそうですから」


 セバスチャンさんには俺も色々助けてもらっている。

 それと同じで、色々な事に精通しているセバスチャンさんは、エッケンハルトさんを始め、公爵家の皆に重宝されてると思うんだけどなぁ。


「執事として、そうありたいものですな」

「セバスチャンさんなら大丈夫ですよ」


 何故俺がセバスチャンさんを励ます流れになってるんだろうか……あぁ、レオが主人に付いて救うのが素晴らしいという話からか……俺にとっては従者とかそういう感じじゃなく、相棒という感覚だから、セバスチャンさんとはちょっと違うんだよなぁ。

 色々助けてもらってるし、感謝はしてるけどな。

 とにかく、このまま話を続けるのはちょっとな……何かセバスチャンさんに話す事ってあったっけ?

 ……あぁ、そういえば。


「話は変わりますが……セバスチャンさん」

「強引に話を変えましたな。私は執事として相応しくないのでしょうか……?」

「いや、それはもう良いですから」


 俺が強引に話を変えた事はバレバレなようで、落ち込んだ振りをするセバスチャンさん。

 顔を俯かせていても、笑ってる口元は隠せていないですからね。


「……仕方ありません。何でしょうか、タクミ様?」

「仕方ないんですか……まぁ、それは気にしない事にします。ギフトの事で少し聞きたいことが……」

「ふむ……それは今すぐ聞かなければならない事でしょうか……?」


 俺がセバスチャンさんにギフトの事を聞こうとして、ちらりと視線をハンネスさんの方に向けた。


「あ……そうですね……」


 ハンネスさんには、俺はただの薬師として通している。

 ギフトの事は教えていないから、ここで話すわけにはいかないか……。


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