第185話 初めての実戦となりました



「そんな!? タクミ様も一緒に逃げないと!」

「オーク達は人間を見たら必ず追いかけます。誰かが引き付けないと!」


 村には、ハンネスさんを始め、年老いた人もいる。

 それに子供達も同じで、速くは移動できないだろう。

 全員で逃げるとしたら、必ずオーク追いつかれてしまう。

 誰かが囮にならないと……。


「ギュオォアアア!」

「くそ、もう来たか!」


 馬車の方から、1体のオークが俺に向かって走って来る。

 どうやら、陰になっていて光の魔法であまり目を眩ませてない奴がいたらしい。


「タクミ様!」

「早く、ハンネスさん! こいつは俺が!」

「ギュアアアア!」


 雄たけびを上げながら、俺に向かって槍を突き出して来るオーク!

 俺はその槍を横に避けながら、剣を振って突き出した腕を斬り付ける!

 エッケンハルトさんの動きや、レオの動きと比べると、遅すぎるくらいだから、何とか避けられた。

 感覚を鋭くする薬草のおかげで、動きがよく見えたおかげもあるかもしれない。

 初めて魔物と戦うが、さっきまでの商人相手とは違い、今回は思い切り斬り付ける事が出来た。


「ギュア!」


 腕を斬られたオークは、目を血ばらせながら俺を睨む。

 後ろからは、ハンネスさんが走り去る音と、村の中に鐘の音が響いている。

 多分、誰かが危険を報せる鐘を鳴らしているんだろう。

 昔の日本で火事の時、それを報せる鐘の音のようだ。


「ギュオォォォ!」


 目の前のオークが、再び槍で俺を攻撃してくる!

 腕を斬られたからか、さっきよりも速度が無いし、今度は力任せに振り下ろすだけだ。

 さっきよりも簡単に体を動かして避ける事が出来た。


「くそ、初めての戦いがこれか!」


 そんな事を叫びながら、槍を振り下ろした格好のままのオークの頭を剣で斬り付ける。

 オークの頭からは、血が噴き出しているが、不慣れな俺の剣では真っ二つというわけにはいかないようだ。

 ふらついてはいるが、オークはまだ死んではいない。


「こいつ1体に時間をかけてたら不味いな……くそ!」


 ふらついて動きが定まっていないうちにと、オークに向かって剣を振る。

 本来は首を狙ったんだが、避けようとしたオークが動いたため、お腹を軽く斬り付けるだけにとどまった。

 ……こいつに時間をかけてたら、後ろで動き出したオーク達が殺到しそうだ……それは不味い。

 俺なんて、数十のオークに殺到されたら、すぐに殺されてしまうだろう。


「いい加減に、動かなくなれ! よ!」

「ギュ! ギュアァァァァ!」


 狙いを付けず、闇雲に剣を振り、オークを何度も斬り付ける!

 頭から血を流しているオークはきっと瀕死だ……そう考えてひたすら体のいたるところを斬り付ける。

 幾度か剣を振り、やっとの事でオークが地面に倒れて動かなくなる。


「はぁ……はぁ……ようやくか……」


 剣を振っていた事で荒い息を吐く。

 そうこうしているうちに、目を眩まされて動きが止まっていたオーク達が、今にも俺に向かって殺到しそうな様子が見て取れた。

 くそ、時間稼ぎのために、村から離れた場所に誘導しようと思ったが、これじゃ出来そうに無いな……。


「もう一度、光の魔法を使うか……ライトエレメンタル……」

「ギュオァァァ!」


 俺がオーク達を見据え、もう一度光の魔法を使おうと思った瞬間、何処からともなく飛んで来た刃物がオークに刺さった。

 胸に何かが刺さったオークはそのまま倒れ伏し、周りにいたオーク達は何が起こったのかと戸惑っている。


「一体何が……?」

「タクミ様!」


 その光景に、俺も動きを止めると、後ろから声がかかる。

 後ろを振り向いた所にいたのはハンネスさんだ。

 そのさらに後ろには、村人達の姿も見えた。


「ハンネスさん、どうして?」

「タクミ様には、この村を救って下さった恩があります。そんな方を放っておいて、逃げ出すような事は出来ません」

「そうです、薬師様!」

「私達も戦います!」

「見捨てて逃げるなんて出来ません!」


 ハンネスさんを始め、その後ろにいた村人達が次々に声を上げる。

 その手には、村に住むには似つかわしくない、ショートソードやナイフや斧、中には鍬なんかを持っている人もいた。

 俺がオークと戦っている間に、武器を持って集まってくれたらしい。

 それ程長い時間戦っていたわけじゃないと思うが、それでも数人は集まってここに来れたんだろう。


「でも、オークの数が多いんです」

「それでもです。これでも、私達は村を守るため、森の木を伐るため、魔物を倒したりする事もあります」

「そうですよ。それに、さっきの投擲……上手くいったでしょ? 偶然なんですけどね……」

「オークくらいなら、私達も戦えます!」


 村の人達は、ハンネスさんもそうだが、皆戦う気のようだ。

 この村に来る途中、トロルドに遭遇したが……森の中にはオークを始め他にも魔物がいるのだろう。

 森の木を伐ってワイン樽を作っているのなら、魔物とも戦った事があるのかもしれない。

 それは心強いんだが……。

 話している間にも、村の奥から続々と他の人達も集まって来る。

 それぞれ、何かしらの武器を手にして戦う気でいるようだ。


「でも、もし何か被害が出たら……」

「恩人であるタクミ様がやられる事の方が、村にとって大きな被害ですよ」

「そうです! 私達は多少の怪我程度どうって事ありません。それよりも、薬師様に怪我をさせられる……ましてや魔物に殺される何て事があったら……」 

「そんな事になったら、薬師様を遣わして下さった公爵様……何より村を救ってくれた薬師様に申し訳ねぇ!」

「皆……」

「タクミ様、もうあまり時間は無いようです」


 村の皆は、オーク達相手に戦う気でいるようだ。

 それぞれが俺に対し、感謝で奮起してくれるのはありがたいが……なんて考えている間にも、オーク達の戸惑いは収まり、こちらに向かって槍を振り上げ動き出している。

 ハンネスさんに言われてそちらを確認した後、俺も覚悟を決める。


「仕方ありませんね。わかりました、皆で戦いましょう! ですが、皆命は粗末にしないで下さいね!」

「「「おぉぉぉ!」」」


 覚悟を決め、声を張り上げて皆に叫ぶ。

 怪我程度なら、なんとか俺がロエを作れば良いだろうが、死んでしまうとどうにもならないからな。

 ……さすがに、命を吹き返すような薬草は無いだろう……と思う。

 どちらにせよ、誰かが死ぬというのは気持ちの良い事じゃないからな……数十のオークを相手だけど、出来るだけ誰かが犠牲になる事は無いようにと願った。


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