第186話 村人達と協力してオークと戦いました



「ギュオァァァ!」

「俺達だって、戦えるんだ!」

「2、3人で組め! 1人でオークと戦おうとするんじゃないぞ!」


 戸惑いから立ち直ったオーク達が突撃して来る。

 数体は、馬車に繋がれて逃げられなかった馬に群がり、槍を突き刺したりしているが、半分以上はこちらに向かって来ている。

 ……馬はかわいそうだと思うが、おかげで少しだけこちらに向かう数が減ってくれた。


「オークは基本的に真っ直ぐ突進して来るだけです! 槍を避けてから攻撃して下さい!」


 さっきもそうだったが、真っ直ぐ標的に向かって来るだけのはずだ。

 冷静に見ていれば、避ける事はそう難しい事じゃないだろう。

 村人達は数人で1体に当たる気のようだから、槍を避けてしまえば戦闘に慣れて無い人でも何とか戦えると思う。


「ギュア!」

「よし、今だ! せい!」

「木の伐採で慣れた斧だ! そりゃ!」

「森での魔物退治もあるからね、オークなんて!」


 入り口の端では、一番早くこちらに到達したオークが、村人達に槍を避けられ、その隙に囲まれて多様な武器で攻撃されている。

 ……森で魔物と遭遇する事があっても、今と同じように複数で対処しているんだろう、その連携は慣れてる感じがする。


「俺も、負けてられないな! は!」


 直線で俺に向かって突撃して来たオークが、槍を突き出して来たのを避け、さっきと同じようにその腕を斬り付ける。

 槍を持ってる腕を斬ってしまえば、あまり怖くないからな。

 ただ、俺の腕が未熟なのか、腕を斬り落とすまでは出来ないが……。


「はぁ……はぁ……」


 向かって来るオークを1体、2体となんとか倒していく。

 オークの動きがそれ程早くない事と、感覚を鋭くさせる薬草の効果のおかげで、何とか対処出来ているが、さすがに息が上がって来た。

 鍛錬不足というより、慣れない戦闘のせいもあるんだろう。

 それに、剣をずっと振り続けるなんて、素振り以外じゃ無かった事だからな。

 素振りと違って、体も動かし続けていなければいけないし、疲れるのは当然早い。


「まだ……いるのか……」


 俺の周りでは、それぞれ村人が何体かのオークを倒しているが、それでもオークの数は半分にもなっていない。

 俺もそうだが、村の皆も息を切らせている。


「……疲労回復の薬草を……そんな暇はない……か!」


 疲労回復の薬草を皆で食べる事が出来れば、疲れに構わず戦う事が出来るはずだが、そんな余裕は無い。

 そろそろ馬の方に群がっていたオーク達も、こちらに向けて移動し始めた。

 数としてはこちらの方が多いが、オークの勢いに押されつつある状況で、悠長に薬草を分ける時間なんて無いからな。

 そうしてる間にも、俺にむかってまた1体のオークが突撃して来た。

 そのオークに剣で切り付けつつ、呟く。


「せめて、身体能力を上げる薬草があればな……」


 劇的に動きが変わると言う事はないが、それでも今よりオークの対処は楽になるだろう。

 俺も含めて、村人達の分も身体強化と疲労回復が出来ればどんなに楽な事か……まぁ、今はそんな事を考えても、無い物ねだりだし、『雑草栽培』に頼り過ぎ……なのかもしれない。

 今は、この状況をどうやって切り抜けるかが重要だな。


「はぁ……はぁ……いい加減に……倒れろ!」


 オークの足を斬り付けて、地面に転がす。

 起き上がろうともがくオークに剣を突き刺して止めを刺す事は忘れない。

 ……初めての戦闘だが……俺も随分とこういうことが出来るようになって来た。

 慣れて来てると言う事なんだろうけど、それでも頭の片隅では躊躇する感覚はある。

 今は無視してるけどな。


「ギュオォォォ!」

「ぐあ!」

「おい! ちくしょう!」

「この!」


 俺の近くで、一人の村人がオークの血で足を滑らせ、その隙を突かれて槍で斬られたのが見えた。

 周りを囲んでいる村人で、そのオークは斬り付けられる。

 斬られた村人は、命には別状はないようですぐに立ち上がったが、腕を怪我したようで剣を持てないでいる。

 そろそろ村人にも怪我人が出始めたか……。


「危ない!」


 俺からはよく見える位置、だが村人からは死角になっている位置から、オークが槍を振り上げようとしているのが見えた。

 思わず声を上げたが、村人の方は、オークに標的にされている事に気付いておらず、怪我をした事に気を取られている!


「くそ! 間に合え!」


 そう吐き捨てて、俺は村人の後ろ、槍を振り下ろそうとしているオークと村人の間に剣を伸ばす。

 ガキンッ! という音を立てて、剣と槍がぶつかる。

 その音で、怪我をした村人はようやく気付き、一緒にいた人達もオークに武器を向けた。


「薬師様! この!」

「えい!」

「ギュア!」


 オークに気付いた二人が、槍を振り下ろす格好になっているオークに対して武器を振るう。

 何度か切り付けられたオークが、ようやく地面に倒れた。


「大丈夫ですか、薬師様!」

「俺は大丈夫です。そちらは?」

「ありがとうございます。薬師様のおかげで何とか……ですが、怪我で剣が……」

「無理はしないで下さい。剣が持てないなら、すぐに下がって! 怪我で済む程度なら、後で俺が治療しますから!」

「……薬師様……わかりました。ここにいては足手まといでしょうから……すみません」


 怪我をした村人は、俺の言葉で後ろに下がってくれる。

 怪我をして戦えない人を守りながらだと、随分難しい戦いになるだろうからな。

 怪我をしたって程度なら、後でいくらでも俺がロエを使って治せるはずだ。


「ギュォォォォ!」

「くそ!」


 先程オークを倒した村人は、他のオークに。

 そして俺には別のオークが槍で突いて来るが、それを何とか避ける。

 だが、俺にはもう避けた隙に攻撃する事は出来なかった……。


「こんな時に、剣が!」


 さっき、村人を守るために槍を受けた剣が、真ん中あたりからぽっきりと折れていた。

 セバスチャンさんにもらった剣だが、鍛錬でずっと使って来たからな……もう寿命だったのかもしれない。

 さっきからなんどもオークに向かって振るって来て、骨に当たったりしているから、こうなるのも仕方がない。

 まぁ、俺がしっかり扱えてないと言う事もあるのかもしれないが……。



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