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第182話 いつもの商人とは別の商人が来ました
第182話 いつもの商人とは別の商人が来ました
「……いつもなら来ている頃なのですが……何かあったのでしょうか……?」
ハンネスさんの家の居間、昼食を食べてしばらくした頃。
いつもなら既にブドウを持った商人が来ていてもおかしくないらしいのだが、現在まだ到着していない。
「今まで、遅く来る事はあったんですか?」
「少し遅くなることはありましたが……ここまでの事は一度も……」
もう少ししたら、日が暮れ始める頃だ。
昼に来る予定から遅れるにしては遅すぎる。
途中で何かあったのだろうか……?
「村長、商人さんが来たよ!」
「おぉ、そうか。何事も無かったようだな」
この村に来る途中で何かあったのかと心配していると、外からライ君が報せに来てくれた。
どうやら、無事に商人は到着したようだ。
……何故ここまで遅れてしまったんだろう?
「でも村長、いつもの商人の人と違うみたいなんだ。確かにブドウは持って来てるんだけど……」
「どういう事だ、ライ?」
「俺にはよくわかんないよ。今、父ちゃんが村の入り口で対応してる」
「見た事の無い人なのかい、ライ君?」
「ううん、前に一度だけ見た人だよ。でも、いつもの商人さんじゃないんだ」
ライ君達親子は、村の入り口から一番近い場所に住んでいる。
だから、村の出入りを管理するような事をしているみたいだ。
それはともかく、今回来た商人はいつもの商人じゃないらしい。
……一度だけ見た事のある商人という事は……?
「ハンネスさん、もしかしてその商人って……?」
「……あのガラス球を置いて行った商人かもしれません。あの商人は一度だけこの村に来ました……それに、ライもその姿は見ているはずです……」
ハンネスさんに近寄って、内緒話でもするかのように話し合う。
ライ君が言うには、以前に一度だけ見た事のある商人という事……子供の記憶力は侮れないからな……多分、その商人がガラス球を持って来た商人だろう。
しかし……何故またこの村に来たのか……追加でガラス球を持って来た? それとも、病の広がりを確認しに来た……?
なんにせよ、ここで考えていても仕方がない。
実際にその商人が来たというのなら、本人に聞けば良いはずだ。
「ハンネスさん、商人に会うように言いましたが……俺は少し隠れておきます。もしかしたら村人とは関係ない人間がいる事で、怪しまれるかもしれませんので」
「わかりました。それでは、まず私が対応してみます」
「病の事や球の事は知らないふりをしてくれるとありがたいです」
「……わかりました」
ハンネスさんと軽く打ち合わせのような事をして、家を出る。
怪しまれず、話が聞こえるくらいの場所で隠れていれば、何か商人が話すかもしれない。
俺がいる事で怪しんで口をつぐんではいけないとの考えだ。
途中でハンネスさんと別れ、村の家を迂回して別の方向から入り口へと向かった。
「この位置なら、何とか会話が聞こえる……かな……?」
ライ君の家の陰、村の入り口が見える場所に潜む。
幸い日が暮れ始めているので、辺りが薄暗くなって来て俺が見つかる可能性も少ないと思う。
……スニーキングミッション、なんて大層なものじゃないが、あの手のゲームならやったことはある。
まぁ、素人のすることだから完全じゃないけどな。
「あ、そうだ……あれが使えるな」
俺は鞄から、以前作ったままにしておいた薬草を取り出す。
フェンリルの森で、クレアさんやセバスチャンさん達に食べてもらった、感覚を鋭くする薬草だ。
これがあれば、離れてる場所の会話も、少しは聞きやすくなると思う。
「……ん……相変わらず不味いな……でも、おかげで聞こえやすいぞ」
薬草を食べてすぐに効果が表れる。
さっきまで聞こえていなかった、遠くから人の足音や、馬の嘶きだけでなく、馬車の物と思われる木が軋む音すら聞こえる。
これなら、ハンネスさん達が話すのも聞こえそうだ。
「……どういう……? 確かに私は…………だが……」
村の入り口の方から、男が呟く声が微かに聞こえた。
小さく呟いただけなので、感覚を鋭くしても何となくしか聞こえない。
この声は恐らく商人の声なんだろうが、何となく戸惑っている様子に聞こえた。
空は少しづつ暗くなって行くが、薬草のおかげで問題無く見える。
村の入り口には、遠目だからはっきり見えないが、数人の人がいるようだ。
「あれはライ君の両親か……離れているあの男がさっき呟いたのか」
村の入り口で、村側に立っている男女がライ君の両親だ。
その前に1人の男が立って、遅れた理由なんかを説明しているようだ。
そこから数歩程離れた場所にもう一人男が立っていて、その男が何となく聞こえた声を出した人物だと思われる。
離れた場所にいる男は、ライ君の両親とは話さず、村の様子を窺っているように見えるが、表情や顔が見えないため、何を考えているのかはわからない。
その男からさらに離れた場所、フィリップさん達が乗って来た馬がいる場所の近くに、何台かの馬車が見えた。
幌馬車……かな……?
俺がクレアさん達と移動する時に乗った馬車とは違い、大きな幌が張ってある馬車だ。
その馬車に、村に卸すブドウなんかが積まれているんだろう。
「けど、何かおかしな感じがするな……」
こういう時、レオがいてくれれば人間よりよっぽど鋭い感覚で、色々と教えてくれるんだが……いない物は仕方ながない。
セバスチャンさんに報せに行くという重要な役目をお願いしてるんだしな。
「……お待たせしました」
そんな事を考えているうちに、ハンネスさんがゆっくりと村の入り口に歩いて来た。
俺が小走りで移動したのもあるが、ハンネスさんは俺が迂回する時間を稼ぐため、ゆっくり移動してくれていたらしい。
ちらりとハンネスさんがこちらに視線を向けるが、バレる可能性があるから、それは止めた方が良いですよ?
「申し訳ありません。村に着くのが遅れまして……途中、馬車の車輪がぬかるみにはまりましてな……」
「それはそれは、大変だったでしょう……」
離れていた男が、ハンネスさんが来た事で、もう一人の男のいる場所へ行き話始める。
その男は、もう一人の男がライ君の両親に説明した事をハンネスさんに伝える。
どうやら、村への到着が遅れた理由は、車輪がぬかるみにはまったかららしい。
重い荷物を載せた馬車だ、ぬかるみにはまってしまったら、抜け出すのも一苦労だろう。
男の言う通りであるなら、それに時間を取られて到着が遅れた事も頷ける。
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