クリスマス特別編 メリークルシミマス?



 このお話は、クリスマス特別編となります。

 本編とは一切の関係が無い、おまけ的な内容になっておりますので、ご了承下さい。

 登場人物の発言が本編とかけ離れている場合もあります。





「タクミさん! 起きて下さい!」

「ふぉ!?」


 バン! と開けられた部屋のドアからティルラちゃんが飛び込んで来た。

 ……いつの間にか寝ていた俺は、ベッドから飛び起きる。


「見て下さい! 可愛い服です!」

「……ティルラちゃん……それをどこで……?」


 寝起きでまだはっきりしない頭を振りつつ、飛び込んで来たティルラちゃんを見る。

 俺の前まで来て胸を張るティルラちゃんは、真っ赤な衣装を着ていて、ご丁寧に赤い帽子まで被っている。

 ……白いひげは……さすがに付けていないけどな。


「今日はクリスマスという日らしいのです。この日は可愛い服を着て皆で祝うと聞きました!」

「クリスマスかぁ……こっちにもあったんだな……」


 クリスマスというのは、とある人物が生まれた事を祝う誕生祭……降誕祭だったか……? まぁ、どっちでも良いか。

 日本だとカップルで祝うお祭りとして、盛大に盛り上がるイベントだが……こちらの世界でも同じような催しがあるんだな。

 ……誰の誕生祭だろうか……?


「どうですか、この服! 可愛いでしょう?!」

「……そうだね。可愛いよ。赤い髪が帽子と合ってて良いね」

「やった! タクミ様に褒められました! ポイントゲットです!」


 満面の笑みで、サンタ衣装に身を包むティルラちゃんは確かに可愛い。

 出来れば写真に撮っておきたいぐらいだが……ここには無いか、仕方ない。

 しかし、ティルラちゃんが言うポイントとは何の事だろうか……?


「ティルラずるいわよ! 抜け駆けしてタクミさんに褒めてもらうなんて!」

「早い者勝ちですよ、姉様! タクミ様に褒めてもらいました!」

「くっ……遅れてしまったものは仕方ないわ……ここからは私の攻勢よ! どうですかぁ……タクミさぁん」

「えっと……クレアさんも……ですか?」


 ティルラちゃんを咎めるように叱りながら、部屋へと駆け込んで来るクレアさん。

 クレアさんまでも、ティルラちゃんと同じように赤い服に赤い帽子のサンタ衣装だ。

 そのクレアさんに対して、ティルラちゃんは自慢気な様子で勝ち誇っている。

 なんだろう、いつもよりティルラちゃんの様子がおかしい気がする……姉であるクレアさんに勝ち誇ったりするような子じゃないはずなんだが……でも、そんな様子も衣装と相俟って可愛い。


 しかし、おかしいと言えば、クレアさんの方もおかしい気がする。

 クレアさんと言えば、公爵令嬢であり、淑女のように振る舞う品のある女性だ。

 なのに今は、胸元をはだけて大きめのお胸様を主張させるようなポーズをしている。

 しかも、スカートが短い……ティルラちゃんは足首近くまである長さなのに、クレアさんの方は眩しい太ももをこれでもかと出している……。

 どうしたと言うんだろう……クレアさんはこんな事をする人じゃなかったはずなのに……。


「どうですかぁ? タクミ様ぁ?」

「ク、クレアさん? 一体どうしたって言うんですか?」

「どうしたも何も無いですよぉ。タクミ様に褒めて欲しくて……私……」


 しなをつくって俺に衣装……というより体を見せつけるように迫るクレアさん。

 褒めるも何も、いつもと違い過ぎて戸惑う事しか出来ない。


「どうなんですかぁ?」

「えっと……いや、まぁ、可愛いですよ、クレアさんも」

「綺麗ですかぁ?」

「も、もちろん綺麗です」

「よっしゃ、ポイントゲット!」

「姉様、それはずるいです! タクミさんにそんなに迫ったら、優しいタクミさんにはそう答えるしか出来ないじゃないですか!」

「抜け駆けしたティルラに言われたくないわよ!」


 いつもと違う様子のクレアさんに迫られ、戸惑いつつも可愛いと言ってしまう。

 いや、確かに可愛いし綺麗なんだけど……金髪と赤い衣装が良いコントラストとなっていて似合っているが……いつものクレアさんと違い過ぎて何が何だか……。

 ガッツポーズをしているクレアさんを責めるティルラちゃんだが、クレアさんの方も負けじと言い返している。

 普段はこんな言い合いなんてしないよなぁ?

 しかし本当にポイントとはなんだろうか……?


「クレアお嬢様、ティルラお嬢様、品の無い行動は慎んで下さい」

「……ライラさん?」

「失礼ね、私は十分に品があるわよ!」

「私もです!」


 いつもと違う様子の二人をたしなめる声が部屋の外から聞こえる。

 声からしてライラさんだろう。

 ライラさんなら、いつもきっちりとしている人だからこの良くわからない状況を収めてくれるだろう……。


「失礼します……タクミ様……」

「え?」


 期待したのも束の間。

 部屋に入って来たライラさんもサンタ衣装を着ていた。

 ただ、クレアさん達と違うのは、赤い衣装の上に赤と白の腰エプロンをしている事と、帽子では無く赤いメイドカチューシャだ。

 ……メイドとしての矜持なのだろうか……?


「その……どうですか……タクミ様?」

「貴女も十分品が無い事を聞いてるじゃない、ライラ」


 ライラさんは、クレアさん達を余所に、恥ずかしそうに短いスカートの裾を握って露出部分を隠すようにしている……エプロンはスカートの裾より上までしかないので、隠す役割はしていないようだ。

 だけど、クレアさん達と同じように俺に感想を求めるのは変わらないのか……。


「私……頑張りました……どう、でしょうか?」

「……ゴクッ」


 首まで赤くしながら恥ずかしがっているライラさんは、今まで見た事が無いくらいに可愛い。

 クレアさんよりも大きなお胸様が、赤い衣装をさらに押し上げている様子も相俟って、思わず唾を飲み込んでしまった……何なんだろう、この状況。


「……駄目ですか……?」

「いえいえ、そんな事はありません! 凄く可愛いですよ!」


 首まで赤く染めて恥ずかしそうにしながら、潤んだ目で見られ、思わず勢いを付けてライラさんに可愛いと言ってしまった。

 間違いではないのだが、戸惑うばかりだった今までと違って前のめりに言ってしまった事を少し後悔する。

 ちょっとだけ恥ずかしい。


「よーし、ポイントゲットォ! しかも勢いもあったから、ポイントは高いですよぉ!」

「ライラ……貴女、そんな演技までして……」

「ずるいです! ずるいです!」

「ふふふ、勝てばよかろうなのですよ」

「……えっと……?」


 思わず可愛いと言ってしまった俺の言葉を聞いて、途端にガッツポーズをして雰囲気が変わるライラさん。

 いつも落ち着いた人なのに……こんなテンションの高い一面があったのか……。

 クレアさんはライラさんをジト目で見ていて、ティルラちゃんはひたすらずるいの連呼だ。

 本当、何なんだろう……この状況は……?


「ワフー!」

「はっ、この声は!?」

「まさか、レオ様!?」

「不味いです!」


 騒いでいる三人を見ていると、今度は外からレオのものと思われる声が聞こえて来た。

 その声に焦りを浮かべる三人。

 ……レオが来て焦る事があるのかな?


「ワフワフ!」

「キャゥー!」

「〇□%×$☆♭#▲!!」


 シェリーの声と共に、部屋に飛び込んで来たレオを見た瞬間……俺は声にならない声を上げた。


「ワフゥ?」

「キャゥキャゥ!」


 先に部屋へ来ていた三人を大きな体で押しのけ、レオが俺に近づいて来る。

 そのレオは、他の三人の例に漏れず赤い衣装を着ており、さらにご丁寧に足先にまで赤と白の靴下を履いている。

 しかも、いつもは背中に乗ってご満悦のシェリーが今はレオの頭の上に手足を伸ばして乗っかっており、大きめの赤い帽子を被って目を覗かせている。

 その様子は、レオが犬型の帽子を被っているようにも見えて、非常に可愛い。


「レオ……お前……」

「ワフ?」

「キャゥ?」


 レオとシェリーの様子に、中々声が出ない俺。

 そんな俺に対し、レオが声を出しながら首を傾げ、それに合わせるようにシェリーも首を傾げた。

 その様子を見て、俺の中の何かが弾けた!


「うぉぉぉぉ! レオ、可愛いぞ! シェリーも可愛いな! 凄いなー可愛いなー! こんな可愛い生き物がこの世にあって良いのかー!」

「ワッフッフ」

「キャゥッフッフ」


 興奮が頂点に達した俺は、とにかくレオが可愛いと言う事を叫び続ける。

 そんな俺を見て、レオもシェリーもしてやったりという表情をしている気がするが、それすらも可愛いから反則だ。


「くっ……やはり……」

「無類の愛犬家であるタクミ様には、やはりこれですか……」

「私もレオ様に乗っていれば良かったです……」


 何やら悔しそうな声を漏らす人たちがいるが、俺は今そちらに構っていられる余裕は無い。

 レオが可愛過ぎてどうにかなってしまいそうだ……。

 モフモフに赤い衣装を着ているレオに抱き着きながら、夢見心地の俺。


「この勝負、レオ様とシェリーの勝ちのですね」

「そのようですね……頑張ったんですが……」

「悔しいです」

「お待ち下さい! まだ我々が残っておりますぞ!」

「そうですぜ、アニキ!」


 皆が何の勝負をしていたのか、俺にはわからないが……こんなに可愛いレオがいるのならレオの勝ちで良いだろう。

 そう満足していると、今度はセバスチャンさんとニックの声がして、赤い影が二つ、俺の前に舞い込んで来た。

 ……しかし、その瞬間……部屋の中の空気がはっきりと凍り付いた。


「どうですかな、タクミ様!」

「アニキ、俺頑張りました!」


 部屋に舞い込んできた二人は、何と言ったら良いのだろう……言葉に言い表す事すら躊躇われる姿をしている。

 いや、格好自体はクレアさん達と同じ赤い服に帽子なのだが、問題は下部分。

 クレアさんやライラさんと同じように短いそのスカートは、筋肉質な男の太ももを惜しんで欲しいくらいにさらけ出している。

 しかもその足……成人男性ならほとんどの人が生えているはずの毛が一切生えていない……。

 もしかして、このために剃ったのか?

 しかも、唇には真っ赤な紅を塗って化粧をしている。


「ほら、どうですかタクミ様。ご評価を! さぁ!」

「アニキ!」

「いや、ちょ……ま……」

「……セバスチャン……そんなに思い詰めて……」

「二人共……見苦しいですね……」

「私は見て無いのです。これは見ちゃいけない気がします」

「ワフ……」

「キャゥー……」


 セバスチャンさんとニックの二人は、化粧をした顔……紅を塗った唇を差し出しながら俺に詰め寄って来る。

 レオに抱き着いていた俺は、背中をレオに阻まれて後ろに下がる事が出来ない。

 なんとか後ろに下がろうとするが、迫って来る二人を見て呆れた様子のレオとシェリーが動いてくれないため、逃げられない。

 頭の中で、「魔王からは逃げられない」とか言うフレーズが浮かぶ。

 そうこうしている間にも、俺へと唇を出して迫って来る二人。


「ちょ、ちょっと……ま……」

「さぁ、タクミ様、勇気を出して!」

「アニキ! さぁ! さぁ! さぁ!」

「ま……て……うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 視界いっぱいに埋め尽くされるセバスチャンさんとニックの顔……もとい唇。

 思わず叫ぶ俺……。




「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………あ?」

「ワフ?」


 叫んだ状態でふと正気に戻る。

 目の前には、迫り来る爺さんとスキンヘッドは見えない。

 横でレオが首を傾げるように声を上げたような気がした。


「……夢……か……?」

「ワフワフ?」

「あぁ、レオ」


 正気に戻って状況を理解するに、今俺は起きたばかりのようだ。

 ベッドに横になって体を起こしている状態で、窓からは朝日が差し込んでいる。

 体が汗だくになっているのを不快に思いながら、何事かと顔を寄せて来ていたレオを撫でて落ち着きを取り戻す。


「酷い夢を見た……何だったんだ……あれは」


 ティルラちゃんやクレアさん、ライラさんが赤い衣装を着て、何故かに俺に感想を求めて来る。

 レオとシェリーが可愛かったのは確かだが、皆の様子がおかしかったのは、間違いなく夢のせいだろう。

 その後の事は……夢で良かったとしか考えられないな……あまり思い出したくない。


「……夢で残念な部分もあるが……やっぱり夢で良かった……」

「ワフワフ」


 レオの顔を撫でつつ、ベッドから起き上がる。

 残念な部分も確かにあったが、思い出したくない部分も考えると、夢で良かったと思うべきだろう。

 そもそも、この世界にクリスマスなんてあるわけがないんだから、夢で当然なんだよな。


「はぁ……ん?」


 ベッドから起き上がった後、ふと今まで寝ていた場所に違和感を感じる。

 いつもは置いてない物があるような……?


「赤い……靴下?」


 今まで見た事が無い物が、俺の寝ていた場所の枕元に置いてある。

 いや、見た事があるな……さっき見た夢の中でレオが履いていた靴下だ。

 ……え?


「これがあるって事は、もしかして……夢じゃない……?」


 脳裏に夢の後半……悪夢と言える部分が再生される。

 もし……あれが夢でなかったとしたら……。


 コンコン。


 俺が靴下を見て戦慄している時、部屋のドアがノックされた。


「タクミ様、おはようございます」

「ひっ」


 部屋の外から、ノックと共に聞こえて来た声はセバスチャンさんだった……。

 夢か現か……俺には判断は出来そうに無かった……。


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