第166話 病気に罹った人達にラモギを使いました



「レオ、すまないが少しだけフィリップさんと一緒にいてくれ。フィリップさん、お願い出来ますか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「ワフゥ……」

「あ……」


 ライ君に怖がられてたら話が進まないからな。

 フィリップさんに頼んで、レオの相手をしてもらう事にした。

 家から離れて行くレオを見て、ライ君は何か言いたそうにしていた……これならすぐにレオへの恐怖心は無くなりそうだな。


「ハンネスさん、まずはこの子の両親にラモギをあげたいのですが」

「わかりました。ライ、家の中に入るよ? 両親に薬を飲ませないといけないからね」

「うん、わかった。お願いします、薬師様!」

「あぁ、ちゃんと病気を治してみせるよ」


 期待してる子供の前で、弱気な姿は見せられない。

 ライ君が目を輝かせて見るのに、頷いて答えた。


「うん、これは確かに以前見た病気と一緒だ。これならラモギですぐに治りますよ」

「そうですか……それは良かったです」

「父ちゃんも母ちゃんも、治るんですか?」

「すぐに良くなるよ」


 家の中に入り、二人の男女が寝ている寝室に案内される。

 ライ君の両親は、孤児院で見た子供達と同じ症状に見える。

 熱があって、咳をする……やっぱり風邪とそっくりだ……似たようで違う病気もあるかもしれないが、俺にはそう見える。

 ライ君を安心させるように頷いて、持って来ていた荷物の中からラモギを取り出す。


「これを飲ませてあげて下さい」

「はい。ライ、水はあるか?」

「すぐに汲んでくるよ!」


 ライ君が水を木の器に入れて来るのを待って、両親にラモギを飲ませる。

 乾燥したラモギは粉末で、長い間下がらない熱で意識が朦朧としていて、咳をする二人に飲ませるのは一苦労だったが、孤児院で子供たちに飲ませる所を見ていた経験が生きた。

 背中を支えて上半身を起こさせ、口を開けてもらってラモギを水と一緒に飲ませる。

 粉末が口に入った瞬間に咳き込みそうになったが、何とか我慢してもらって飲み込ませた。

 咳をしたら、粉末のラモギが口から飛散するからな。


「あぁ……体が楽に……」

「凄いですね! こんなに早く治るなんて!」


 ラモギを飲ませて数分、様子を見ていた俺達の前でライ君の両親はみるみるうちに熱が下がって行った。

 子供達の時もそうだったが、薬を飲んですぐ効果が出るのは、ちょっと驚く光景だな。

 日本での風邪だと、風邪薬を飲んでも、安静にして寝ていないと治らない。

 ヨモギと同じ形のラモギが強力という事なのかもれない……アロエそっくりのロエが、日本では考えられないくらい簡単に傷を治せるというらしいし……あちらとこちらでは、薬草の効果の出方が違うのかもしれないな。


「ありがとうございます。なんとお礼を申し上げれば良いのか」

「私も夫も、先程までの苦しみが嘘のようで……タクミ様、本当にありがとうございます」

「お礼はそこまでで結構ですよ。本当にお礼を言うべきは、遠いところを助けを求めに来たハンネスさんと、ロザリーちゃんにしてあげて下さい」

「私共はそんな……」

「村長、ロザリーちゃんも、ありがとう」


 ラモギの効果で、すぐに良くなった二人は俺に対して感謝しきりだ。

 確かにラモギを用意したのは俺だが、一番の功績はハンネスさん達だろう。

 ハンネスさん達が屋敷まで助けを求めに来なければ、病気に罹った人達が弱って行くのを、俺やクレアさんも知らずに過ごしていただろうから。

 ハンネスさんは謙遜してるし、ロザリーちゃんは照れ臭そうにしてるけど。


「それじゃハンネスさん、これがここに来るまでに用意したラモギです。村で病気に罹ってる人達に分けてあげて下さい」

「あの短時間でこんなに……私が持たされたラモギと合わせれば、村に行き渡る量に見えます。本当に、本当にありがとうございます!」


 荷物の中から、布に包んであるラモギを取り出し、ハンネスさんに渡す。

 途中で合流する予定じゃなかったから、ハンネスさんにも多少のラモギを持たせてある。

 屋敷にいる時、ちょっとだけ無理をして用意したからなぁ。

 ライラさん達には心配をかけてしまったようだけど、これでこの村の皆が助かるのならその甲斐もあったと思う。


「もし足りない場合は言って下さい。すぐに用意しますので」

「すぐに用意とは、どのような?」

「まぁ、ちょっとした方法があるので……」


 ハンネスさんには、俺が『雑草栽培』というギフトが使える事は伝えていない。

 知る人は少ない方が良いという、公爵家の考えなんだが、俺もそう思う。

 だから、俺が異常な速さでラモギを用意出来た事にハンネスさん達が疑問を感じても、何とか誤魔化さないとな。


「今はそんな事よりも、村の皆の病気を治す事が先決ですよ。今も苦しんでる人達がいるんですから」

「そうですね。わかりました。タクミ様には、なんとお礼を申し上げれば良いのか……ともあれ、まずは村の者達にラモギを渡して来ます」

「私も手伝います!」

「私達も、村の皆に渡して来ます!」

「俺も、俺も手伝うよ!」


 強引にでも、話を逸らしてラモギを病気の人達へ持って行く事を優先させる。

 実際、病気で体が弱ってる人もいるだろうから、早くラモギを飲ませるに越したことは無いだろう。

 ハンネスさんがラモギを持って立ち上がったのを見て、ロザリーちゃんやライ君の両親も手伝い始めた。

 ライ君もそれを見て手伝うようだ。

 自分達の住む村の皆が苦しんでるんだ、早く何とかしたいんだろうと思う。


「ワフ!」

「レオ、済まなかったな。ライ君が怖がってたから離れさせてしまって」

「ワフワフ」

「フィリップさんも、ありがとうございます」

「いえ、レオ様はいつもおとなしいですからね。のんびり待ってただけですよ」


 ラモギをハンネスさん達に任せ、俺はライ君の家を出てフィリップさんと待ってるレオの所へ戻って来た。

 ライ君が怖がるのもあるが、レオの大きさだとあの家に入らなかっただろうから、ここでおとなしく待っててくれて良かった。

 レオに謝りつつ、体を撫でてやる。

 フィリップさんにもお礼を言うが、レオがおとなしくてむしろ手持無沙汰だったみたいだ。


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